#ゴーストタウンでまた会おう
静水映
プロローグ
いつか終わる、永遠の夢を見て
草の生い茂った高層マンション、夜になっても部屋の光はまばらで星の光が良く見える。
ぼんやりとした街灯の明りが作る道幅の広い道路。
整備された砂浜に打ちつける波の音は心地よく響いている。
そんな高級リゾート地のような街並みを、影のような人々が行き交っていた。
空には漂う雲のように輝く半透明の鳥が飛んでいる。
海には光るクラゲの群れ……それは時折、海面を飛び出し、星のように空中を舞っている。
ターミナルの巨大なディスプレイに映し出される映像――顔の見えない歌姫の囁くような歌声が静かな夜の街に響き渡る。
そんな幻想的な街を狐面を被った浴衣の少女が飛ぶように駆けていた。
一度の跳躍で幅の広い道路を飛び越え、ときには街灯を足場にして、ネオンの輝く一帯を抜けて人気のないマンションと公園のある地区へと逃走する。
「いい加減、止まれ!」
その背後を黒いスーツを着た男たちが必死に追っている。
顔にはフルフェイスのヘルメットを被っており、一様に小銃を抱えている様子はSF映画の出来の悪いパロディのようだ。
「いいよ。ちょっとだけ休憩しよ?」
少女は揶揄うように笑い、曲がり角に消えた。
先頭の男が立ち止まると、そこには鬼の面を被った浴衣の少女が立ち止まっていた。
「……ようやく、投降する気になったか」
男が苛立ち交じりに肩に手を触れると、その体は傾いて無抵抗に倒れた。
「えっ……」
少女はピクリとも動かない、まるで……。
「おい、これは」
他の男たちの声を聞いて先頭の男はようやく、周囲の異様な光景に気付いた。
辿り着いた公園には見渡す限り、無数の仮面を被った少女が存在した。
地べたに座ってヨーヨーで遊んでいたり、綿あめを食べたり、背中合わせでストレッチしている二人組までいる。
だが、よく見るとそれらはすべて精巧にできた人形でその場に静止している。
「今の一瞬でこの量を『
「準備してたのかもしれないが、そんなことは問題じゃない。とにかく、周囲を探すぞ」
「どうせ、手遅れだ。もう顧客のリストを盗られたことを報告するしかない」
取り乱す黒スーツの男たちを尻目に、少女は服装をTシャツとショートパンツに変え、堂々と街へと戻っていった。
▼ ▲ ▼
狐面の少女は高層マンションを、外壁を伝う植物やパイプの凹凸を利用して器用に登っていく。
「よっと」
十階を越えたあたりで登るのを止め、ベランダ手摺に座わった。
狐面を外して捨てる。
風に乗った狐面はやがて星屑のように弾けて消えた。
「聞いたことある会社の重役に人気俳優、かの国の地方議員までいるとはね……」
顧客のリストを眺め、少女は小さくため息をついた。
綺麗な金色の髪、日に焼けた褐色の顔、琥珀色の瞳を寂しそうに伏せる。
少女はリストを燃やして仮面同様に空に撒くと、あらゆる物質が発光して見える夜の街を眺めた。
「変わらないね、ここは……」
住民たちの顔は黒い靄に包まれて見えず、まるで亡霊のようだ。
幻想世界の街『ゴーストタウン』。
その名前は街の外観だけでなく、住民たちの在りようまで的確に表している。
ただ一人の死人を生かすために作られた夢の街……。
「でも、わたしは知ってる」
その足元には沢山の死体が転がっている。
夢のような街を創り出す代償として、大人たちは多くの犠牲者を誘致した。
「だから、壊そう。悲しい夢は終わりにしよう」
少女はうっとりとした表情を浮かべた。
「やっぱり、永遠より一瞬だよ。一瞬の本物がいい」
少女は一人の少年の姿を思い浮かべた。
ただひたむきに、恐怖を乗り越え、誰かのために真っ直ぐ立ち向かう。
数年振りにその瞳を向けられたとき、彼なら自分の願いを叶えてくれると確信した。
「早く来て。この美しい街をわたしと一緒に焼き尽くそう」
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