第8話 おどおど系美少女、現る

 試験官に番号を呼ばれ、的の前に出ていく。まずは5メートルの距離。この距離で止まってる相手に外すことはない。あとは威力をどうするかってところだ。


 とりあえずどんなもんか一回やってみてから考えるか。悩んでてもしょうがない。


 右手の親指を立て、人差し指と中指を伸ばす。残りの指はしっかりと握り、手で銃の形を作る。


 別にこの形を作らなくても撃てるっちゃ撃てるんだけど、エイムが悪くなるからこの形を作るようにしている。マリちゃんビームも手を添えた方が狙いやすいし、魔力操作が簡単だからそうしているだけだ。


 中指を中心に魔力を集めていく。渦を巻くように集め、とどめ、放つ。



「バン」



 白く輝く魔力は一筋の光を残して的に直撃した。ド真ん中。いい感じだ。別にバンって言わなくても撃てるんだけど、気持ちが乗るんだよな。魔法って結構気持ちが大事。これマジだから。


 的を見れば、魔力の当たったところが黄色くなっている。今の感じで黄色まで行くのな。大体わかったわ。



(マリちゃんビームは使わないのですか)

(あんなぶっといビーム撃ってもコントロールの証明にならないだろ)

(しかし実技で筆記を挽回するのではないのですか?)

(コントロールで圧倒する。まあ見といてよ)



 10メートルの距離の的の前に移動する。同じように銃のハンドサインの形を作る。


 一回目よりも多くの魔力をとどめる。出力を絞る。イメージは細く長く。息を吐く。それを合図に魔力を放つ。


 的に当たっても魔力の放出を続ける。細かく腕を動かし、ビームの当たる先を少しずつずらしていく。魔力の量を調整し強弱をつける。こんなもんかな。


 3秒ほど経ったところで魔力の放出をやめる。結構うまいこといったんじゃない?



(黄色の王冠に緑色の下向き矢印がくっついていますね)

(どう見てもチューリップだろ)

(発想はいいのですが絵心が……)

(お、おまえ! それは禁句だろ!)

(複雑な構造はやめた方がよいのでは)

(ぐぬぬ……。じゃあちょっと変えるか)



 なんか後ろがザワザワしてる。俺の力作がチューリップかどうかで議論が起きてたらヤダな。その場合作者として論争を終わらせなければならない。


 今は自分のことに集中! 次はいよいよ20メートルの距離だ。今日の調子なら20メートルでも外す気はしない。でも、ただ狙って撃つだけじゃつまらない。


 右手をパーの形にして前に出す。指一本一本に意識を巡らせる。魔力を集める時点で強弱をはっきりさせる。親指が一番強く、小指に行くにつれだんだん弱くなるように。



「えい」



 魔力を放ちながら手首をひねる。当たり前のように的に直撃。今回は早めに魔力の放出を終える。構造自体は複雑じゃないし、こんなめんどくさい魔力操作はさっさと終わりにしたいからな。


 的を見ると、そこには五本の線が赤、オレンジ、黄色、緑、青の順番で並んでいた。うん。狙い通り。五色に分かれていれば誰が見ても虹ってわかるでしょ。



(これなら議論の余地はないでしょ!)

(まあ虹ですね)

(なんか煮え切らないな)

(五色だと色が足りない気がして)

(それっぽくなればいいんだって)

(ふむ……)



 シロは静かになってしまったし、なんかザワザワしてた後ろも静かになってしまった。チューリップか否かの論争に決着はついたのだろうか。結論を俺にも教えてほしい。



「こ、これにて全員分の二次試験終了です。この後は三次試験の面接ですが、その前に長めの休憩時間とします。13時までに一次試験で利用した教室で着席してください」



 やったー! 休憩だ! 一時間以上あるから何食べようかな~。ここの学食って外部の人でも使えるのかな? いやでもせっかく東京まで来たんだし、なんか適当なお店探してもいいな……。ラーメン? うどん? そば? なんか今日は麺類の気分だ。



(Heyシロ。魔法学院駅近くのオススメの麺類を教えて)

(すみません。よくわかりません)

(テレビでやってなかったの?)

(一度見たからと言って必ず覚えているわけではないのです)

(それはそうか。まあ探す楽しみが増えたと考えよう)



 とりあえず魔法学院の食堂でも探すか。来た時の順路の地図に載ってたりしないかな?とりあえず戻ってみるか。



「あ、あの……」



 背中側から声をかけられる。普段ならほかの人の声に紛れて聞こえないくらいの声量だったが、やたらと静かになった今ではずいぶんとはっきり聞こえた。



「わたしに何か御用ですか?」



 振り返って答える。説明しよう! スーパーラブリーパーフェクト美少女ことマリちゃんは、よそ行きモードだと一人称が「わたし」に変化するのだ!



