学校ではアイドル、家ではジャージ姿――そんな幼馴染が隣にいます

長晴

第1話

毎日1話更新、全10話で完結予定の短編連載です!

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 高校に入学して三日目。

 新しい制服はまだ体に馴染まなくて、机の位置も、教室の雰囲気も、どこか借り物みたいに感じていた。

 そんな中で、早くも“主役”に座っているやつがいた。


「藤宮さんって、どこの中学だったの?」

「えー、すごい! 生徒会もやってたの?」

「やっぱり運動もできるんでしょ?」


 男女問わず、クラスメイトが集まる中心にいるのは――藤宮凛。

 大きな瞳に、明るい声。スラリとした姿勢で受け答えするその様子は、まるで舞台の上に立っているみたいだった。


 まだクラスが完全に馴染んでいないこの時期に、すでにアイドル扱い。

 本人は笑っているだけなのに、自然と人を惹きつけるオーラがある。

 誰もが「彼女と仲良くなりたい」と思っているのが空気で伝わってくる。


 ……でも、俺だけは知っていた。


 あの完璧な笑顔の裏で、ポテチをぼりぼり食いながらテレビを見て、アイスの当たり棒をコレクションしてる女の子の姿を。


「――村瀬君は、藤宮さんと知り合いなの?」

 不意に声をかけられて、俺は顔を上げた。

 話しかけてきたのは、前の席の男子。なぜか俺と凛が家が近いことに気づいたらしい。たぶん、凛がこちらを見てきてたからだろう。


「あー……まあ、知り合いっていうか」

「え、どのくらいの?」

「……隣の家」


 その瞬間、周囲の数人の視線が一斉に集まった。

 なぜかクラス全体がざわつき、俺の返事に「ええー!?」と驚きの声があがる。


「隣の家って、じゃあ幼馴染ってこと!?」

「うらやましい!」

「いつから知り合いなの?」


 質問攻め。俺は背中にじっとり汗をかいた。

 まさか、こんなに食いつかれるとは。


 そこへ、当の本人がにっこり笑って言う。

「そうなの。小さい頃からずっと一緒なんだよね、慎太とは」


 おい、その一言は爆弾だ。

 クラス中の男子の視線が、氷の刃みたいに俺に突き刺さる。


 俺は慌てて手を振った。

「ち、違うぞ!? ただの隣人だからな! 別に特別な関係とかじゃ――」

「ふふっ、特別じゃないんだ?」


 凛はわざとらしく首を傾げる。

 その小悪魔じみた笑みに、さらにクラスが盛り上がった。


 ……やめてくれ。

 俺は平穏な高校生活を送りたいだけなんだ。


 放課後。

 俺はさっさと帰ろうと荷物をまとめていた。だが、凛が当然のように声をかけてくる。


「慎太、一緒に帰ろ」

「……お前な、学校でそう呼ぶなって言っただろ」

「いいじゃん、別に」

「よくねぇよ。みんなに変な誤解されるだろ」

「誤解ってなに? 幼馴染でしょ?」

「……」


 言い返せない。

 結局俺は観念して、彼女と一緒に昇降口を出た。


 外ではクラスの数人がまだ残っていて、二人並んで帰る俺たちをじっと見ていた。

 男子のひとりがぼそっと言う。

「……くそ、リア充爆発しろ」


 違う、俺は爆発なんてしてない!

 むしろ毎日、爆弾を抱えてるんだ。


 家に着くなり、凛は制服を脱ぎ捨ててジャージに着替え、ソファに寝転がった。

「ふぅ〜、疲れたぁ。ねえ、慎太アイス買ってきて」

「なんで俺が」

「いいじゃん、今日の分の晩ごはん半分あげるから」

「……その代償、安くない?」


 学校では輝くアイドル。

 家ではジャージ姿でアイスを要求するぐーたら娘。


 このギャップを知っているのは、世界で俺だけ。


「……なに、じっと見て」

「いや、クラスの人気者がこうして転がってるのって、な」

「ふふ、内緒ね」


 凛はウィンクして、アイスの棒を口にくわえた。

 俺の心臓がまた少し騒がしくなる。



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あとがき




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