第3話 兄を無能呼ばわりする弟のプライドをへし折るのは気分がいいですね
しばらくして、話を聞き付けた騎士や侍女、王城で働く貴族たちが見物にやって来ました。
テレビやゲームのような娯楽が極めて少ないこの世界では、決闘は手に汗握るスポーツのようなものです。
いえ、決闘は場合によっては死者が出ることもあるので、デスゲームと表現すべきでしょうか。
そうこう考えているうちに、今回の決闘の審判を務める騎士が合図を出しました。
「では今から、バベック王子とジオルグ王子の決闘を行います。――始め!!」
「食らえ!! ――
開始と同時にバベックが上級魔法を放ちます。
彼の手に魔法陣が展開し、炎の嵐が俺に向かってきました。まともに受けてしまえば、丸焦げにされてしまうでしょう。
話は変わりますが、魔法はその威力や効果によって幾つかの等級に分かれます。
呪文さえ唱えれば発動する初級魔法を始め、下級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法の五つですね。
この中でも中級魔法以上は殺傷力が高く、とても扱いが難しいです。
齢十三歳でありながら上級魔法を使いこなすバベックは天才と言っていいでしょう。
しかし、その天才を一方的に蹂躙するだけの魔力が今の俺にはあります。
俺は向かってくるバベックの魔法を見据え、最大火力を試すことに。
「――
超級魔法です。
長年魔導書を読み漁ってきた経験は俺を裏切らないもので、無限の魔力によって発動することができました。
ゲームでは主人公の仲間の魔法使いがレベルマックス時に習得する最強の炎属性魔法です。
初級魔法でもオーバーキルになるでしょうが、せっかくの決闘ですし、試したくなったので試しました。
さて、一体何が起こるのでしょうか。
結果はすぐに分かりました。
超級魔法を発動したことでマギルーク王国全体をを覆うような……否。大陸全土を覆うような魔法陣が出現しました。
その魔法陣から放たれる絶大な魔力によってバベックの魔法は掻き消されてしまったのです。
そして、上空の魔法陣からゆっくりと小さな炎が落ちてくるではありませんか。
人々はただ無言で空を見上げるばかり。
騒ぐでもなく逃げるでもなく、その場で呆然と立ち尽くしていました。
きっと理解したのでしょう。
あの炎が落ちてきた時が自分たちの最期だと、大陸が消滅する時なのだろうと。
「ば、馬鹿者!! たしかにあのクソガキをぶち殺せとは言ったが、やりすぎだ!! あれでは我も汝も滅びるぞ!!」
唯一、ディアベルだけが俺の頭を尻尾でぺちぺち叩きながら苦言を呈しました。
流石はゲームで世界を滅ぼそうとしただけあって核炎の効果を理解しているようです。
まあ、当然ながら着弾してしまえば俺も巻き込まれてしまうので、魔法の発動を途中でキャンセルしました。
超級魔法は初級魔法と違って発動するまで時間がかかるが故にできることですね。
「な、なんだったんだ、今のは……」
「賢者様が地竜を倒す際に使った超級魔法の核炎に似ていたが……」
「いや、それよりもジオルグ王子が今の魔法を使ったのか……?」
「ば、馬鹿なことを言うな!! あのような魔法を無能王子に使えるわけがないではないか!!」
「しかし、ジオルグ王子が呪文の詠唱をした途端に空に巨大な魔法陣が出現したのだぞ!? 偶然にしてはできすぎている!!」
俺とバベックの決闘を見物しに来た人々も驚いているようです。
ああ、肝心のバベックですが、核炎の魔法陣を見た途端に腰を抜かして小便を漏らしてしまったようです。
気の毒ですね。
前世の小学校だったら半年くらいクラスメイトにからかわれてしまうでしょう。
「審判、バベックは戦意喪失のようですし、決闘は俺の勝ちでいいですか?」
「え? い、いや、しかし……」
「ま、待て!! ふざけるな!! 今のはいきなり空に現れた魔法陣に驚いただけで、お前に屈したわけでは――」
「――
俺は上空に向かって初級魔法を放ちました。
先ほどバベックが使った上級魔法など足元にも及ばない火力、昨夜王都を半壊させた破滅の光です。
バベックはおろか、決闘を見ていた人々もその場で腰を抜かしてしまいました。
俺はバベックに笑顔で宣告します。
「次はこの魔法を当てます。俺の勝ちでいいですね?」
「は、はひっ」
恐怖で目に涙を浮かべながらも敗北を認めたバベック。
ああ、今まで散々見下してきた兄に心もプライドもへし折られる気分はどんなものでしょうか。
少なくとも俺は気分がいいです。
さて、これで俺はバベックから王位継承権第三位をもらうことになりました。
明日からは兵士に無能王子と罵られることも、見下されることもなく平穏に過ごすことができるはずです。
「ジ、ジオルグ王子、陛下が謁見の間にてお待ちしております」
まさか国王からの呼び出しです。
いやまあ、王位継承権を賭けてバベックと決闘したこともありますし、呼び出されて当然ではありますが。
それにしても今まで見向きもしなかった息子を呼び出すとは思っていませんでした。
