第15話 チヨ、出かけます③
デンのツケを支払うため、デンの行きつけの店を回ったチヨであったがどの店からもお金を受け取ってもらえず、逆にお土産をもらうことになった。
両手いっぱいにもらったお土産の袋を抱え家に帰る。
「んっしょ、んっしょ」
量が量だけに、8歳のチヨにはかなりの重労働。しかし、行きよりも心はとても軽やかな気持ちになることができた。
家路の途中、噴水広場を通らなければならない。
日が傾き、影が東に伸びる時間。ほとんどの露天は畳まれ、昼間の喧騒はどこかへ逃げていた。
「まだ、あのお姉さんのお店やってるかな?」
やっぱりあの赤い花の髪止めピンの事が忘れられず、帰る前にもう一度見てみようと、アクセサリー店の前を通る。
すると、アクセサリー店の周りに人集りが出来きガヤガヤと騒がしい。
チヨは何かあったのかと、その人集りに近付くと「……――じゃっ!!……!!」何を言っているのか分からないが、聞き覚えのある声が耳に入る。
「で、デン!?」
大慌てで人垣をかき分け進んでいく。
「ほいじゃけ、これワシに売ってくれえ!」
デンは、アクセサリー店の店主にあの花の髪止めを持って売ってくれと詰め寄っていた。
「何度も言ってるけど、これは他のお客さんのために取り置きしてるものなの!どれだけ頼まれても売れません」
流石、旅の露店商。旅の途中いろんな客を相手してきたのだろう。肝が据わっている。デンの迫力にも負けることなくはっきりとその申し出を断った。
「そこをどうにかしてくれえ!これ絶対チヨに似合うと思うんじゃ!!」
「私だって、これとっても似合う女の子のために取って置いてるんです」
二人の言い争いは平行線をたどっていた。どちらも、同じ人物を思っているのだから、当たり前ではある。
しかし、そんなこと分かるはずない二人。先にしびれを切らしたのはデンであった。
「待て待て!チヨ以上にこれが似合うヤツはおらんて!この通おおおり!」
恥も外聞もなくデンは深々と頭を下げてみせる。
「ちょ、ちょっと困ります。そんなことしないでください」
さすがの店主もここまでされれば頼みを無下にすることは出来ない。
「はぁ、わかりました。千ナグルで譲ります」
「おお!ありがとう。これでチヨの喜ぶ顔が見れそうじゃ!ガハハハハ!」
そう言ってズボンの左ポケットをゴソゴソ探る。どうやらそっちにはないらしく今度は右ポケットを探ると「あった、あった」とポケットから手を引っこ抜く。
そして、デンはいくら入っていたのか確かめると顔が曇る。
「すまんが、これでどうにかならんか?」
開いた手を店の店主に開いて見せる。そこにあったのは紙くずの中にまぎれた、たったの300ナグルぽっち。
「どうにもなりません!!冷やかしなら帰ってください!!!」
冷やかしではなかったが、明らかに金が足らない。デンはガックリ肩をおとし店に背を向けた時――
「デン!何やってるのよ!?」
人集りをやっとかき分け、チヨがデンに声をかけた。チヨの顔を見るなり元気を取り戻すデン。
「おお!チヨ!聞いてくれえ」
「おっ、お嬢ちゃん!?」
露天の店主はビックリして持っていた髪止めを落としてしまった。
そんなことデンの目には入らずチヨに事の
「ワシ、チヨに似合う髪止め見つけたんじゃが、この姉ちゃんが売ってくれんのじゃ」
デンは子供のようにチヨに助けを求め
「そんなのあたりまえじゃない!こんな顔がこわいおじさんにアクセサリーなんて売らないわよ。それにデンお金持ってるの?」
母親のようにデンをしかるチヨ。どちらが保護者なのかわからなくなりそうだ。
「ガハハハハ!300ナグルしかない!」
ここでやっと露天の店主はなんとなく二人の関係を察することができた。
「ちょちょちょっと待って!お嬢ちゃん達知り合いなの?」
「うん」
「ワシの娘じゃ!かわいいじゃろ!?ガハハハハ」
ヒト族と竜人族。家族というには無理がある二人。しかし、隣同士並んで立つ姿は親子そのものであった。店主は納得言ったとパチンと両手を叩く。
そして、周りに集まった人たちに目線で「大丈夫」と伝えれば、みながその場を離れ出す。
どうやら集まったのは露店の仲間たちで、何かあった時のためにスタンバイしてくれていたのだった。
皆が去っていく背中を見ながら落とした髪留めを拾いあげる。
「びっくりしたわ。私もそのお嬢ちゃんのために、このピンを取っておいたの。おじさんなかなかいい趣味してるわね」
「ガハハハ!!チヨのことなら、ワシセンスがええんじゃ!」
