第2話 せっかく手に入れた力、振るわなきゃもったいないですから
どうも皆さん。
邪竜ディアベルを封じた禁書を燃やしたら、可愛い竜のマスコットと無限の魔力を手に入れたジオルグです。
まるで神様にでもなったかのような全能感が堪らないですね。調子に乗るとはこのことでしょうか。
「やい、やい!! 汝!! もう十分だろう!! いい加減に我の魔力を返せ!!」
「お断りします」
「ぬぁぜだぁ!! 汝、魔法は諦めたとか言ってたではないか!!」
「人間の大半は有言実行をできない愚かな生き物なのですよ。俺もその一人です」
早朝。
目が覚めるや否や、俺は小さな黒竜に頭をぺしぺしと尻尾で叩かれてしまいます。
ゲームでは世界を滅ぼそうとする邪竜ですが、こうなると可愛いものですね。
しかし、あまりにも魔力を返せとしつこいです。
俺のものは俺のもの、お前のものは俺のもの、
俺はかつて読み漁っていた魔導書に記されていた魔法を試すことにしました。
「――
「ぐぇ!?」
呪文の詠唱を終え、魔法が発動しました。
その瞬間、魔法陣から飛び出した魔力の鎖がディアベルを簀巻きにしてしまいます。
鎖はやがてディアベルの身体に溶け込むように消えました。
野生の魔物を手懐けるための魔法です。ディアベルも魔物ですし、その効果対象です。
この魔法は格下の魔物にしか通用しませんが、ディアベルの魔力はゼロ。対して俺は無限の魔力を持っています。
彼を支配することは実に楽勝でした。
自分がどういう状態に陥ったのかすぐに理解したディアベル。
今度は口汚く俺を罵ります。
「な、汝!! この外道!! 我の魔力で我を眷属にするとか、人の心はないのか!?」
「せっかく手に入れた力、振るわなきゃもったいないですから」
「鬼!! 悪魔!! 邪神!!」
しかし、言われてみれば奇妙です。
前世の俺は悪戯に力を振るわない、謙虚な心を持って堅実に生きようとする、真面目な人間でした。
それが今では思うがままに力を振るい、力に溺れているではありませんか。
ゲーム本編に登場するジオルグは力を得るためなら何でもする非情な人間でしたが、あまり溺れていた印象はありません。
むしろ、幾度となく自らの命を狙う主人公らに罠を何度も仕掛ける用心深さと厄介さがあった程です。
勝手な推測ですが、もしかしたらジオルグと
まあ、これと言って特に支障はないですし、気にしない方針で行きましょう。
それよりも、ご主人様を外道呼びしたペットにはしっかり躾をしなくてはなりません。
「さっさと我に魔力を返して――」
「お座り」
「ぐわっ、か、身体が勝手に!?」
「お手」
「くぅ、て、手が!! 我の意志に反して動く!!」
ディアベルは俺の命令に従い、お座りをしてお手しました。
口では抵抗しながらも俺の言葉に従うところが、前世で飼っていた柴犬にそっくりです。
可愛いですね。
「さて、今日は何をしましょうか。魔法が使えるようになって気分がいいですし、散歩もいいかも知れませんね」
「くっ、どうすればこの怪物を止められるのだ!?」
俺はルンルン気分で散歩に出かけました。
王位継承権を持たないとはいえ、俺はマギルーク王国の王子です。
散歩できるのは精々お城の中庭くらいですが、それでもかなりの広さがあります。散歩には十分でしょう。
昨日まで何とも思わなかった中庭の草木が美しく見えるのは、魔法を使えるようになったからでしょうか。
世界が輝いているようです。
と、その時です。
何やら中庭に隣接している騎士団の訓練所から、歓声が上がりました。
何事かと思って確かめに行くと、俺よりも幼い少年が騎士たちに囲まれ、ちやほやされているようでした。
「流石です、バベック王子!!」
「齢十三歳で上級魔法を習得なさるとは!! 殿下は天才です!!」
「どこぞの無能王子、ジオルグ殿下とは大違いです!!」
囲まれているのは俺の弟、マギルーク王国の第三王子です。
名前はバベック・フォン・マギルーク。
ゲームでは力を得たジオルグが殺してしまう、名前だけ登場するモブですね。
上級魔法を使えるようになったことで騎士たちから褒めちぎられているようです。
