第18話 デンの贈り物③
顕現した森の精霊シルヴァがデンに話しかける。
「あんた強いねえ。それに変な魂の形よなあ?どうやったら、そんなの作れるんかえ?」
見た目とは正反対に、大人びた声のシルヴァ。
「……ほうかい?ワシ、普通思うけどなあ」
「どこが普通かえ……妾の見た目にも騙されないようだしねえ」
そう。シルヴァは太古よりこの森と共に連綿と生き続ける精霊。見た目と反して数千年この世に存在しているのだ。
「ガハハハハ!ワシ娘がおるからの。チヨとお前じゃ全然違うわな。可愛さが桁違いじゃ!!」
「妾の方が可愛いかえ?」
しなを作り妖艶な笑みを浮かべて見せるシルヴァ。とたんに大人びた雰囲気を
「アホ抜かせ!ワシのチヨが可愛いに決まっとるわ」
「そうかえ。とんでもない力を持った者が来たから、妾自ら遊んでやろうと思ったのにその態度、許せんわなあ」
シルヴァの顔が邪悪な笑みに歪む。それは好戦的な笑い。
「やめえや」
デンの声が先を制す。
「怖いのかえ?」
首をかしげるその様は少女のよう。
「アホ抜かせ。ワシ、チヨに喧嘩するな言われとるんじゃ。特に人語話せるヤツとは」
「これはケンカではない。遊びよ」
無数の蔦がデンに絡まりつく。
「あんま気張るなや。ワシ、ふれいむばーど言う花探さんといけんのじゃけ」
蔦に埋もれたデンがそのままの状態でしゃべる。
「
「ほんとかい?なにして遊ぶ?」
「鬼ごっこ♡」
ビュンッ!
そう言うとシルヴァがその場から消える。デンはというと「いーち、にい、さーん……」律儀に数を数える。
「10!!いくぞ!」
ダッダッ!!!
デンは森を縦横無尽に駆け抜ける。
「ガハハハハ!どこじゃ!せーれー!!」
「「おーにさーんこーちらー」」
森全体からシルヴァの声が木霊する。
しかし、その姿は以前どこにも見当たらない。
「そう言うことかい。お前さんがやっとんは、鬼ごっこじゃのうて、かくれんぼ言うんじゃああああああ!!!!」
デンの怒号が森の中を駆け巡る。
「同じでしょ。妾を捕まえれば勝ち」
常世に隠れてしまえば誰にも見つけることはできない。反対にシルヴァは森を操作し、デンに攻撃を加えることができる。
「ひっきょうじゃのぉ。どおするよ?ワシちぃと力出すけど、ええんかの?」
姿の見えないシルヴァに語りかける。
「ええ、かまわないわ。妾、貴方の力を見てみたいの」
常世に隠れるシルヴァは余裕であった。いかような攻撃も魔法も、届くことはない世界。それが常世なのだ。
「ワシどうなってもしらんど?」
スゥゥゥゥ……
一応の確認を取ってからデンは右腕に力を込める。
その瞬間、森の木がざわめき、鳥が飛び立つ。虫が岩の影から這い出し森の動物は森の外へと逃げ惑う。
その力によりデンの周囲は陽炎のように歪んだ。
「ちょちょちょちょっとぉ?どうするつもりかえ?そ、そんな攻撃、妾には届かないのよ?」
シルヴァの声に動揺が混じりだす。
「ガハハハハ!森半分ほどなくなりゃ、お前も大人しなるだろ?」
「えっ!?」
ゆっくりとデンは攻撃の体勢に入る。足を開き腰を落とす。右半身を引く。
いよいよ、デンの拳が放たれる。
パッ!
