時を超えた紙飛行機
「なんだ、あれ」
下校前、教室の窓の外。
ゆらゆらと風に乗った白い紙飛行機が、校庭の隅に落ちていくのが見えた。
『拾ってくれた人へ』
誰もが作れそうな簡易的な紙飛行機の羽には、そう書かれていた。
中を開いてみると、こう
『私と友達になってくれませんか?』
それが、すべての始まりだった。
「いいよ」
同じ紙飛行機にそう返信を書いて、折り直した。
屋上に向かい、そっと放つ。風に乗ったそれは校舎を越え、どこかへと消えていった。
次の日、また紙飛行機が届いていた。
『私はマコ。君は?』
彼女の文字は可愛らしくも丁寧だった。
「シュウ」と名乗った返事を書いたその日から、紙飛行機を使った手紙のやり取りが始まった。
彼女との手紙は、灰色だった日常を色鮮やかなものへと変えてくれた。
放課後の紙飛行機を待ちわびる時間は、胸が躍っているかのようだった。
ある日、「なんで紙飛行機なの?」と訊ねた。
『手紙じゃないと伝えられないから』
その答えに引っかかるものを感じた。
何年生で何組なのか。なぜ姿を見せないのか。
彼女は肝心な質問には答えてくれない。
思い切って、紙飛行機を追いかけることにした。
屋上から飛ばしたそれは、風に乗って校舎裏へと運ばれていく。
その方向へと走った。
校舎裏にたどり着くも、そこには誰もいなかった。
落ちた紙飛行機を拾い上げ、開く。
『見つけてくれてありがとう。友達になってくれてありがとう。楽しかったよ。バイバイ』
それだけが書かれていた。
その日を境に、紙飛行機は届かなくなった。
一度でいいから彼女に会いたいと校舎裏に何度も足を運んだが、月日だけが過ぎていった。
数週間後。
図書室で古い校内新聞を見つけた。
十数年前、校舎裏で起きた事故で亡くなってしまった生徒の名前が載っている。
その中に刻まれている一人の名前に目を疑った。
『
思わず手が震えた。
あの紙飛行機の相手は、もうこの世にはいない存在だった。
それでも、最後にもう一度だけ紙飛行機を飛ばそうと屋上へ登った。
「こちらこそ、ありがとう」
一言だけそう書いた紙飛行機を手のひらに乗せた。
同時に、吹き上げてきた風にさらわれて紙飛行機がふわりと宙を舞った。
追いかけたいのに、足は動かない。
紙飛行機は空高く舞い上がって、青い空の中へと消えていく。
その瞬間、かすかに声が聞こえた気がした。
『さようなら』
静かに目を閉じる。
紙飛行機と共に、彼女との思い出が空へと溶けて消えていったような気がした。
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