……ところで、彼を称賛するのにわざわざ俺を引き合いに出す必要はあったのでしょうか。
しかし、バベックはその言葉に気分をよくしたようです。
「ふん、当然だ。この僕を王家の者たる資格のない無能と一緒にするな。……ん? 噂をすればなんとやら、だな」
むむ、どうやらバベックに見つかってしまったようです。
俺は走って逃げようかと思いましたが、性に合わないのでやめました。
堂々と胸を張って歩き、バベックの前に立ちます。
「いつもおどおどして声をかけたら逃げ出すのに、今日は珍しく逃げないのですね、あ・に・う・え?」
「ええ、逃げる理由も特にありませんから。今日はいい天気ですね」
「……おい、無能」
バベックの嫌味を適当に流すと、彼の態度が豹変しました。
俺が怯えていないことが相当気に入らない様子です。
「誰にそんな態度を取ってるんだ? 僕は王位継承権第二位だぞ!! 継承権も持たない無能が偉そうにするな!!」
「理不尽ですね。子供らしい主張で可愛いと思いますが」
「き、貴様、僕を愚弄するか!! いいだろう、そこまで言うなら決闘だ!!」
そう言ってバベックは勢いよく手袋を投げつけてきました。
この手袋を拾えば、決闘の承認です。
正直、決闘など面倒極まりないのですが、俺も腹の立つことはあります。
俺はその決闘を受けて立つことにしました。
今まで俺を馬鹿にしてきた奴らに鬱憤が溜まっていたのでしょう。
今までは見返す力がなかったので気にしないようにしていましたが、やはり心の奥底でずっとイライラしていたのかも知れません。
「どうした? 逃げるなら今だぞ? 今すぐ泣いて許しを乞うなら特別に許してやっても――」
「いいでしょう。決闘、しましょうか」
「……は?」
「その代わり、俺が勝ったら王位継承権をください」
「なっ」
呆気に取られるバベック。
別に王位継承権がほしいわけではありませんが、こう言った方が彼にはいい挑発になるでしょう。
案の定、バベックは俺の物言いに激怒して頷きました。
「いいだろう!! 二度と歩けないようにしてやる!!」
「では決闘成立ですね。この場にいる騎士の皆さんは立会人ということで」
「お、おい、汝!! 本気でやるのか!? また昨夜みたいに王都が滅びるぞ!?」
ディアベルが翼をパタパタさせながら、俺に耳打ちしてきました。
たしかに初級魔法ですらあの威力ですし、下手に戦えば王都はおろか国が滅びる可能性も十分にあります。
でもまあ、ディアベルの魔力があれば修復や死者の蘇生も楽々できるでしょう。
今は長年の鬱憤を晴らすことに集中します。
と、その時でした。
バベックがディアベルのことを見つめ、フッと鼻で笑ったのです。
いきなりどうしたのかと思えば、バベックはディアベルを罵倒しました。
「なんです、兄上。そのデブトカゲは。小汚ないペットを飼い始めたのですね」
「……おい、汝。ジオルグよ」
「はい、なんでしょう?」
ディアベルはピキッと額に青筋を浮かべながら俺に言いました。
「あのクソガキを我に代わってぶち殺せ!! もうこの際我の魔力を好きに使って構わん!! 何が何でもぶち殺せ!!」
「怒っていてもその姿だと可愛いが勝りますね」
ディアベルから声援をもらったところで、俺は手袋を拾い、決闘を承認しました。
騎士たちはあまりの急展開に理解が追いつかないようでしたが、まあいいでしょう。
訓練所の中央でバベックと向かい合い、決闘開始の合図を待つことにしました。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイントディアベル
デフォルメされて翼が小さくなっているため、傍目からはデブトカゲに見える。強大な魔力を失って傲慢な性格が軟化した。
ディアベルかわいいな、と思ったら★★★ください。
「ディアベルが気の毒すぎる」「ジオルグがヤバイ奴」「弟を分からせねば」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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