「あっ……その……ええっと……」



 話しかけてきたのは同年代くらいの紫髪で制服を着た女の子。肌は雪のように白く、伏し目がちでおどおどしている。自信がなさそうだけど顔立ちは整ってるし、クラスにいたら自分だけは彼女のよさに気付いている、とみんなが思いそうな子だ。

 よく見たらあれだ。実技試験でトップバッターだった子だ。お疲れ様です。



「慌てなくていいですよ。ゆっくりお話ししてください」

(普段とはまるで別人ですね)



 TPOくらい俺だってわきまえる。ちょっと人よりその振れ幅が大きいだけだ。


 紫髪の女の子が息を整える。さあ、来い!



「い、いっしょにごはんたべませんか……?」



 デートのお誘い? 人生初デートだ! しかもこんなかわいい子と!? 乗るしかない、このビッグウェーブに! ぼっちのみんな、俺は一足お先に抜けさせてもらうぜ!



「ええ、いいですよ」

「や、やったあ! あ、ありがとうございます!」



 なんだこのカワイイ生き物は。スーパーラブリーパーフェクト美少女マリちゃんが、かわいさで押されている……!? 心の中の母性?父性?わかんねえけど親心に相当する部分をくすぐられている……!



「わたしは大出麻里といいます。あなたのお名前は?」

「あっはい! 藤原ふじわらあやめです!」

「あやめさん、よろしくお願いしますね」

「ひゃい!」



 ガチガチに緊張してる。緊張してるのは分かるんだけど、俺もコミュニケーションの経験値が少なすぎて助けられない。どうすりゃいいんだ……! たすけてシロえもん!



(緊張をほぐす方法を募集! できれば急ぎで!)

(とりあえずここから移動した方がよいのでは?すごい目立ってますよ)



 確かになんか異様な雰囲気だ。まるで一挙手一投足を観察されているような。でも観察されているのは俺というよりも、むしろあやめちゃんの方だ。こりゃシロの言うとおり一回離れた方がよさそうだな。



「あやめさんは食べたいものはありますか?」

「え、えっと、なんでも食べます!」

「それでしたらわたしについてきてもらっていいですか?」

「ひゃい!」



 あやめちゃんを引き連れてそそくさと演習場を後にする。落ち着いて話ができる場所がいいな。ラーメンは無しだ。しゃべれるような場所じゃない。


 幸いにも俺たちの後を追いかけてくるような奴らはいなかった。よかったよかった。

 あわあわしながらついてくるあやめちゃん。グッ……。直接脳に届くかわいさだ。認めよう。君はスーパーラブリー美少女だ……!



「とりあえず駅の方にいきましょう」

「は、はい!」

「……そろそろ落ち着いてきましたか?」

「あ、えっ、ありがとうございます!」



 あいかわらずわたわたしているものの、さっきよりはだいぶ良くなったかな?歩調を合わせながら話しかける。



「あやめさんは魔法学院の生徒なのですか?」

「あっ、いや、違うんです! 普通の高校に通ってます!」



 学歴ファイト、敗北……! 高校いかずにフラフラしてる人間に学歴ファイトは分が悪いぜ。



「今高校何年生ですか?」

「一年生です! 15歳です! はい!」

「じゃあわたしたち同い年ですね」

「えっ」

「どうしましたか?」

「い、意外でした! なんか大人っぽくて……」

「ありがとうございます」



 違うんだ。違うんだよあやめちゃん。俺は同年代とのコミュニケーションの仕方がわからない悲しい怪物なんだ。年上とのコミュニケーションを使いまわしているからそう見えるだけなんだ。やさしくしてね。


 たのしくおしゃべりしながらぼちぼち歩いて駅まで戻ってきた。あんまり土地勘ないけど、来た時と逆の出口から行けばなんかしらあるでしょ。おっきな駅だし。


 座れて、ゆっくりできて、落ち着いてしゃべれてお昼ごはんがある……カフェがいいかな。駅の近くだから混んでるっちゃ混んでるけど、二人なら入れるでしょ。


 歩きながらあたりを見渡すと、カフェやらコーヒーショップやら喫茶店やらが乱立していた。思わぬ激戦区……! それぞれ何が違うのかわかりゃしねえ……! とりあえず知ってる名前のカフェに行こう。知らんとこ怖いし。



「カフェで大丈夫ですか?」

「はい!」



 いいお返事のあやめちゃんとみんな大好きな有名チェーンのカフェに入店。

 刮目せよ! コミュニケーションがへたくそな俺の精一杯の雄姿を!

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