第8話 アルトム第一小学校二年三組独楽戦争②

「お前魔石ゴマ手に入れたのか?」

「俺、今度の休み父ちゃんに買ってもらうんだ!」

「いいなぁ、俺もコマほしい!」

「二組のヤッ君が魔石ゴマ2個持ってるらしいぜ」


次の日チヨが学校へ行くとクラスの男子が魔石独楽の話題で持ちきりであった。


 空前の魔石独楽ブームの到来。仕掛け役は、もちろんティム。チヨの店を出た後すぐ友達を集め魔石独楽の実演をしたのだ。

 喧嘩独楽に加え、魔石による派手な魔法的演出とじゃんけんに似た魔石の三竦さんすくみの関係によるゲーム性。

 たちどころに実演を見ていた子供達は魔石独楽を買っていった。


 そしてティムの目論み通りあっという間に噂が広まり、その日の夕方には100個全てが売りきれとなったのだった。


 学校の昼休み、どのクラスでも独楽の対決で大盛り上がり。勝ったものは勝利の雄たけびをあげ、負けたものは魔石を取られて涙した。


 チヨが家に帰ると、店の入り口には臨時休業の張り紙がデカデカと貼られていた。


(そんなことしなくてもお客さんぜんぜん来ないのに……)


「ただいまー!」


 中に入ると、イズナルアが老眼鏡を掛けカウンターの中でゴソゴソと何かを一生懸命作っている。


「なに作ってるの?」


 チヨがイズナルアの手元をのぞき込む。イズナルアは手を休めることなくチヨと話す。


「独楽だよ、こぉまっ!ガルダラスんとこのボンクラが独楽を500個も発注してきよったんだわ!」


 息子ティムの成功を受け、ガルダラス商会が動いたのだ。


「えっ!?500個も!?」


「そうよ。ちょうどさっきガルダラスの若いもんが出来上がった200個持って行きおったわ」


「おばあちゃん大変ね」


「カッカッカッカ!何が大変なもんかね。一つ800ナグルで買っていきおるんだ!!いやあ、笑いが止まらんわい」


 そう言いながら手に持つ完成した独楽を木箱にポイと投げ入れる。


「……そう、おばあちゃん頑張ってね」


 チヨは呆れた顔で二階へと上がっていった。その日の夜遅くまで一階の灯りはついてままであった。


 次の日はさらに魔石独楽が学校中に出回っていた。チヨは自分の席にカバンを置くとすぐさまキキの席へと向かう。


「キキちゃん、すごいことになったね」


 周りを見渡すと、ほとんどの男子が独楽を持って興奮気味に話をしている。


「じつは……わたしも持ってきちゃったの」


 少し恥ずかしそうにキキは自分のカバンから。


「……アタシも」


 チヨはスカートのポケットから。

 自分たちの独楽を見せ合う。


「わっ!キキちゃんのコマかわいい!!」


 キキのコマにはキラキラのデコレーションシールが貼られ、無骨な独楽が女の子らしいかわいいものへと変貌していた。


「でしょ?チヨちゃんもしよ」


 そういってカバンから大量のシールを取り出す。


「使ってもいいの?」


「いいよぉ!コマだってくれたし、わたしたち仲良しじゃない!?」


「わあ!ありがとう」


 チヨの独楽に二人はああでもないこうでもないとじゃれ合いながらシールを貼った。

 その結果チヨの独楽はチヨのイメージ、赤色をメインに据えたキラキラの独楽へと変貌したのだ。


「うわっ、ジョシのコマ変なのー」


 一人の鼻たれ男子がチヨたちの独楽を見つけ、バカにする。

 すると、周りの男子もそれに便乗して「変」だの「かっこよくない」だのと難癖をつけてくる。


「いいでしょ!!これはカワイイのっ。男子あんた達のなんてコセーのないフツーのコマじゃない」


 せっかくキキと楽しくシールを貼っていたところを邪魔されチヨの頭に血が上る。

 キキもチヨと同じ気持ちだったらしく男子に向かって追撃の言葉を放つ。


「そうよ!男子のコマどれも同じじゃない。ぎゃくにダサいわ」


「なんだとお!!」


 最初は一人の鼻たれ男子しかいなかったのだが、気づけばクラス中の男子が鼻たれの味方に付いていた。


「なによっ!やるの」


 しかし、こちら女子軍団がだまっていない。チヨとキキのバックにいつの間にか女子達が勢ぞろい。


 血の気の多いキキなんかは腕まくりをして臨戦態勢を取る。その姿に男子一同、少したじろぐが、そこは我慢とグッとキキを睨みつける。


 一触即発の空気。

 そんな時ガラガラ……と教室の戸が開くとヒョロリと長細いエルフの中年男性が教室に入ってくる。この男性がチヨたちのクラス担任ロスである。


 みな一斉に席に着くと同時にロスも教卓の前に着く。


「えー、みなさん今日は朝の会の前に先生から話があります。えー、最近学校に不必要なオモチャを持ってきている生徒が、えー沢山いるようですが、えー学校は勉強する場所です。えー見つけ次第没収しますから、えー学校には持ってこないようにしましょう。えーわかりましたか?」


