第10話 死にゲー廃人、もうMMOに飽きる

 彷徨う騎士との死闘を終えた俺は第一の街【ファスト】を目指していた。

 俺はミーミを連れて草原を歩きながら愚痴を漏らす。


「……飽きた」

「にゃ?」

「面白くない!」

「にゃにゃ!?」


 俺の愚痴にミーミは目を丸くして驚く。


「どうして急にそんなこと言うにゃ!? さっきまであんなに楽しそうに戦ってたにゃ!!」 


 ミーミの言う通り、確かに彷徨う騎士との戦いは面白かった。

 一つでも選択を間違えれば即死の死と隣り合わせの戦い。

 これまでの死にゲーでは得られなかったあの臨場感。

 あの時はわくわくしてたまらなかった。

 けれど今はどうだろうか。


「なんでこんな雑魚ばっかりなんだよ!」


 俺は目の前に沸いたゴブリンを木の棒で一撃で吹き飛ばす。

 ゴブリンはごぶっと呻き声を漏らして消失した。


「全部の敵がワンパン! 攻撃も遅いし、単調だし、こんなの幼稚園生でも倒せるぞ!?」

「だってそれは最初のエリアのモンスターにゃんだし……」



 時は三十分ほど前に遡る。

 彷徨う騎士を倒してレベルが上がった俺は早速ステータスポイントを割り振った。

 1レベル上がるごとにステータスポイントを3得られる。

 要するに俺にはステータスポイントが27ポイントあったわけだ。


「これまでステ振りはセーブポイントで火守の女性にお願いしてたから、なんか自分で出来るの新鮮だな」


 大抵の死にゲーはステータスの振り分けはセーブポイントでしか出来なかった。

 そのうえ、全部の死にゲーがそうだったわけではないが、半分以上がセーブポイントにいるNPCに頼んで行ってもらうのだ。

 それがエクリプスではいつでもどこでも出来るらしい。何と便利なのだろうか。


「ステ振り悩むなぁ……」


――――――――――

【名前】ナギ

【種族】人間(不死の開拓者)

【ジョブ】流浪人

【レベル】9

【HP】700/700

【MP】50/ 50

【筋力】12

【技量】15

【俊敏】10

【持久力】13

【耐久力】6

【信仰力】11

【運】15

【ステータスポイント+27】

――――――――――


 ステータスのポイントは今後の装備や戦闘スタイルを決めるとても重要なものだ。

 おそらく今後、ステータスポイントをリセットするアイテムやイベントも出てくるだろうが、大抵は貴重だったり高価だったりする。そう何度も出来るものではない。


「うーん、とりあえず耐久力と信仰力、運は論外だな」


 耐久力に関しては現時点で必要性を感じない。

 そもそもこんな上裸の時点で多少ポイントを振ったところで誤差だ。

 相手の攻撃なんて良ければいいだけ。

 避けられない攻撃が来たらどうするのか?

