第6話 人間が仲間になりたそうにそちらを見ている
「うおっ、マジか!? どうする、俺!?」
道の向こう、ゴブリンの群れ――棍棒持ち、ナイフ持ち、素手――の3体がこっちに迫ってくる。
棍棒とナイフのやつはニヤニヤ笑いながら、なんか楽しそうな雰囲気。
でも、素手のやつ……なんだ?
なんか嫌そうな顔してるぞ?
目が合った瞬間、ものすごく気まずい表情で俯いたのが分かった。
なんか既視感が……。
そう、まるで、中学生の時の俺みたいな……。
いや、気のせいか?
「なんだ、あいつ……?」
そうしてるうちに、どんどん距離が縮まる。
「や、ヤバい! ヤバイ、ヤバいぞ!」
心臓がバクバク、膝がガクガク。
リュックはパンパン、レジ袋2つで動きが鈍ってる。
どうする、荷物捨てるか!?
ゴブリンにぶん投げれば怯んでくれるか!?
「どうする……あ、そうだ! さっきの『魔物鑑定』!」
そうだ、ゲームなら、こういうピンチは情報収集からだろ!
右手の袋を置いてスマホを取り出し、「終末はじめました」を起動。
「魔物鑑定」をタップして、ゴブリンたちにカメラをかざす。
「頼む、なんか使える情報くれ……!」
カシャッ!
ピロン!
=============
《鑑定成功》
・ゴブリンA(棍棒)
能力:こうげき ☆
まもり ☆
すばやさ ☆
状態:健康
弱点:頭
好み:人間の肉、
性格:クズ
備考:群れるとイキり始める
・ゴブリンB(ボロいナイフ)
能力:こうげき ☆
まもり ☆
すばやさ ☆
状態:健康
弱点:頭
好み:人間の肉、ゴブリンC
性格:ゴミ
備考:ゴブリンCが大好き
・ゴブリンC(素手)
能力:こうげき ☆☆
まもり ☆☆
すばやさ ☆☆
状態:ストレス(極大)
弱点:頭
好み:なし
性格:ぼっち
備考:群れでのカースト下位な個体
肉は嫌い
===========
「ふ……、ふざけんな!」
使えねぇぇぇぇぇ!
期待させといてこれかよ!
能力とか「☆」で書かれてもわかんねぇよ!
弱点が頭!?
生き物なら大抵頭が弱点だっての!
好みとか性格とかどうでもよくね!?
備考も役に立たないし、なんなんだ!?
「魔物使いってもしかしてハズレジョブか!? くそ、他になんかねぇのかよ!」
そうしてるうちに、ゴブリンたちは俺のすぐ近く、10メートルくらいまで迫る。
あぁもう、しょうがない!
荷物をぶん投げて隙をついて逃げよう。
物資はまた取りに来ればいい、命あっての物種だ!
「ギャっ!?」
「ん?」
すると突然、棍棒ゴブリンが素手ゴブリンの背中をドンッと押す。
ナイフゴブリンはゲラゲラ笑いながら、素手ゴブリンを蹴り上げる。
素手ゴブリンは「ゴブ……!」って小さく唸って、嫌々前に出てくる。
その姿は、まんまいじめられっ子そのもの。
いじめっこゴブリン2体は、ニヤニヤしながら後ろで高みの見物してて、それがまた既視感があってなんか……嫌な感じだ。
「感じ悪ぃな……てか、めっちゃいじめっ子じゃね、こいつら。ゴブリンでもそういうのあるとか、なんか引くわ……」
ゴブリンたちが、もう目と鼻の先まで迫ってる。
「くそ、どうする!? 袋投げてバットで殴るか!? でも3体はキツいぞ……!」
隙をついて1体は倒せても、残りの2体に挟まれてボコられそうだ。
さっきの店員の死体が頭にチラつく。
俺もああなるんじゃないかって焦る。
「えぇい、戦略的撤退!」
叫びながら両手の袋をゴブリンに向かってぶん投げ、咄嗟にコンビニの中に後退する。
自動ドアが半開きのままの店内に滑り込むが、素手ゴブリンが「ゴブッ!」って唸りながら追いかけてくる。
外では、いじめっこゴブリン2体がゲラゲラ笑ってる声が聞こえる。
「くそ、笑いものかよ! 性格終わってんな! 鑑定どおりしゃねぇか!」
店内の棚の陰に隠れ、息を潜めて金属バットを握りしめる。
素手ゴブリンが「ゴブ……ゴブ……」って唸りながら近づいてくる。
でも、その足取りはゆっくりで、なんともやる気なさそうだ。
陰から顔を出してゴブリンを見ると……なんか怒ってはいるけど、襲う気はなさそう?
