幕間3 始動

《放課後・委員会専用教室》

たった2人。

この、普通の教室より狭い空間でたった2人。

プリントを整理してホッチキスで留める作業を繰り返して。

緊張して手が震える。ホッチキスを押す握力が老いた猫並みに出ない。

「大丈夫?」

「へ?ああ、うん。大丈夫、です。」

隣の席に座るから心理状況全てを見透かされてるに違いない。

「もしかしてこういう作業苦手?」

「いや、そんなはずはないんだけど、はい。」

「ふーん。」

ガチャっと留める音がただ響く。ペラペラと紙を横や縦に集めてまた留める。


《数十分前・D教室》

「ごめん、お願い!」

ミカは私と杏奈に手を合わせて頼んだ。

「事前に言った通り、このプリントの左側2箇所をホッチキスで留めていくだけだから。終わったら私の机の引き出しの中に入れておいて!すぐ終わるから!それじゃ、私は大事な予定控えてるからあとはお願いします!」

質問する間もなくそそくさと委員会室を出ていった。

「大事な用事なら仕方ないか。ところで、何で南も?」

「へ?いやー?ちょっと頼まれてしまいましてー。」

「ふーん。そう。」


《現在》

「よし終わった。」

「は、はい。」

グッと腕を突き上げて背中を伸ばす。この動作だけでも何だか屈強で誇らしい。プリントを改めて整理する。

「敬語。」

「へ?」

いつの間にかこちらへ視線を送っていた。

「敬語やめない?同期だし。」

「あーー。確かに。」

席を立ちプリントを持ち上げる。

「さて、委員長の引き出しに入れて帰るか。」

「うん。」

無言のまま廊下に出て杏奈の後を着けながら教室へ向かう。一歩一歩の幅が大きく着いていくのが精一杯。

教室へ入りミカの机の引き出しへ冊紙を投入する。

ああ、せっかく2人切りになれたのに。

すると脳裏から一株の声がした。

『一度切りの人生。ここで退いたら一生後悔する。』

意を決する。

「杏奈ちゃん!」

「ちゃん?」

「良ければ一緒に帰らない?」

無表情。反応が良いのか悪いのか判断できない。

「いいよ。」

「本当に!?じゃあじゃあ私の家寄ってこない?」

「いいけど。何?急に馴れ馴れしくなっちゃって。」

確かに。打ち解けたい願望丸出しだ。疑うのは必然的。それでも、今、私から動かなきゃこの好機を逃してしまう。

「……馴れ馴れしくしたのは杏奈ちゃんと一緒にいたいと思ったから。本当の私を知って欲しいから。だから、猫被らないから。」

杏奈はパチパチ両目を瞬きする。

「ブッ、ハハッ!」

「え?笑った?」

「いやー、ごめんごめん。南って奇想天外で面白いね。今日初めて体育の時に喋ったと思ったら、今ではちゃん付けまでして取り繕わない。」

杏奈は再び笑いが込み上げてお腹を抑える。

「ハーー。いいよ。どんどん本性見して!私、待ち構えるからさ。」

やった!

何だかよくわからないけど上手く誘えた!

「じゃあじゃあ、家に着くまで沢山話そう!」

「えっ!?いきなり距離縮めにきたなあ。」

杏奈もリラックスできたのか嫌悪丸出しの表情を見せてくれた。嫌悪は余程心許した相手か特定の出来事でしか表れない。ガッツリ杏奈の心の鎖を破った証拠だ。

こうして互いの本性を出すことを条件に友達となった。

放課後、家で、秘密の恋情を解き放つまで。


以下、"足首舐めて"に至る。

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