「ちょっと、デン。おせじよおせじ!」
チヨは恥ずかしそうにデンの服の裾を引っ張る。店主にはその光景がほほえましく思えた。
「おじさんの娘さん本当に可愛いわね。これはお世辞なんかじゃないわよ」
パチンとチヨにウィンクをしてみせる。チヨはそれだけで顔を真っ赤に照れてしまう。逆にデンはますます調子に乗ってみせる。
「姉ちゃん、よお分かっとるのお!チヨは世界一可愛いんじゃ!ガハハハハ!」
デンはチヨの隣にピタリとくっついて胸を張って自慢する。
「ちょっと、やめてよ。くっつかないで」
チヨはイヤそうに両手でデンを押し退けて距離をとる。
店主は笑いながら髪留めに傷がないか、夕日に照らして確かめる。
(大丈夫、傷はないみたいね)
ウエスで髪留めを軽く拭くとチヨにそれを差し出す。
「フフフ。チヨちゃんだっけ?これ、どうする?800ナグルよ?」
値段を言われたチヨは手をもじもじとして表情は曇ってゆく。そして、言いにくそうに小さな声で答える。
「……ほんとは、ほしいんだけど……アタシ500ナグルしかなくて……」
本当にこれだけしかないと見せるように自分のサイフから500ナグルと取り出して見せる。チヨは少し自分がみじめに思えて泣きたくなってきた。
ガシ!!
チヨの500ナグルを持つ小さな手をデンの大きな手が握る。
そして、その手を離すとデンの全財産の300ナグルが置かれていた。
「ほれ!!これでちょうどじゃ!ガハハハハ!!」
「いいの?」
なおも遠慮するようにデンを見上げるチヨ。
「ほんとはワシが買ってやりたかったんじゃがの!これしかないんじゃ。チヨすまん!」
デンはニッと笑って頷いて見せる。それにつられてチヨの顔にもぱあっと笑顔が戻る。チヨは店主に向き合うと大きな声で「ください!」と800ナグルを差し出した。
「はい、ちょうどいただきました。どうする?袋にいれる」
「ん~ん、このままつけたい」
「じゃあ、ちょっとじっとしててね」
露天のお姉さんが優しくチヨの髪に触れる。チヨは目を閉じてされるがまま。
一度もとあった髪止めを外す。そして、優しく前髪をすくい、耳の上辺りでパチンと停めてやる。
「できたわ」
チヨの目線の高さに鏡を持ち上げる。鏡の中の自分が欲しかった髪止めをしていた。
「わあ」
チヨはこれ以上はないといえるほど幸せな笑顔になり、振り返ってその姿を真っ先にデンに見せる。その表情はとても誇らしそう。
「ガハハハハ!やっぱりよう似合っとる!」
デンは今日一番の笑顔でそれに答えてやる。
「うん、やっぱりとっても似合ってるわ」
店の店主もチヨを褒める。
「エヘヘヘ」
チヨは少し恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに少しうつむき加減で笑う。
そこに店主が顔を近付け小さな声で――
「お父さん、とっても良い人ね」
と、チヨにだけ聞こえる声で言った。
「そっ、そうかなぁ」
チヨはまんざらでもない顔でデンを見る。デンはとても嬉しそうに笑っていた。
その顔を見てチヨは大事なことを思い出した。
「そうだ、デンこれ」
ポシェットの中から預かった給料袋をデンに手渡す。
「おう、今日が金入る日だったんかぁ。なあんじゃ、これがありゃチヨに買ってやれたのになぁ」
心底残念そうにしたかと思えば、何かを思い付いたようにパッと顔を上げる。
「そうじゃ!!500ナグルチヨに返しちゃるけ、ワシが髪止め買ってやったことにせんか?」
「だーめ。アハハハ」
チヨは自分とデンとでお金を出しあったことに価値があるのだと、子供ながらに理解していた。
「そうじゃ、まだ開いとる店あるじゃろ!?なんでも好きなもん買っちゃる!」
デンはチヨのそんな気持ち知るよしもなく、意地でも何かをプレゼントしてやりたかった。自分が買ってやったもので喜んでほしいのだった。
「いらない、それよりはやく家にかえってごはんたべよ」
それを聞いてデンは下唇を付き出していじけて見せる。金が手に入りどうしてもチヨに何かを買ってやりたい欲が出てきたのだ。
「しかたないなぁ。今日はとくべつ手つないであげる」
チヨが左手をデンに向ける。それだけで、デンの顔は明るくなってすぐにチヨの手を取る。
「なんじゃあ!今日は人生で一番の幸せな日じゃ」
夕日に向かって帰る親子の影。その娘の髪止めがキラリと光る。
それを見て露天の店主は
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