第3 生まれて初めて貰ったものを、教えてよ。

彼女の部屋はとても綺麗だった。

綺麗というよりか、健やかな暮らしを過ごすための必要最低限だけが揃っているとてもこぢんまりとした殺風景な部屋。

ただ、部屋の隅でぽつりと寂しそうに弦の錆びたギターが立っていた。これがきっと彼女の生活を豊かにする唯一の光なのだろう。

殺風景な部屋とは対照的に机には空き缶、タバコの吸殻が散らばっており彼女の人間らしさに触れることができた。

理由は分からないけど安心した。 

「はい、どうぞ」

 カフェオレを私に渡してくれた彼女は、左手にマグカップを持ち私の前に座った。   

「ありがとう」            

 感謝の言葉を聞いて彼女は頷きながら一回瞬きをし、カップに口を着けた。私も同じようにカップに口を着けた。インスタントのカフェオレは舌にざらついた人工的な甘さを残した。

彼女の部屋の静けさの中で、カップの温もりだけがただ、冷えた私の手を温めた。彼女は、黙ってカップに口をつけ、時折窓の外に目をやる。

その視線の先に、何があるか私は見ても分からなかった。だけど、彼女の瞳はどこかか遠くを移している気がした。     

「ねぇ、なんで私を助けたの」

 沈黙に耐えきれず、思わず口にしていた。

「事故物件にしたくなかっただけ。ただそれだけ」

「ねぇ、今度は私が聞いてもいい?」

 彼女が、真面目そうにそう聞くから私は、彼女と同じように、頷きながらゆっくりと瞬きをした。

「君の名前はなに?」

 彼女は確かにそう言った。私は、自分が自殺しようとした理由を聞かれると思っていたから、驚いて、なんだか調子抜けして笑ってしまった。

「華って言うの。あなたの名前は?」

「美佳。よろしくね、華。」

 美佳。その名前が、頭の中で響いた。

美佳、みか、ミカ。ミカエル。 大天使、守護神。屋上で私を掴んだ手、タバコの煙と金髪の輝き。

彼女は、絶対に天使だ。

心のどこかで電撃が走った。涙がまた溢れた。こんな気持ち初めてだった。

 

 

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