第10話 小さな鬼を救う

手紙の次のページには、お父さんの人生を変えた瞬間が書かれとった。


『でもあんたに話したいのは、その後のことじゃ』という文字を読んでワシは息を呑んだ。


まだ続きがあったんじゃ。


『私は鬼を倒した後、宝を持って村に帰ろうとした。でもその時、小さな泣き声が聞こえたんじゃ』という行を読んでワシの胸がドキドキした。


小さな泣き声?


『振り返ると、さっき親を殺された鬼の子供が、一人で震えながら泣いとった』という文字を読んでワシの目に涙が滲んできた。


あの子はまだそこにおったんじゃ。親を失って、一人ぼっちで。


『犬と猿と雉は言った。「桃太郎さん、あの子も鬼です。放っておきましょう」と』という行を読んでワシは怒りがこみ上げてきた。


仲間たちは子供まで見捨てようとしたんじゃ。


『でも私は、その瞬間に気がついたんじゃ。本当の敵は誰じゃったのかということを』という文字を読んでワシは震えた。


本当の敵?


『本当の敵は鬼じゃない。私の心の中にある、何も考えずに期待に応える弱さじゃった』という行を読んだ時、ワシは手紙を強く握りしめた。


お父さんは気がついたんじゃ。本当に戦うべき相手を。


『私はその時、初めて自分の意志で決めたんじゃ。あの子を助けようと』という文字を読んでワシの胸が温かくなった。


お父さんは自分で決めた。みんなの期待ではなく、自分の気持ちで。


『犬と猿と雉は反対した。村の皆も反対するじゃろうと言った。でも私は構わんかった』という行を読んでワシは感動した。


お父さんは周りの反対を押し切って、自分の正しいと思うことをした。


『私はあの子を抱き上げた。小さくて震えとって、でも私を見る目に憎しみはなかった』という文字を読んだ時、ワシは泣いてしまった。


鬼の子供はお父さんを憎まなかった。親を殺されたのに。


『あの子は私の胸で泣いた。そして私も一緒に泣いた』という行を読んでワシは声を出して泣いた。


お父さんも泣いたんじゃ。自分がしたことを後悔して、でもその子を愛おしく思って。


『それから私はあの子を連れて帰った。村の皆は反対したが、私は聞かんかった』という文字を読んでワシは誇らしくなった。


お父さんは強かった。本当に強かった。


『あの子は私の家で育った。私にとって初めての、本当の家族じゃった』という行を読んでワシの胸がいっぱいになった。


鬼の子供がお父さんの家族になった。そしてお父さんも、初めて本当の愛を知った。


『でもあんたに知ってもらいたいのは、これからのことじゃ』という文字を見てワシは次のページに手を伸ばした。


まだ続きがある。お父さんがワシに一番伝えたいことが。


手紙をそっと膝に置いてワシは考えた。お父さんは前世で、取り返しのつかない過ちを犯した。でもその後で、本当に大切なことを学んだ。自分の意志で決めること、愛すること、救うこと。そしてその経験が、現世でワシを愛することに繋がったんじゃろう。

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