第22話 崩壊の兆し

官邸の会議室には、いつも以上に張り詰めた空気が漂っていた。内閣官房の担当者が資料を配りながら、淡々と報告を続ける。

「昨日から今朝にかけて、主要都市で小規模な暴動が複数発生しました。

 買い占めを巡る争い、店舗への投石、駅構内での衝突……市民同士のトラブルが急増しています」

総理・相良賢人は額に手を当て、短く息を吐いた。

「予想より早いな……」

治安維持を担う警察庁幹部が声を上げる。

「部隊の増派を検討しています。ただし規模が大きくなれば自衛隊の投入も視野に入れる必要があります」

その言葉に場の空気が一段と重くなる。相良は机上の資料から目を離し、窓の外の曇天を見つめた。

――国の秩序を守るための決断が、いよいよ目前に迫っている。

だが同時に、その決断は市民の「日常がもう戻らない」ことを意味するのだ。

相良はゆっくりと目を閉じ、心の奥底で問いかけた。

(どこまで守れる……? この国を、この人々を……)

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