#7

追憶のボーイミーツガール ①

 翌日、俺は取り乱して葬儀にも出なかったフェキシーの部屋を訪ねた。


「……飲み物を持ってきた」


 ノックしてそう言うと、しばらくしてドアが僅かに開いた。


「ありがと。入って」


 フェキシーの部屋にはソファと液晶テレビ、ベッドくらいしか主だった家具はなく、意外とものが少なかった。小さな収納カゴにはいくつかの美術書が入っている。


「悪いけど、話す気分じゃないから……」


 フェキシーはそう言ってソファに座った。

 液晶には映画が流れているようだが、音はついていない。

 フェキシーは真っ直ぐに液晶を見ている。

 ソファの脇に持ってきたペットボトルを置き、フェキシーの隣に座った。

 黙って一緒に映画を見ることにした。

 どうやら恋愛映画のようだ。


 液晶を眺めていて感じたのは、音はなくても意外と内容が分かるものだ。

 途中、フェキシーが手を握ってきたので、俺は握り返した。

 冷たかった手に少しずつ熱がこもる。

 恋愛映画の男女は時にすれ違い、言い争いをしながらも、愛し合い、少しずつ絆を深めていった。


「うっ……」


 小さな嗚咽が聞こえ隣を見ると、フェキシーの目には今にも溢れそうなほどに涙が溜まっていた。


「止めようか?」


「んん……」


 フェキシーは握っていた手を離し、涙を拭いながら首を振った。


「……わたしのせいだ」


「そんな訳ない」


「ううん。わたしのせいだから……」


 俺はフェキシーを抱き寄せてそっと頭を撫でた。

 胸が痛く俺の目にも涙が浮かんでくる。

 何もしてやれない。

 フェキシーが上を向き顔を近づける。

 俺たちは唇を重ねて、それから静かに体を重ね合った。

 甘い夢のような時間の中で、二人の意識は自然と高揚し境界が曖昧になっていった。


「全部、話すから……」


 フェキシーの記憶が一つの幻想世界を作り出す。

 俺はその中に引き込まれ、フェキシーの――フェリシア・シーグローブの物語を体感することになった。

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