謁見の間へ向かう道中、俺はディアベルと小声で先ほどの決闘について話します。
「初級魔法の時もそうでしたが、ディアベルの魔力を使うと魔法の威力が格段に上がるようですね。いやはや、興味深いものです」
「いや、我知らん」
「え?」
「我が魔法を使ってもああはならん。おそらく汝は我の魔力と我以上に相性がいいのかも知れん」
「……なるほど」
少なくともゲームのジオルグにそのような設定はなかったはず。
しかし、そういう裏設定があっても不思議ではないですね。
しばらく話しているうちに俺たちは国王が待つ謁見の間に到着しました。
中に入ると、髭を生やした中年の男性が額に脂汗を流しながら俺を見下ろしています。顔色が悪そうですね。
「よ、よく来たな、ジオルグよ」
「お久しぶりです、国王陛下」
「か、堅苦しい物言いはよせ。余とそなたの仲ではないか」
俺など眼中になかったくせに、今さら父親面とは片腹痛いです。
とはいえ、彼の心中も理解できます。
王族のくせに魔法が使えなかったダメ息子が、いきなりアホみたいな威力の魔法を扱えるようになったのです。
きっと復讐を恐れているのでしょう。
たしかに今までの鬱憤は溜まっていますし、手のひら返しにはイラッとします。
しかし、向こうから何もしてこないなら俺も自分から何かしてやろうとは思いません。
ただ思うままに力を振るいたいだけです。
正常な価値観を持つ人ならば意味なく力を振るうのはよくないと言うでしょう。
知ったこっちゃないです。
俺はただ自分がやりたいことだけをやって、やりたくないことはやらないだけです。
「と、ところでジオルグよ。先ほどの、超級魔法のような魔法とその後の光線はそなたの仕業か?」
「はい、国王陛下」
俺は国王の問いに笑顔で頷きました。
すると、国王は額に脂汗を浮かべて顔面蒼白になります。
それでも俺の機嫌を窺うように笑顔を作って、問いかけてきました。
「な、何かほしいものはあるか? 思えば、政務で忙しくてそなたには親らしいことをしてやれなかったからな」
「ああ、とてもありがたい申し出です。では一つ、俺が魔法学園に入れるよう取り計らってはもらえませんか?」
「ま、魔法学園に?」
きっと国王には分からないでしょう。
俺は今までほぼ自力で魔法の知識を身に付けてきましたが、所詮は独学です。
魔力の扱いは粗が目立ちますし、マギルーク王国の魔法学園には王城の地下書庫以上に広い図書館があると聞きます。
もしかしたらもっと沢山の知識が得られるかも知れません。
国王は俺の要求を断ることができず、明日には魔法学園に入学できるよう手配してくれました。
父親としてはどうかと思いますが、仕事の早さは見事なものですね。
時は少し経ち、夜になりました。
「今日もいい一日でしたね、ベル君」
「……おい、まさかベル君というのは我のことか!?」
「はい、ディアベルなのでベル君です。そのマスコットみたいな見た目でディアベルは似合わないと思ったので、勝手に考えました」
「我、大昔に神を殺したこともある邪竜ぞ!? ベル君はプライドが傷付くぞ!?」
ベル君という呼び方は不満なようです。
とてもいいと思ったのですが、ベル君が不満ならやめておきましょう。
俺はベッドに入って毛布を被り、眠りに就きました。
「ディアベル、起きてますか?」
「……寝てる」
「起きてるじゃないですか。……今のやり取り、修学旅行みたいですね」
「我には汝が何を言っているのか分からん」
ディアベルは俺を冷たくあしらいます。
それにしても、自分で口にしておきながら修学旅行という言葉を聞くと、つい前世を思い出してしまいます。
何より残してきた家族が気掛かりです。
父はすでに他界しましたが、母は少し天然なところがありますし、妹はド級のおっちょこちょいですから。
会えるなら会いたいものです。
一応、転移魔法という長距離を瞬時に移動する魔法を応用すれば叶うてしょうが……。
世界を渡るには無限に等しい魔力が必要になるです。
……あっ。無限の魔力、ありましたね。
「ディアベル、まだ起きてますか?」
「ええい、なんだ!! ようやく我に魔力を返す気になったのか!? そうでないなら早く寝ろ!! 眠れないなら子守唄を歌ってやろうか、んん!?」
「いえ、そうではなく。今から俺の前世の世界に遊びに行きませんか?」
「……は?」
ディアベルは間の抜けた表情になりました。可愛いですね。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
ディアベルは子守唄がバチクソ上手。
あとがきの情報が要らなさすぎる、と思ったら★★★ください。
「弟ざまあ!!」「国王の手のひら返しで草」「ベル君かわいいやん」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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