第9話 最後の砦

「おい優、本当にやるのか?」


 神崎優は、親友の十文字真一を連れて、自宅に戻っていた。

 そして、すっかり裸になった優とは対照的に、最後の砦と化したパンツを脱げずに真一はモジモジしていた。

 翌日の放課後、本来であればあの爆発事件にいついて色々話をしなければならなかったが、優は突然、現場でもある神崎家の本邸へと真一を招いていた。

 真一は、普通なら裸になるくらいの事で恥ずかしがったりはしないのだが、今日は事情が違っていた。

 そこには、クラスメイトの内田木蓮がいた。

 さすがに同級生女子の前で全部を脱ぐのはハードルが高かった。


「ってかさ、なんで俺? モデルならお前だけで十分だろ」


「そうは行かないよ、僕一人だと、内田さんと二人っきりで裸って事になるじゃない。僕も一応は高校2年生の男子なんだから、理性が持たないよ」


 真一は、優にしては珍しく下ネタ的な話をするんだな、と思った。

 優の背中には、薄っすらと爆発の傷跡が残っていた。

 いや・・・・この時点で薄っすらと、と言うのが異常な事である。

 何しろ、普通なら即死レベルの怪我を負った本人が、もう十年も前の傷跡のように、その痕跡が薄くなっているのだから。


「あの、私としては、神崎君と十文字君の交錯する姿を描きたいの!」


「交錯・・・・って、何?」


 頭の良い女子は、言う事が難しいな、と思いつつ、普段は大人しい内田が、妙に力説するものだから、その熱意に負けた、と言わんばかりに真一は最後の下着を脱ぎ捨てた。


「これでいいだろ」


 真一は、てっきり「きゃっ」とか悲鳴を上げるかと思っていたが、その真剣な眼差しに驚いてしまった。

 実際は、真剣なのではなく、初めて見る二人のリアルなそれを、ガン見していただけではあるのだが。


 こうして、おかしなヌードモデルと画家による沈黙の時間が経過するのである。

 優は、まるで慣れたモデルのようにすまし顔でじっとしていられたが、真一は退屈で仕方がない。

 時々、優の太ももを擽ってみたり、息を吹きかけてみたりと、その姿勢はふざけたものだった。


「もう真一、ちゃんとしないと内田さんが可愛そうだよ」


「だってさ、退屈なんだよ。これいつまで続くんだ?」


 すると内田が「あと2時間くらい」と言うものだから、さすがに真一は悲鳴を上げた。

 そんな真一を見て、優はちょっと休憩をしようと提案する。


「内田さんは、この部屋を好きに使っていいからね。真一はちょっとこっちへ!」


「なんだよ! 休憩中くら服着させろって!」


 そんな二人のやり取りを、赤面しながらワクワクと見守る内田木蓮。

 しかし、優の真意はこの休憩時間にこそあったのである。


「ねえ真一、ちょっとここに手を当ててみてごらんよ」


 優が指さしたのは、燭台の上に乗った一本の蝋燭だった。

 さすがの真一も、少し・・・・警戒した。

 そして別室の木蓮は・・・・ワクワクしながら覗いていたのである。


「なんだよ、嫌だって、気持ち悪い」


「ちょっと、何を勘違いしているんだよ。違うって。気になっているんだろ、この間の事」


「この間って・・・・」


 正直、真一は先週の爆発事件の事が、まるで夢でも見ていたかのように感じていた。

 そう、あの爆発事件について、メディアは大きく報じなかった。

 優の祖父も、結局行方不明扱いで、死亡記事も出ていない。

 ましてや、優と自分が巨大化したなどと言う事実は、真一の記憶意外にそれを証明するものは何一つなかった。

 そして、一番恐ろしいと感じていたのが、あの異常事態について、優の口から一言たりとも語られることが無かった、と言う点である。

 何度聞いても、「え? 何の事?」と話題を反らされた。

 そして、真一の心に、あれは爆発のショックによる夢であったのでは、と考えるようになっていたのである。


 真一がそう思い始めていた、それは正にその時であった。

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