第30話 自分が誰かさえも。
「いったいいつから自分だけが特別だと思っていた? 正木俊介君?」
現れた三人。
その中の一人、九条部長が不敵な笑みを浮かべながらそう言う。
「いや、普通に最初からですけど? だって、俯瞰視点で生きてる奴なんていないでしょ、どう考えても」
呆れ笑い交じりに返す俺だが、陽花も瑠香も、遊星だって目を丸くさせて、今の状況に驚いている。
「ど、どうして先輩が……? それに、皐月に……史奈も……」
震える声で言う瑠香。
それに対して、二人は苦笑いを浮かべながら、
「部長に言われてついて来た感じ。たぶん今日、色々終わるから、って」
「瑠香ちゃん、自分を傷付けるのはやめて……? 私……そんなことになるなら……遊星君の傍からも離れるし……」
皐月のセリフを聞いて、俺はせせら笑った。
「だとよ、遊星。ほんと、エロゲ主人公も大変だな」
「う、うるせえよ! お前は……いや、こうして瑠香と腹割って話せたのはお前のおかげだけど……そこは黙っとけって!」
「はははっ! 残念! そういうわけにはいかねえな!」
笑えた。
笑ってられる状況でもなかったのに。
「にしても、何で瑠香だけそういう特殊能力を持ってるんですか? それを知ってるあんたもあんただが」
質問の矛先を九条部長に向ける。
彼女は、「何てことはない」と切り出した。
「シンプルなことだ。私は若野さんから、自らの状況を聞かされただけで、この世界に生きる一般人だしね」
「メタキャラみたいなこと言ってたが?」
「ふふふっ。それも演技。当たり前だろう? この世界で異端なのは君だけなんだ。異世界転移なんて、そう起こるものではない。むしろ、私は今も君のことを信じきれていない節があるしね。そんなものだ」
「水晶に向かって色々喋ってたくせに」
「だから、それも込みで演技だったのさ。オカルト信者は、こういった仕込みも上手くなくてはいけないからね」
随分と詐欺くさいものだ。
まあ、言われるとそんなものだろうとは思うのだが。
「だから、安心していい。君の探している葵さんの存在も、私が見つけたことではない」
「誰に教えてもらった?」
問うと、九条部長は先を指差す。
それは、俺の目の前にいる瑠香に当てられた。
「若野さん。彼女に他ならない」
質問の焦点が定まった。
俺は改めて瑠香の方へ向き直り、彼女と相対する。
「ってことらしいな。お前、本当にいったい何者だ? ただのゲームキャラクターじゃないのはわかったよ」
「……それ、君に言われると笑える。君だって同じ立場のくせに」
そのセリフで答えはハッキリした。
瑠香も、俺と同じ異世界転移者だったということだ。
「……もしかして、お前が葵なのか?」
「それは違う。九条部長に言った通り、葵さんは記憶を無くしてこの世界にいるから」
「じゃあ、その葵は今どこにいる? 知ってるんだろ?」
「……知らない」
「おい……!」
追求しようとする俺だが、瑠香の浮かべている表情を見て、それ以上何も言えなくなった。
悲しみに満ちた、そんな顔をしている。
彼女は、そのまま自分の手で顔を覆った。
「そんなの……君が自分で探せばいいじゃん。どうせすぐ見つかるんだし」
「……何が言いたいんだよ?」
瑠香は泣いていた。
泣きながら、消え入りそうな声で訴えてくる。
「君は良いよね。そうやって、この世界でやり通したいことを見つけられて」
「お前は無いのか、そういうの?」
「無いよ。主人公のことも、結局こうして好きになれなかったんだし」
グサリと胸に刺さるようなセリフだ。
今のこの言葉を、遊星はどういう気持ちで聞いているんだろう。
そもそも、瑠香を瑠香だと捉えられているのだろうか。
すべて、前提から覆されて、まるで異世界転移者におもちゃのように扱われている自分を、遊星はどう思っている。
気になるが、チラッと見た奴の表情は蒼白していて、わざわざ聞くまでも無いようものだった。
心情を察する。
「私は、この世界で目的もなく彷徨う亡霊みたいなものだよ。元いた世界への帰り方もわからないし、抜け殻なの」
「……そんな時、俺の存在を知ったってか?」
瑠香は返事をしない。
だが、それは肯定だと捉えることができる。
「俺のことを認知して、それで近付いた。でも、俺は陽花に夢中だったし、この世界のシナリオになるべく干渉しないでいようとした」
「だから、無理やり干渉させようとした。この私のことを利用してまでね」
九条部長が口を挟んでくる。
相変わらず笑みを浮かべて、不機嫌なのかそうじゃないのか分かりづらい。
むしろ、この状況を楽しんでいるように見える。
これがもはや彼女のデフォなのかもしれない。
ツッコミは無しだ。
「……とんでもない奴だったわけだな、若野瑠香。……いや」
正しい名前が何なのか、言ってもらうよう仕向ける俺だが、瑠香は首を横に振る。
「本当の名前すら忘れた。私は、戻りたい自分さえ思い出せない」
「……でも、帰りたいって意思だけはあるんだな?」
「……だね。だって、そこまでエロゲ好きでもなかったし。友達のプレイ画面を見つけて、そこから光に包まれただけだし」
「それも悲惨だな。貰い事故として訴えて良い」
「だよね? 私、可哀想な女なんだ。……ははは」
自嘲する瑠香。
もはや見ていられない。
彼女に向けていた感情も、今となっては穏やかなものだ。
哀れみに変化してしまってる。
「場が完全に白けてしまったようだね。このこと、最後まで黙っていた方が良かったのではないかい?」
九条部長が言うと、それに対して言葉を返したのは意外な人物だった。
「いえ、そんなことは……ないです」
遊星。
この世界の主人公が、確かな意志を持ってして、先輩に返したのだった。
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