第8話 内田 木蓮

「あんまり良く描けていたから驚いたよ。真一の特徴を良く理解しているんだと思う」


 内田は、憧れだった優にそう言われても、それが誉め言葉には聞こえなかった。

 誰だって自分がモデルで、あんな事やこんな事を描かれれば、不快でしかないだろう。

 それでも優しい彼は、こうしてしっかりと見てくれている、それだけでも有り難いことであるはずだが、この時の内田木蓮にとって、生まれて初めて見られてしまった絶対領域が、まさかの本人であったことへのショックが、さすがに癒えないのである。


「・・・・神崎君、あの・・本当にごめんなさい! 私、お詫びの為になら、なんでもしますから」


「・・・・なんでも?」


 優のその言い方は、まるで悪役のようであった。

 そんな言い回しが、まるで弱みを握られた非力の女子高生そのものに思えて内田は・・・・燃えた。

 目の前に憧れの神崎優が居る事自体、彼女にとって十分すぎる刺激だと言うのに、このシチュエーションはまるで優に脅迫されているようだ。

 そして、男子高校生が女子高校生にする脅迫の対価、それは肉体をもってに決まっていた。

 怖いという思いと、どうなるのかと言う不安がグチャグチャに絡まり、木蓮は今、とても・・・・興奮していたのである。

 ああ、これから自分はこの美しい男子にめちゃくちゃにされるのか、そんな風に思うと、頭が真っ白になってしまう。


「フフフ・・冗談だよ、びっくりした?」


 あれ? 優が元の優しい優に戻っている。

 それは、安心しつつ、少し残念でもあった。

 これほどの感情の起伏、木蓮は自分の感情が正確に把握しきれていなかった。

 それ故に、今自分の胸にこみあげてくるこの感情の正体が、まさかの期待であるとは夢にも思わないのである。

 

「あの・・・・私は神崎君の為に、何をしたら許してくれるのでしょうか?」


「え? 許すって・・・・こんなに綺麗に描いてくれたんだから、許すもなにも、僕は嬉しかったよ」


 あれ? あんな事やこんな事をするのでは?

 覚悟して身体を強張らせていた木蓮の全身は、安心によって少し弛緩した。

 そして襲ってくる少しの物足りなさ。


「ねえ、これさ、良く描けていたから、コピー取らせてもらっちゃった、いいよね」


「え? コピー・・・・うん、いいけど・・・・いいの?」


「いいって何が? 僕、真一の足ってカッコいいと思うんだよね、ほら、この脹脛のところなんて、いいラインしていると思うし。内田さんって、良く真一の事を見てるよね」


 木蓮は、そのあまりの天然ボケっぷりに驚愕した。

 許された? 自分の歪んだ性癖が、このやさしさの塊のような男子によって、許されたのか。

 木蓮にとっても、自身のスケッチは足にとても拘っていたから、何か認めてもらえたような気さえしたのである。


「あのね、神崎君がもし嫌でなければなんだけど、今度あなたをスケッチさせてもらえないかな?」


 自分でも、どうしてそんな事を言ったのか解らない。 

 それでも、この無限の優しさは、もしかしたら自分の性癖を全部飲み込んでくれるのではないかとさえ思えたのだ。


「・・・・いいよ、でもね、一つだけ条件があるんだ」


「なに・・かな?」


「モデルは二人一組で、これでどうかな?」


「二人って、もう一人は?」


「決まってるじゃない、真一だよ」


「真一って・・真一って、十文字君でいいんだよね!?」


 木蓮は、目の前の憧れが、全部どころか完全に飲み込んでしまった事に狂喜したのであった。

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