「「「「「「はい!!」」」」」」


 クラス一同が返事をする。しかし、ロスが話をしている時、生徒たちの間にはが秘密裏に回されていた。その手紙の内容はこうだ。


 『コマのけっちゃくは、コマでつけよう。今日のほうかご空き地でショウブだ。』


 全員に手紙が回ると、クラス中に緊張感が走る。

 こうして、二年三組女子対男子の独楽戦争が勃発したのだった。

 そんなこと担任のロスは露知らず、話を続ける。


「えーそれと、昨日放課後に不審な男が校門前でうろついており、えー生徒に声をかけるという事案が発生しましたので、えーくれぐれも知らない人には、えー気を付けるように!えー先生の話は以上です」


 ここからは、日直の生徒が担当し朝の会がいつも通り終わる。


 嵐の前の静けさとでも言わんばかりに静かに学校の時間が過ぎていった。






 放課後男子がいち早く教室を出て行く。


「女子!逃げるなよ!!」


「「「べーーーー」」」


 女子が一斉にアカンべーをする。チヨはカバンを肩にかけると、キキが話しかける。


「さあ、いよいよ時間ね」


 キキは闘志みなぎる目でチヨを見る。チヨはそこまで勝負にこだわりがなく、若干めんどうであった。


「ほんとうにやるのぉ?」


「あたりまえじゃない!!」


 キキは力強くうなづく。それに同調してクラスの女の子たちが「頑張って」「負けないでね」など期待の言葉と眼差しをおくってくる。


(なんで、こんなことになっちゃったんだろ)


 このクラスで魔石独楽を持っている女子はチヨとキキのみである。おのずと二人が女子の代表となってしまっていた。


 キキとチヨを先頭に下足場を出て校門へ向かう。すると校門の外から「ガハハハハ」と聞きなじみのある笑い声が聞こえた。


「あっ、デンおじちゃんの声だ」


 その声を聞いてキキが嬉しそうに走り出す。

 チヨは逆に深いため息をついて、足取りが重くなった。


 校門を出てすぐの場所にデンが折り畳みの小さな椅子に腰かけ学校帰りの生徒に向かって威勢よく口上を述べる。


「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。そこの道行くおぼっちゃんにお嬢ちゃん!ちまたじゃ流行はやりの魔石独楽。ぐるぐる回して勝てば天国、負ければ地獄。負けたお前にゃ魔石が無え。魔石が無えなら、何が楽しいただの独楽!だけども、心配するこたねぇ。このデンのおっちゃんがおめぇ達には付いてるぜ。見てみな見てみな!この魔石。赤、青、黄、ぜーんぶそろってるじゃあねぇか!!今ならこの魔石がたったの二千ナグルで手に入るってなもんだ!いや、今日は特別だい!!もってけ泥棒千ナグル!!どうだい!?どうだい!?ほしい奴は早いもん勝ち。ガハハハハ!!」


 チヨは「あー……」と、天を仰ぐ。

 今日朝先生が言っていた不審な男はデンだったのだ。先生たちもデンのことは知っているはずである。それなのに、朝の会でと伝えてくれたのは先生の優しさからだと、幼心にチヨは悟った。


 デンの周りには瞬く間に子供たちが群がり人だかりができる。その人だかりを一生懸命掻き分けキキが出てくる。


「アハハ!チヨちゃんのおじちゃん魔石売ってた」


「そうみたいね……しずかに行こ」


 チヨはデンに気づかれないようにしゃがんでその場を通り過ぎた。

 学校の敷地をぐるりと囲む壁が切れるあたりに差し掛かると、後ろから何やらもめる声が聞こえる。


「おお!!?ワシがどこで何を売ろうが関係ないじゃろが!!」


「あんたねぇ!子供にそんなもの売って恥ずかしくないのか?」


「恥ずかしありゃせんわい。ほしい奴がおって売りたいやつがおる!そこのどこに恥ずかしいことがあるんじゃい」


 デンを止めるために続々と職員が学校から出てくる。その中にはチヨたちの担任のロスもいた。


(アタシがはずかしいんだって!!デンのバカ!)


 振り返らなくても、なんとなく事態を把握できたチヨは前をまっすぐ向いて歩き続ける。


「チ……チヨちゃん……?」


 心配そうにキキがチヨの服の裾を掴んで引っ張る。


「キキちゃん、いいの。行こう。アタシ今日はデンとなの」


 そう言ってチヨは一切振り返ることはなかった。チヨは祈った。けが人が出ませんようにと……


 つづく

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