目の前にシルヴァが現れる。
「勝ち、勝ち。貴方の勝ち。ちゃんと
先程の余裕とは打って変わって、おどおどとした様子のシルヴァ。
それもそのはず。彼女は森の精霊。いわば、この森と一心同体なのだ。
その森を半分も削り取られれば、自分自身どうなるのか分からない。だからデンをなだめようと必死なのだ。
しかし、デンの体勢は変わらない。
「男が握った拳、おいそれと下げれるかいや。あんたが、ワシと遊ぼう言うたんじゃ。きっちりけじめつけんとなぁ」
「ごめんってば!妾が悪かった!!お願いやめっ――」
ごおおおおおおおお……
デンの拳が森に向かって突き出される。
「だめぇぇぇぇっ」
シルヴァが森を守らんと身を挺してデンの拳の前に飛び出した。
目の前に迫りくる拳。あまりの闘気に拳が山のように大きく見える。恐ろしさにシルヴァは目を閉じた。
風圧で顔が持って行かれそうになる。しかし、森を守るために動くわけにはいかなかった。踏ん張って耐えること、しばし。いつになってもデンの拳はシルヴァには届かない。
シルヴァが恐る恐る目を開ければデンの拳はシルヴァの鼻先数ミリの所でピタリと止まっていた。
そして、目の前のデンの拳がゆうっくりと開かれてゆく。
「くっっっっっさああああああああああああ!!!!!!」
鼻の中が腐るかと思うほどの激臭。森の中で出会う動物のフンの万倍は臭い。それはデンの握りっぺ。
「ガハハハハハハ!どうじゃ、参ったか!!ドンドルド特製の酒をたらふく飲んだあとのほっとでじゅーしーなワシの屁じゃ!!」
液体かと思うほどの質量を持った尻の穴を焼かんばかりのあっつい屁をシルヴァへおみまいした。
「くさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくさいくっさーーーい!!」
土で服が汚れることもお構いなしに転げまわるシルヴァ。それを見て笑うデン。
「ごほっごほっ。妾、
涙目で深呼吸を繰り返すシルヴァ。
「おおげさじゃの。それで、ワシはよう花のとこに行きたいんじゃが?」
「ちょっと待っておくれよ。こっちは、あんたの屁で死にかけてるのよ。スー……ハー……あぁ、この森ってこんなにもいい香りなのね。初めて知ったわ」
「そりゃ、ワシに感謝じゃの」
「だれがするかっ!!」
二人でじゃれ合うことしばし――――――――
「これが
森をさらに進みとある開けた場所に出る。
そこに大輪の真っ赤な花を咲かせた
花弁は透き通るような赤。中央に向かってオレンジ掛かるのはチヨの髪のようであった。不思議なことに花の周囲が赤い粒子でキラキラと宝石のように輝いている。
「キレイじゃの」
「あれは、
「よお分からんが、きれいじゃ。やっぱりチヨに見せてやりたいの」
これ以上野暮なことは言うまいとシルヴァは黙っていた。
「なぁ、これワシ持って帰りたいんじゃが、ええか?」
「いいけど。ここ以外ではあの花が生きていくのは無理よ。
「なんでぇ?」
「環境よ。
「どんくらいじゃ?」
「どのくらい?」
デンの質問の意図がいまいち読めない。
「じゃけ、どんくらい、この森があったらこの花一本生きていけるんじゃ?」
「ええっと……」
そんなこと考えたこともなかった。ただ、森の精霊の直感で答える。
「あそこの木からあの大きな木が生えてるあたりかしら」
それは、アルトムの噴水広場ほどの大きさ。木々にいたっては無数に生えている。
「がはははは!!ほうかほうか」
「えっ!?」
ズンッ!!
デンは自分の両手を地面に突き刺した。そして、力いっぱい地面を持ち上げる。
「む、ムリよ」
「無理なわけあるかい。チヨのためならドッコイショじゃぁぁあああああ!!!」
バキバキバキバキ……
地面に亀裂が入り始める。それはちょうどシルヴァが指し示していた辺り。
デンは、腕に額に青筋を浮かべ力を籠める。すると、どうだ。地面がどんどんせり上がっていく。
デンは浮いて出来たきた地面の隙間に潜り込んでゆく。その度、地面はさらに持ち上がる。
デンが
「に、人間じゃないわ」
永く生きてきたシルヴァもこんな常識外れな人間を見たのは初めてだった。ズシンッ、ズシンッ、とデンの足音が聞こえる。その足音に呼応するように地面はせり上がってくる。
最終的にはデンが小さな森を頭の上に抱えて地中から現れた。
「ワシこのまま帰る。道、どうにかしてくれ」
「わ、わかったわ」
シルヴァはそう言うと出口の方に向かって、前ならえをする。そして、力を込め両手を広げる。
すると、森の木々が道を作るように二手に割れる。
「ガハハハハ!!恩に着る。ワシお前さんとまた遊んじゃる!」
「ふん!あんたと遊ぶのはこりごりよ。さっさと妾の森から出てっておくれ」
デンは出口に続く即席の森の回廊を抜ける。
アルトムへのはまだまだ先。それでも、デンの顔は明るい。
やっとチヨに自分だけのプレゼントを贈れるのだ。
アルトについたのは常世の森を出て3日目の朝の事だった。
アルトムの外れに小さな森を置く。
その中央には赤く揺れるチヨのような花。デンはそれを眺めて満足げ。
さあ、チヨを呼びに行こうと街の中へと続く道に入ったとき向こうからイズナルアが走ってやってくる。
「ババア!これを見てみい。ワシチヨにプレゼントするんじゃ!!」
「バカタレ!今はそんなことどうでも良いわ!」
いつも、どこか飄々とするイズナルアの顔に焦りが見える。デンはそれを感じとり、イズナルアにつめよる。
「なっ、なんじゃ!?チヨか!チヨに何かあったんか?」
イズナルアは頷く。
「チヨが病気じゃ」
それを聞くと、イズナルアを置いて一目散に家へと駆け出して行った。
おわり
そして『父と子』へと、つづく
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