第5話 ゲームじゃない
ゴブリンを倒した達成感に浸りながら、コンビニの入り口を見る。
ゴミ箱がひっくり返されてるけど、店内はまだ無事っぽい。
物資補充のチャンスだな。
でも、さっきのゴブリンが単体だった保証はない。
SNSで見た情報だと、ゴブリンは群れで行動するって話だし、近くに仲間がいるかもしれない。
慎重に動かないと、囲まれてあっさりゲームオーバーじゃシャレにならん。
自動ドアが半開きのまま止まってるコンビニに、金属バットを握りしめてそっと踏み込む。
「よし、物資ゲットして、さっさとアパートに帰るぞ……ん?」
店内に入った瞬間、鼻をつく異臭。
なんか、腐ったゴミみたいな……いや、もっと生臭い、鉄みたいな匂い。
薄暗い店内、蛍光灯がチカチカしてる。
棚はめっちゃくちゃに荒らされてて、床にはパンやおにぎりの包装が散乱してる。
惣菜コーナーは特に酷い。
コロッケや唐揚げが床にぶちまけられ、プラスチックの容器が踏み潰されてる。
ゴブリンが目についた食べ物をかっさらったんだろうな。
でも、よく見ると、棚の奥の方とか、飲料コーナーとかはまだそんなに荒らされてない。
異常事態になってまだ1時間強しか経ってないからか、商品は結構残ってる。
「よし、いいぞ! この分なら物資確保はバッチリだな!」
リュックを下ろして、棚の奥から保存の効く携帯食や缶詰をガサガサ詰め込む。
ペットボトルの水とスポーツドリンクも追加。
そういや、さっきのゴブリン戦で汗かいたし、塩分補給も大事だな。
ポテチも1袋…いや、2袋入れとくか。
目についた物資を確保して、ふと、カウンターの方に目をやると――
「うっ……!?」
そこに、店員らしき制服を着た人が倒れてる。
いや、倒れてる……じゃない。
頭が……ぐちゃぐちゃに潰されていて、血だまりが床に広がってる。
なにか硬いものでしこたま殴られたみたいな、ひどい状態。
「さ、さっきのゴブリンの仕業、か?」
その惨たらしい有様の死体を、マジマジと見てしまった。
俺の胃が、グッと締め付けられる。
「うぉ……うぇっ……!」
たまらず床に膝をついて、ゲロを吐く。
朝食べた食パンとサラダが、胃液と一緒にドロッと出てくる。
「げほっ、げぼ、うぇ……」
くそっ、ゲームじゃ死体なんて慣れっこなのに……!
現実の死体、マジでキっツい。
ただの一般人の俺には刺激が強すぎる……。
ゴブリンを倒した時は、平気だったのに……。
「はぁ……はぁ……。落ち着け、俺。ゲームだ。これはゲーム、お前の好きなゲームだと思え!」
なんとか気を取り直して、作業着ズボンに入っていたハンカチで顔を拭う。
「これはゲーム、ゲームゲームゲームっ……!」
死体から目を背けながら、カウンターの裏にレジ袋を見つけて、さらに物資を詰め込む。
インスタントコーヒー、電池、簡易包帯……使えそうなものは、なんでもかんでも持ってく。
でも、俺は一線は越えない。
ちゃんと代金は払うぞ!
あとで泥棒扱いされたら嫌だし。
財布から1万円札を2枚、レジの横に置く。
「これで足りるよな……? 終末世界でも、ちゃんと払っとかないとなんかモヤモヤするな……」
リュックはパンパン、レジ袋も2つ抱えて、コンビニの出口に向かう。
重いし動きも鈍るけど大事なことだ、仕方ない。
これでしばらくの食い扶持は確保できたぞ。
「あとは……」
いい感じのスライムでも見つけて、魔物雇用を試して、さっさとアパートに帰る。
ただの一般人の俺は無理しちゃダメだ。
安全にコツコツとゆっくりレベル上げが一番だ。
ただのしかばねになった店員さんに両手を合わせ、自動ドアをくぐって外に出る。
朝の空気が冷たく感じて、心地よい。
遠くでまだサイレンが鳴ってるけど、さっきより静かになった気がする。
辺りを見回すと、あちこちに黒い煙が立っているのが分かる。
魔物に襲われて、火事でも起きたんだろうか。
アパートまでは徒歩5分。
金属バットを肩に担ぎ直し、リュックとレジ袋を抱えて歩き出す。
「魔物に見つかる前にさっさと……あっ!?」
が、……道の向こう、俺のアパートがある方向に、新たな影がチラチラ動いてる。
1体……2体か……いや、3体!?
緑色の肌で、ボロ布の服。
1体は棍棒を持ち、1体は何も持たず素手だ。
もう1体は……なんか鈍い色した板切れ持ってる?
うわ、マジかよ、あれナイフか!?
「くそ、いきなり3体とか! てか、刃物は駄目だろ、刃物は!」
しかも、こっちをガン見してる!?
獲物の姿を捉えて、意気揚々とこちらに向かってくるゴブリンの群れ。
「うおっ、マジか!? ど、どうする? どうしようっ!?」
一瞬、さっきの店員さんを思い出し、店内を振り返る。
頭をボコボコに潰されて殺される、そんな未来を想像して、心臓が口から飛び出そうなほどバクバクしている。
「くそ、……やる、やるしかねぇか!」
向かってくる魔物の群れを睨みつけ、俺は覚悟を決めた。
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