うーん、わからん!
でも、さっきの鑑定の「ストレス」「下位」ってのが頭に引っかかる。
アイツラにいじめられて鬱憤溜まってんのか?
そのまま見ていると、ゴブリンとバッチリ眼と眼が合った。
「うわ!?」
「ギャ!?」
数秒、ゴブリンと見つめ合う。
「「……」」
あれ? マジで襲ってこないぞ?
ゴブリンの顔が、「うわ、やべ、どうしよ」みたいな顔をしているのがわかる。
うん、多分俺も同じ顔してる気がする。
こいつ、外の2体と仲悪そうだし、上手く行けば……仲間になりそうな雰囲気あるんじゃね?
よし、ダメ元で賭けてみるか!
息を整えて、ゴブリンに話しかける。
「お、お前……あいつらにいじめられてんのか?」
「ゴブッ!?」
ゴブリンがビクッと反応して悲しそうな顔で俯く。
でも、すぐに怒った顔でこっちを睨みつけてくる。
あれ、怒らせた!?
なんでだ!?
「ま、待て待て待て! 落ち着け、話聞けよ!」
ゴブリンが爪をガっと構えて近づいてくるが、手を振って必死に宥める。
「あいつらに弱み握られてんのか? なんか逆
らえない事情あんのか? あれば話してくれ! 力になりたいんだ!」
「……」
「そ、そうだ! 俺もガキん時、お前と同じだった! 仲間だと思ってた奴らからいじめられ……って、俺は何言ってんだ。言葉わかんねぇだろうし、くそ、どうすりゃ……!」
「ゴブ……?」
こいつを見て、昔の嫌な記憶が蘇り憂鬱になった俺を、ゴブリンが不思議な生き物でも見るように首を傾げてじっと見つめてくる。
あれ?
言葉通じてる?
「お、お前、俺の言葉わかるんだよな? よし、なら話は早い! お前、俺と一緒に外のあいつら、やっつけねぇ?」
「ゴブ?」
ゴブリンが目を丸くさせる。
くそ、伝わってんのか!?
ゴブリンの顔ってのはイマイチわからん!
「ほら、お前もこのままあいつらにやられっぱなしじゃ嫌だろ? 俺だって死にたくない。一緒にあいつらぶっ飛ばそうぜ!」
「……ゴブ……ゴブ!」
ゴブリンが小さく頷く。
目が、なんかキラッと光った気がする!
よし、いったぞこれは!
「じゃあ俺に協力してくれ! 俺は死にたくない、お前はあいつらを見返したい、ほら、Win-Winだろ! どうだ? 2対2ならワンチャンいけるし!」
ゴブリンが「ゴブ!」って力強く頷く。
その目はやる気に満ち溢れている。
なんか、めっちゃ意気投合したくないか?
「お、おぉ! やってくれるか!? じゃあ、俺の仲間になってくれ!」
「ゴブっ!」
ピロン!
スマホから通知音。
その音にゴブリンがビクッと警戒し後ずさる。
なんだよ、誰だよ空気読めよ!
今いいとこなんだよ!
「ちょ、ちょ、ちょい待て!」
「ゴブ?」
首を傾げてるゴブリンを宥め、ポケットからスマホを取り出す。
興味津々にスマホを見つめるゴブリンを無視し、スマホを確認すると、
===========
《魔物雇用に成功しました》
《ゴブリンが仲間になりました》
============
おお! 『魔物雇用』が成功した!
こんな感じでヌルっと進むのね。
うん、もっと分かりやすくしてくれよ。
スマホ見ねぇと成功したか分かんねっての。
続いて、ステータスを確認する。
============
名前 : 望月 友人
レベル : 2
ジョブ : 魔物使い
スキル : 魔物雇用
: 魔物鑑定
雇用魔物 : ゴブリン
============
ステータスに項目が追加されてる。
『雇用魔物』にちゃんとゴブリンの名前がある。
「よし、初めての仲間だ! よろしくな! えっと、お前名前は……ないのか。じゃあ、ゴブ太郎でいいか?」
「ゴブ? ゴブブっ!」
ゴブ太郎(仮)が嫌そうな顔して小さく吠える。
え、嫌なの?
いい名前じゃん、親しみがあって。
「じゃ、じゃあ名前は後で考えるとして……よし、作戦だ! 外のやつら、油断してるっぽいから不意打ち狙うぞ」
コンビニのカウンターの下を漁り、不意打ちに必要なものを拝借する。
ゴブ太郎(仮)はそれを不思議そうな顔で見つめる。
「これで不意打ちだ! お前は俺の後ろでタイミング合わせて突っ込め!」
「ゴブ?」
いじめっ子どもに、目にもの見せてやる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます