第12話
朝は穏やかに訪れ、やわらかな陽光がカーテンを通して差し込んでいた。
メアリーはゆっくりと目を覚まし、まだ眠気の残る体を起こした。小さくあくびをしながら、起き上がる勇気を探していたその時──。
突然、部屋の扉が開いた。
二人の侍女が慌ただしく入ってきて、恭しく頭を下げた。
「おはようございます、メアリー様! 失礼いたします…」
そのすぐ後ろから、思いがけずヘイタンがひょっこり顔を出した。
侍女たちは目を丸くし、ためらうことなく王子の頭を軽く小突いた。
「殿下! ご令嬢のお部屋に勝手に入ってはなりません!」
二人が声を揃えて叱る。
ヘイタンは気まずそうに首をかき、苦笑いしながら謝った。
「ごめん…ただ心配で。守ってやりたかったんだ。」
あまりに意外な光景に、メアリーは思わず笑ってしまった。
ここ数日の緊張が少しだけ解けていくようだった。
「こちらはエステファニとレアナです。」とヘイタンが説明した。
「今日から君のお世話をしてくれる。信頼できる二人だ。」
メアリーは少し不安げに二人を見つめた。
それに気づいたヘイタンは、真剣な声で続けた。
「エステファニの母は、幼い頃からずっと俺の世話をしてくれていた。レアナの父は、最も忠実な執事だった。俺たちは共に育ったんだ。信じていい。」
その言葉に、メアリーの胸は温かくなり、自然と小さな笑みがこぼれた。
「…わかりました。信じてみます。」
ヘイタンも微笑みを返したが、すぐにため息をついた。
「もう遅いな。行かなくては。」
「どこへ?」とメアリーが尋ねる。
すると先にレアナが答え、くすりと笑った。
「殿下の日課ですよ。剣術の稽古です。」
彼が去ると、侍女たちはぱっと顔を輝かせた。
「それでは、メアリー様をお着替えさせていただきますね。」
やがて、彼女は美しい衣装に身を包んでいた。
鏡に映る自分を見て、目を輝かせる。
「わたし…綺麗。こんな素敵な服、どこで見つけたのですか?」
「私のものです。」とエステファニが笑顔で答えた。
メアリーは深く頭を下げた。
「ご親切に感謝します。」
「そんな、やめてください!」エステファニは頬を赤らめる。
「お役に立てて嬉しいです。」
するとレアナが耳元でささやいた。
「殿下は、メアリー様をお買い物に連れて行こうと計画しているんです。…秘密ですよ?」
メアリーは驚いて瞬きをしたが、返事をする前に二人に食堂へ案内された。
そこには豪華な食事が並んでいた。
「こんなに…どうして?」とメアリーは目を丸くする。
「殿下が『しっかり食べて元気を出してほしい』と仰ったのです。」とレアナが答えた。
メアリーは吹き出した。
「まるで太らせようとしているみたい。」
三人は声をあげて笑った。
メアリーはチョコレートケーキをひと口食べ、感嘆の声を上げる。
「すごく美味しい!」
「気に入っていただけて嬉しいです…」とエステファニが小さく答える。
メアリーは首をかしげた。するとレアナが笑いながら種明かしをした。
「エステファニの恋人が城の料理人なんですよ!」
ケーキを口いっぱいに頬張りながら、メアリーは驚きの声を漏らした。
「彼氏がいるの?!」
「しーっ!」エステファニは顔を真っ赤にし、慌てて口を塞ぐ。
三人はまた大笑いした。
食後、侍女たちはメアリーを連れて城内を案内した。
長い廊下、大広間、そして大きな窓。
中庭を通りかかると、剣を振るうヘイタンの姿が目に入った。
メアリーは思わず見入る。
「……上手。」
その言い方に、侍女たちはくすくすと笑った。
やがて彼女たちは城の大きなバルコニーへと辿り着いた。
優しい風が頬を撫でる。
「ここが城で一番の場所です。」とレアナが言った。
「頭を冷やすのに最適ですよ。」
メアリーは深呼吸し、心地よい風を感じる。
「本当に…気持ちがいいですね。」
「ここでの暮らし、いかがですか?」とエステファニが尋ねる。
メアリーは目を輝かせ、笑みを浮かべた。
「とても楽しいです。」
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