幕間2 体育
体育の授業。外のグラウンドで体力テストを行うことになった。毎年恒例だ。授業始動時に毎度軽く体操するが、1人ペアを組まなきゃいけない。私がいつも鶴むグループは3人。だから1人誰か余る。
「じゃあ今日は私、他の人とー。」
「りょー。」
これでいい。"今日は"と友達に伝えたけど実際はいつも自らペアを組みに行ってる。いつものこと。友達も嫌な思いせず了承してくれる。私同様キャピキャピしてるが、人間関係に関しては結構優しい。滅多にいない。
さて、今日も余った人と組むか。
あれ?いない。
どうしよう。先生が来るまでペア組んでおかないと謎に怒られちゃう。
集団を探し抜けていると一際異彩を放つ者が堂々と立ちながら佇んでいた。
「あの。組みませんか?」
彼女は声をした方へ振り向く。驚愕した。2年になってからは、朝教室の端から座ったまま傍観していただけあって、いざ目の前にすると高くて大きい。
「いいですよ。」
無表情。社交的とはいえない。社交的どころか少し怖い。滲み出る煙の雰囲気が深くヒリヒリする。
(これは、確かに。独りになる。)
「安心して。ストレッチ強く押さないから。」
もうタメ語。あっという間に彼女から上下を切り分けられた。良い人間関係を形成するのが如何にも苦手そう。
「あ、えっと、うん。」
こうして軽く静的ストレッチと動的ストレッチをこなし、ペアは解消された。
《授業中・グラウンド前の小階段》
「ねえ、南?」
「うん?」
「杏奈さん。どうだった?」
「え?」
「そういえば、体操のペア組んでたね。」
「ね、ね。」
「いやー。どうだったって言われても。うーん。話しやすい雰囲気とは言えないけど、ストレッチ、優しかった。」
「ふーん。あとは?」
「うんうん。」
「えー。あとは、手がゴツゴツしていた。」
「ほうほう。」
「ゴツゴツ。」
「うん。何か同じ女性とは思えない位、固かった。でも、すごく丁寧に優しく押してくれたから、ああいう人と付き合いたいかなあ。」
「あー!わかるぅぅ!!ウチの彼氏もああだったらなあ。」
「それな!」
「うん。」
ミカが小さく興味津々に囁く。
「じゃあじゃあ。南は杏奈さんと付き合ってみれば?」
「はえ!?付き合う!?そんな同性同士だなんて!」
ミカと琥珀は真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「ってあれ?ふざけたつもりで言ってなかったの?」
2人は顔を合わせて再びこちらへ視線を移した。
「南。好きなんでしょ?杏奈さんのこと。」
「うんうん。」
「えっ。いや、その、」
ミカが真剣な顔をするのはいつ以来だろう。
「やれやれ。南が同性好きなのを幼馴染のあたし達が知らないとでも思った?」
「そうそう!」
「……バレちゃってたんだ。」
「当たり前よ!高校入ってからずーっと杏奈さん見かける度、南だけ惚れ惚れした目で追っかけてるんだから。しかも恋愛トークしている時に限って南だけ取り繕いすぎ。」
「そうそう。口引き攣って笑ってるもん。」
琥珀は自分の指で自分の頬を上に押し当てていた。
「そう、なんだ。……ごめん。」
「いいのいいの。友達なんだから謝る必要ない。」
「……ありがとう。ミカ。琥珀。」
ふふっと3人共鳴する。ポンっと背中を押される。
「ここ半年間、放課後遊んでやれなくてごめん!ウチらもせっかくできた彼氏との恋愛を楽しみたいし。その分夏休み冬休み旅行しまくろうな。奢るから。」
「いいよいいよ。私はこうして学校で一緒になってくれるだけ嬉しい。別に辛くはない。」
「変わってる。」
「へ?」
琥珀が突然答える。
「普通、人のワガママ流すほど優しい人なんていない。南以外だったら喧嘩沙汰だよ?」
「まあ確かに。」
「ま、固い話しないでさ。そうしんみりしないでさ。さっき杏奈さんに声掛けて組めたんだろ。やるじゃん!」
「いいや、ハハ。」
「今日の放課後、2人一緒にラブラブデート帰宅させてやっから。」
「えっ!?まさか」
反論する余地なくミカと琥珀は杏奈さんの元へ走って行った。
「おーい!杏奈さーん!」
遠くで何か話している。どうやらミカが放課後やるクラス委員長の仕事を私と杏奈さんに頼むらしい。ミカの常套手段だ。
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