第三十八話 苦悩と閃き(夏向視点)
ここ最近、新太の様子がおかしい。
少し前までは、ぼくの方からベタベタくっついたって、めんどくさそうな顔をするだけでそのまま放っておいてくれたのに、最近では露骨に避けているように思える。
理由はわかってるんだ。
夏祭りのときに何かあったに違いない。
どのタイミングがキッカケなのかハッキリ言えないけど、たぶん、小学生からナンパされてるところを助けてくれたあたりから、新太がとてもそわそわし始めたように思えた。
新太は……ぼくが女の子だってことに、気づき始めてるんじゃない?
そうとしか思えないよ。
新太がああいう風になるのって、自分の近くに異性がいるって認識したときだ。
ぼくは、新太が女性が近くにいるときに大慌てになっちゃうところを、この目で見て知っているんだから。
「……女の子だってわかってもらいたかったけど、新太が混乱するんじゃ意味ないんだよ」
部屋のベッドに寝転んだぼくは、枕にチョップをして苛立ちと不安を紛らせようとする。
「このままじゃ、新太とまた疎遠になっちゃうかもしれない……」
ぼくは無理なく自然なかたちで、新太に女の子だってわかってもらいたかったから、新太の負担になるんだったら、これまでと同じようには近づけなくなっちゃう。
ぼくだけが持っていたアドバンテージが消えちゃうってことだから。
「やだなー、新太と遊べなくなっちゃうの。お隣さん同士なのに、会うのを我慢しないといけなくなるなんて」
とりあえず今は、極端に近づくことさえしなければ、新太だってこれまでと同じように接してくれる。
だから今のうちに、どうするか考えないといけないんだけど……。
「でも、ぜーんぜんいいアイディアなんて思いつかないし」
どうしようもできなくて、ベッドをゴロゴロしていると、部屋の奥に置いているモニターが目に入った。
もう一度ローリングすると、その隣へ視線が映る。
ぼくの推しチームであるナッツィオナーレ
「そうだ、今週末の日曜日には……」
ぼくの推しチームで、新太の推しチームでもあるナッツィオナーレ八知又の試合がある。
新太との関係を修復するのに大事なのは、夏祭りに代わるインパクトのあるイベントなんじゃない?
「ちょうど今週末の試合はアウェイ戦」
観戦するには他県へ行く必要があるんだけど、日帰りで行ける距離だから、泊まりの必要がない小旅行って考えれば、非日常を味わえるイベントでありながら新太を説得しやすいかもしれない。
名案を思いついたぼくは勢いよくベッドから立ち上がって、隣の新太の部屋を目指した。
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