2章 機を伺うにて候

第2話 御厄介の身にて候

 【炎帝歴2年】の卯月4月のこと。

 澄みきった青空が広がり、日差しが暖かく風が心地よく感じられる季節の時。

 木窓から覗く小枝に付いた葉が、さわさわと揺れる音が小気味よく聴こえてくる。

「……陽葵様。陽葵様?」

 何やら目の前が騒がしい。

「もしかしてまた寝てらっしゃいますか? 陽葵様?」

「起きてる……」

 私は寝ぼけまなこをこすり、ボンヤリと前を見つめる。

 うん、間違いない。

 お目付け役である婆やが、しわがれた呆れ顔で私を覗いている。

 成程、どうやら歴史の勉学中に、また眠くなって寝てしまったみたいだ。

 私は寝ぼけた脳を整理するため、記憶を一端整理することにした。

 20歳になった私は今、炎帝国の捕虜になっている身だ。

 個室から見える城内を見ると、燃える炎を模した赤く柱木を塗った城が見えるので間違いないだろう。

 ちなみに警備は厳しいため、理由が無い限り城下町外に出るのが難しい状態だ。

 なので、空路から逃げる手段も考えた。

 が、領地内に強力な空結界を張られている。

 で、万が一空を飛べたとしよう。

 帝国の屈強な飛竜兵や陰陽師部隊が配置されていて、即追尾撃墜されるだろうなあ。そう考えると深いため息が自然とでてしまうわけですよ……。

 で、話は変わりますが、花蝶国の領主であった私が殺されていない理由がある。

 それは国宝である【椿姫日輪の刀】のありかを私から聞き出すためであり、「野心家である炎帝国の君主が【七宝伝承しちほうでんしょう】を信じている」からだ。七宝伝承……えっとなんだっけ? 今は思い出さなくていいかあ。

 なお、その椿姫日輪の刀。実は私が今も腰に下げていたりする。

 で、この刀。刃が付いておらず「これが椿姫日輪の刀です!」と、私がいくら力説しても「刃の無い刀が家宝であるはずがない!」と、誰も信じてくれないのだ。

 私としては、さっさと自由の身になってしまいたいので、嘘偽りなく語っているんですがね。

 というわけで、私は2年間の間、炎帝国城内で絶賛監禁状態ぜっさんかんきんじょうたいです。

 父と母を殺し、国も滅ぼしてくれたにっくき炎帝国。出来ることなら復讐してやりたいけど、残念ながら今現在私の環境では無理な話。

 悔しいけど、大人しく牙を研ぎながら機会を待つしかないのです。

 まあ、今私がここにこうして無事? でいられるのも、私を庇って討ち死にした父と忠臣達のおかげ。

 それに、あの時私を城内から引っ張り出し安全な場所に避難させてくれた……。

 えっと、あの人誰だっけ?

 私は自身の額をコツコツと軽く叩き、遥か昔の記憶を辿る。

 そうそう! 確か【風月国】の若いお侍さんと本人が言っていた。

 張りのある声からして20代だった、と思う。

 緑色の龍の面を被っていたので顔は覚えていない。

 覚えてるのは、剣筋が鋭くとても強かったことだけ。きっと名のある剣聖に違いない、と私は勝手に思ってる。

 あの人、父上並みに強くてね。お陰で私は死なずに済んだ。

 ああ……また、会えるならあの人に是非会いたいな……。

 白髪頭の婆やの顔を再び見、厳しい現実を実感し、私は深いため息をつく。

「仕方ありませぬ。また気晴らし城下町に行きましょうか……」

 私のやる気の無さを感じ取ったからか、婆やは妥協案を出す。

「わあい! 話が分かる婆や大好き!」

 喜びの余り、思わず婆やに抱き着いてしまう私。

 だからか、私の羽織っていた椿の花柄の羽織はしわだらけになってしまう。


 それから四半時後。

 外出用の殿方用に服装に着替えた私は、婆やと共に炎帝国の城下町に来ていた。

 だから私はすこぶる上機嫌だ、うん!

 正直、城内にいると着物を着ていないといけないので、ストレスが溜まるんだよね。

 私は殿方用の動きやすい服装が好きなので、昔から愛用の紺色の着物を着ているのだ。理由は今、腰に下げている刀を使いやすいから。当然、国宝の椿姫日輪の刀も忘れずに腰に下げている。

「決して城下町から出てはなりませぬぞ……」

「分かってるって!」

 私は婆やに空返事を返し、城下町を勢いよく駆けていく。

 で、現在感じ取ったことだけど、ここの城下町は本当に活気に満ち溢れている。

 目の前の子供達は笑顔でそこら辺を元気に走り回っているし、商人も笑顔で商売出来ている。遠目に見える農家達も楽しそうにのんびりと田を耕している状態なのだ。

 噂では独裁制を行っていると聞いていた。

 が、思いっきり誤情報であった。

 実際この国の領主は、かなりやり手と私は考えている。

 というのも、一回も領主の顔を拝謁はいえつしたことが無い。

 おそらく余計な情報は流さないタイプの切れ者と、私は考察している。

 だからこそ、あの強かった私の父上が戦争に負けたのだ、と。

 そして皮肉なことに、私はこの2年間ここで安全に暮らせているんだと思う。

 多分暴力では解決せず、私の心が折れるのを待っているのだろう。

 その考察にはちゃんと裏付けがある。

 「私の故郷が最低限の被害だけで済んでいるという情報」を私の子飼いの忍びから聞いたからだ。

 なによりも、この城内の有様だとその情報は信用出来る。

 それに「何よりも民達が被害にあわなくて本当に良かった」と、そこら辺は心底私は感謝している。

 さておき、ここの領主。「逃げれるならいつでもいいので逃げて見ろ」と言っているように私は感じてしまうのだ。

 まあ、実際に警備が厳しくて逃げられないんですけどね。 

 ともあれ、ここに2年程住んで、父上と母上が殺された激しい憎悪が徐々に薄らいできていることに私は困惑している。この炎帝国の象徴である燃え上がる炎の如き憎悪が……である。

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