 何度も死んで避けられるようにするのみである。


 次に信仰力に関してだが、これは魔法を使うビルドが使うものだろう。

 これまで強いゲーでも魔法ビルドは何十回も試してきたが、やはり近接戦闘の方が俺の性には合っている。

 遠くで魔法を撃つより肉薄して死を感じたい、と言えば変態に聞こえるかもしれないが、そちらの方が楽しいので仕方ない。


 最後に運に関してだが、運や乱数に頼って勝ったところで再現性がない。

 それに運に振っておいて、運の効果がなければ悲しいが、もともと運にポイントを振らずに、運の効果が出れば嬉しくもなるだろう。


「ってことで筋力と技量と俊敏と持久力にどう振っていくかだな」


 俺は項目を眺めながら腕を組む。


「……筋力か、技量か」


 死にゲー界隈では永遠のテーマだ。

 筋力に振れば単純に攻撃力が上がる。

 大剣や斧槍、ハンマーとかの重量武器を持てるようになって、一撃の重みが増していく。

 脳裏に浮かぶのは、過去の死にゲーでの経験。

 筋力を上げまくり、大剣を片手でぶん回し、敵を粉砕した時の爽快感だ。


 しかしその分、動きが遅い。

 振りの隙も大きく、ボス相手だとその隙が致命的なものとなる。

 特に俺のように紙装甲で挑むプレイスタイルだと、攻撃を外した瞬間が即死に直結する。

 重武器は火力とリーチが魅力だが、当てるまでに工夫がいる。

 それに、もし筋力振りにするなら耐久力にもポイントを振らなければならない。


「逆に技量に振ると……」


 俺は技量の数値を指で弾き、じっと見つめる。

 技量を上げれば武器の扱いが洗練される。

 細剣、双剣、刀……素早い武器を握れるようになり、連撃攻撃や振りの速さなどが魅力的である。

 クリティカルを入れやすくなるのもポイントだ


「一発の火力だけなら筋力だけど……コンボや手数なら技量一択だな」


 ミーミが首をかしげながら覗き込んでくる。


「にゃ? ナギ様は初心者なのにどうしてそんなに詳しいにゃ?」

「まぁ別ゲーの影響で何百通りとステータスは触ってきたからな」


 俺は迷いなくステータスポイントを振り込む。


――――――――――

【筋力】12 → 17

【技量】15 → 30

【俊敏】10 → 16

【持久力】13 → 16

――――――――――


「これで俺のジョブは完全に“技量ビルド”だな」


 メニューを閉じた瞬間、何かが体の奥で変わった気がした。

 試しに木の棒を構えて空を切るように振ってみるが、先ほどより軌道がより滑らかになり、後隙も少なくなったような気がする。 それに足捌きも軽い。


「早速、どう変わったか試してみるにゃ!」

「そうだな」


 俺とミーミはファストの街を目指しつつ、平原を歩きながら、うずうずしていた。

 丁度その時、茂みからゴブリンが一体、ギャギャッと鳴き声をあげて飛び出してくる。


「お、ちょうどいい。ステ振りの効果を試す相手にはもってこいだ」


木の棒を構え、一気に間合いを詰める。

次の瞬間、俺はひゅん、と風を裂くように一閃。


「ゴブッ」


 あっけなくゴブリンは吹き飛び、霧のように消滅した。


「……あれ?」

「にゃ? どうしたにゃ?」

「いや、弱すぎないか? 彷徨う騎士と違って、まるで豆腐を殴ったみたいに手応えがなかったぞ……」


 たまたま弱い個体だったのかもしれない。

 そう思って進むと、すぐに次のゴブリンが湧いてくる。


「今度こそだ」


 ゴブリンがぎゃっと声を上げ、錆びた短剣を振り下ろしてきた。

 しかし。


「おっそ」


 あまりにもゴブリンの動きが遅すぎる。

 スローモーションなのかと疑ってしまうほど遅い。

 俺は自然に木の棒を構え、ゴブリンが振り下ろす短剣とタイミングを合わせてカン、と弾く。


【パリィ成功!】


 ゴブリンは体勢を崩し、胴体をがら空きにした。


「……ほい」


 軽く一撃叩き込む。

 瞬間、ゴブリンは呻き声すら上げられず、そのまま光に変わって消えていった。


「……なにこれ?」


 俺は思わず木の棒を見下ろす。

 あの死と隣り合わせの緊張感がどこにもない。

 攻撃は遅く隙だらけ。

 致命を狙うまでもなく、一撃で終わってしまう。


「おもんねぇえええええええええええッ!」


 そして今に至るというわけだ。



「ここの平均レベルは3にゃ。対してナギ様は9レベル。さらに愚者フールの指輪のおかげで攻撃力が数倍上がってるにゃ。そりゃそうなるにゃ」


 俺は頭を抱えながら、うんざりしたようにため息をついた。


「それにしても、もうちょっと手ごたえあっていいじゃんよぉ……攻撃パターンも少ないし、あんなの誰も負けないだろ?」

「そもそもここは体の動かし方とか基本的なチュートリアルを学ぶステージにゃ。あんな彷徨う騎士のようなモンスターが他にいてたまるかって話にゃ」


 ミーミの言うことはごもっともだ。

 指輪をつけ、ステータスポイントを振った俺が悪いと言えば悪い。自業自得だ。

 けどあんな死闘を繰り広げた後に、このようなモンスターとしか戦えなくなったのだから俺の気持ちも汲み取ってほしいものだ。


「それが嫌なら攻略を進めていくしかないにゃ」

「そうだよなぁ」

「それにミーミが言うのもなんにゃが、ナギ様はMMOを初めてプレイって言ってたにゃ?」

「あぁ、初めてだけど?」

「それなら死闘以外の楽しみ方も知るべきにゃ。もし命のやり取りだけをしたいなら他ゲーでもいいにゃ。けど戦い以外色々楽しめるのがエクリプスのいいところにゃ!」

「確かに……」

「PVPだったり、ギルドに入って仲間と友情を育んだり、鍛冶や料理、他にはお金をためて自分の家を作るのもいいにゃ! 要するにエクリプスの楽しみ方は無限大にゃ!」


 この小さなゆるふわマスコットに正論パンチを食らったのは少し納得いかないが、ミーミの言う通りだ。

 自分は自分の知っている幸福だけで満足しようとしている。

 俺はもっと知らない世界を知るべきだ。もっと知る努力をするべきかもしれない。


「よし! ならとりあえず今は速攻でファストに行くぞ!」

「にゃにゃにゃ!」

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