第12話 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて云々
やらかしてしまった感がある。
他人の恋愛事情に首を突っ込むなんて。
だけど、黙っていることができなかった。
瀬名さんの想いを知っているからこそ。
しかし、顔合わせづらいなぁ……。
進藤にじゃない。瀬名さんにだ。
これで進藤が余計に瀬名さんへの扱いが悪くならないとも限らない。そうなったらどう瀬名さんに謝ればいい? 彼女の一途な想いを壊したのは間違いなく俺である。
よく言うじゃないか。人の恋路を邪魔するやつは、云々と。なんだっけ?
「うーん……」
「頭を悩ませて、どうしたの?」
「いや、瀬名さんにどう謝ろうかと」
「私? 何を謝るの?」
「……うぉぁ!? 瀬名さん!?」
「あはは、変な声!」
いつかのあの日のようにぎこちなくも綺麗な笑顔を見せる瀬名さん。
学校への登校中。
このタイミングで顔を合わせることは想定していない。
……あれ? 今日は進藤と一緒に登校していないのか? それにやたらと表情も明るいし。もしかして、うまく遊びに誘えたのだろうか。
「えっと、どうしてここに?」
「いちゃダメなの?」
「いや……進藤は?」
「さぁ? 馬にでも蹴られてるんじゃない?」
なぜに馬。
「今日は、汐見くんと一緒に登校しようと思って! お弁当作ってきたの! ちくわの磯部揚げ。入れてるよ!」
「???」
頭がハテナでいっぱいになる。
なんで俺と一緒に登校するのか。なんでお弁当を作ってきたのか。なんでちくわの磯部揚げなのか。
わからん。わからんことがいっぱいである。
「とりあえず行こ?」
「あ、はい」
可愛らしく小首をかしげる彼女を拒絶することなど俺にはできなかった。
◆
学校へ登校するとより一層、周囲からの視線が気になった。
ざわざわ、ひそひそと何やら噂する人が目につく。
「え? 瀬名さん?」
「あれ? 進藤君と一緒じゃないなんて珍しい」
「なんで汐見?」
などなど。これまで進藤に幼馴染として異常とも呼べるくらいにべったりと一緒にいた彼女が今日、俺と登校してきた。
そうなれば、こう言われるのも分からなくもない。
正直言って居心地がいいものではないが、瀬名さんは表情を崩さない。
さほど気にしていないようだ。
まぁ、当事者である俺もなんで? って思うし、その理由は未だにはっきりとしていない。
「おはよー」
その後、教室についてから友達に挨拶をしてからもなぜか俺の机の元へやってくる。
当然、クラスメイトはより一層視線を向けるわけだ。
「あのー、瀬名さん?」
「どうしたの?」
「進藤のところにはいかなくていいの?」
「もう、汐見くん。私だっていつも新と一緒にいるとは限らないよ?」
「お? おお。そうか」
……そうか? 俺の知る限り、いつも一緒にいたような。ほぼ密着してたよね?
それからも瀬名さんは他愛ない話題を振り、俺もそれに応える時間が続いた。
「あ、もうすぐチャイム鳴るね。そろそろ戻ろうかな」
しばらく会話を続けていると瀬名さんが時計を見てそう言った。
進藤の席に目を向けるもいつもは集まっているクラスメイトの姿はない。
そもそもまだ本人も登校していないようだった。
「じゃあ、またね」
瀬名さんが手を振り、席戻ろうとする。
だが、それと同時に教室の扉が騒がしく開く音がする。
何事かと俺もクラスメイトも振り返るとそこには、進藤が息を切らした様子でいた。
「はぁ……はぁ……はぁ……間に合った……」
どうやら寝坊ギリギリ。慌てて学校へやってきたようだ。
「なんだ。間に合ったんだ」
「……え?」
小さい声で瀬名さんが進藤を見て何かを言った気がした。
言葉の内容までは聞き取ることができなかったが、あまりにも感情の籠っていない声色だったように思えた。
一方、息を整え、周りをキョロキョロと見渡した進藤。
「――ッ。な、んで……?」
そして俺と瀬名さんを見て顔を引きつらせていた。
進藤は俺の顔を見るなり、顔をわかりやすく歪ませるとパッと視線を逸らして瀬名さんの元に歩み寄る。
「美月。酷いじゃないか。起こしてくれないなんて!」
「だって、新。中々、起きないんだもん。私だって、毎朝起きるまで付き合うのはしんどいよ」
「……っ」
「ほら、もうチャイム鳴っちゃうよ? 席戻らないと。じゃあね、汐見くん!」
「あ、ああ」
正論パンチをぶつけた瀬名さんは俺に挨拶し、自席へ戻っていく。
「……チッ」
それを見ていた進藤もなぜか俺を鋭く睨んで自分の席へ向かった。
……なんで俺を睨むんだよ。
◆
おかしいおかしいおかしい。 なんで? どうしてそうなった?
今朝。
自然と目が覚めた。妙にカーテン隙間からこぼれる日差しが強かった。
時計を見れば、時刻は8時前。
いつもであれば休み日であれ、関係なくもっと早い時間に叩き起こされる。だからそれがすぐに遅刻だと分かった。
なんで美月は起こしに来なかったんだ!
そんな怒りと共にベッドから飛び起き、身支度を慌てて整え、家を出た。
普段部活で走っているとはいえ、寝起きですぐに走るのはやはりつらい。
なんで朝からこんなに走らなくちゃいけないのか。
お腹も空いて、あまり力が入らない。慌てて起きたから、水の一杯も飲んでいない。
その原因を作った幼馴染に自然と怒りが湧いてくる。学校についてたら説教してやろう。きっと美月のことだ。必死に謝ってくるに違いない。
そんなことを考えながら、どうにか学校に間に合った。
しかし、待っていたのは驚くべき光景だった。
僕を起こしに来なかった美月が、なぜか汐見と一緒に談笑していたのだ。そこでようやく昨日のことを思い出す。
汐見と言い合いになったこと。美月の様子がおかしかったこと。
そのことで一気に冷や汗が噴き出た。まさか美月は……いいや、そんなはずはない。 美月は僕に惚れている。僕が振り向かないからってそんな簡単に他の人に乗り換えるなんてあるわけがない。
そう思い、美月が他に変わった様子がないか確かめることにした。
それから授業中も休み時間も特にかわった様子はなく、普段通りだった。
休み時間なんかも美月を含めたいつものメンバーで僕の元に集まるし、普通に会話もする。
……なんだ。僕の思い過ごしか。きっと今日は僕の気を引くため、わざとそうしたんだろう。全く。やってくれるじゃないか。
――そう思っていた。
昼休み。
「汐見くん。一緒にお昼食べない?」
そこにはお弁当箱をもって汐見を誘う美月の姿があった。
開いた口が塞がらなかった。
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