第2話
「学校ですか……」
この言葉はただの疑問だ、昔学校で虐められていたとか、馴染めずに不登校だったとか、そんなことは全くない。
「なんだ、不満でもあるのか? お前にしては珍しく困ったような顔をしているじゃないか」
隊長は変わらずの表情である。遅くはなるが彼女の名前を一応述べておこう、役職も兼ねて言うならば、特定魔法事案対策課隊長——
「いえ、困っているわけではありません。ただ話が見えないので」
「そうか、さすがにお前でもこの情報は知らないのか。まあこの課の中でも知っているのは私を含めて三人だからな。よし」
椅子から立ち上がり机に置かれたパソコンを起動する、手に取ったリモコンを操作すると彼女の背後にスクリーンが降りる。
映し出されたのは幾つかの資料、そのどれもがこの国——日本における魔法教育に関するものだった。
二百以上の国が存在するこの世界で日本の魔法軍事力は上位十位には食い込む、そのうえ魔法の制御や威力を向上させる機器のシェア率は第三位。このような点を踏まえればあらゆる面からの干渉が予測される。
黒埼は誓の横へと立ち説明を始める。
「昨年十一月、日本魔法技術開発研究所のデータセンターに攻撃があった。ニュースになっていないのはその攻撃が魔法による直接攻撃ではなく、外部からデータセンターのサーバーに向けて行われたからだ」
「被害は?」
「幸いなことに気付いた職員たちが外部からの接続を遮断したことによって何も影響はなかった」
「その件と俺が学校へ入学することに何の関係があるんですか?」
「実は外部から侵入があった時に作動する反逆システムが研究所のプログラムに組み込まれていてな、その結果として侵入者の足取りを少し追うことができた」
スクリーンに映し出された世界地図、襲撃地のある日本から逆算され侵入者の足取り――経由サーバーを辿る形で赤い線が引かれていく。
「これだけ探し回っても大元の位置は特定できなかった。だがな、一つ気になることが……」
そう言って彼女はスクリーンの地図を拡大していく。最終的に映し出されたのは関東、神奈川のデータセンターの座標が表示されている、そして……。
「確かにこれは少し気になりますね」
神奈川のデータセンターから延びた赤い線は海をまといで世界へと広がる前に東京のある場所へと向かっていた。
国立魔法技術者育成高校。
「どう見ても怪しいだろ、もし本当に犯人が国外から侵入し研究所の情報を盗もうとしていたのなら、わざわざここで無駄なサーバーを中継させる必要はない、足取りを探られないためだとしても既に数百のサーバーを経由しているのだから一つ増やしたところで大差ない」
隊長はスクリーンに体を向けつつ横目で俺の青を見た。
「……本当の目的は研究所じゃなくて高校」
「そういう事だ、私たちも数週間目にその結論に至った」
リモコンの操作でスクリーンが元に戻り暗かった室内にカーテンからの日が差し込む。
「藍沢誓少佐、これより偵察任務を命ずる」
この部屋に入ってきた時とは比べ物にならないほど真面目な姿勢と口調、隊長の証として胸元に刺しゅうされた銀の三本線。
年齢、性別、そんなものは関係ない。国家機関に属する以上はその任を拒否することはできない。
俺自身何か立派な志があるわけじゃない、誰かを守りたいとか、この国の外敵を排除したいとか、そう言った感情や意思もない。だがこ、おそらく俺はこの任務を指示に従い行うだろう。
それが正しいかは分からすに。
敬礼の姿勢をとる。
「藍沢誓、任務を遂行します」
「よろしく頼む」
俺の肩に手をのせて軽くたたく。
「そう言えば伝え忘れていたが今回の任務はお前一人じゃない」
彼女の言葉に思わず首を傾げそうになった。普段から単独で任務に就き、隊の人たちともあまり会う機会はない。隊長に連れられて月一で開催されている食事会へたまに参加する程度。
「失礼します」
穏やかな少女の声が背後から聞こえた、だが少々距離がある。恐らく扉の向こうだ。
隊長はタイミングばっちり、といった顔をして「入ってくれ」と室内へと招く。
階級ある人の部屋の扉が重いせいか、それとも声主の力が弱いのか、どちらかとは断言できないがゆっくりとした動きのせいで妙に扉の向こうにいる人の事が気になる。
「すみません、少々遅くなってしまいました」
入ってきた少女に見覚えはなかった、長い黒髪、何所か他の部隊だろうか、おしゃれな制服というべきものを着ている。
「こちらこそすまない急に呼び出してしまって」
隊長は隊員以外にはこのようにう普通に接している、俺たちにもそうしてほしいと時々思う。
「君が五分遅れたのはベストだったよ」
「そ、そうなんですか?」
よく分からない回答少女は困惑しつつもなんとなく受け流す。
「紹介しよう、彼女は成瀬明美。君の妻だ」
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