第27話 あなたの素肌

 放課後、衣装合わせの時間がやってきた。

 で、俺の衣装は合わせる必要がないと美弥子の判断で、女子だけの合わせになった。

 ・・・・そりそうだろ! いらないわな、俺の衣装合わせ。

 もう、演目が裸の王様でもきっと同じだったろうよ、衣装!

 そして、委員長が控室で衣装に着替え、俺の前に現れた。その姿に、俺は大いに動揺した。


「委員長?」


 彼女の姿は、さっきまでの真面目で上品だった委員長から、台本の中に居る「正子」そのものに化けていた。

 豊満なボディーラインにふわっと着ただけのキャミソール。

 真っ白いその衣装は、俺以外の男子に見せるのはダメだと思った。

 俺は委員長の手を取って、控室に駆け込む。


「ダメだよ委員長、こんな姿、俺以外の男に見せちゃ!」


「大丈夫だよ、だって、何も見えてないよ」


「そうじゃなくて、違くてさ・・・・委員長のその姿は、俺だけのものっていうか、俺だけの特権っていうか・・」


「・・・・ありがとう星野君。でもね、私は演劇部の演者だから、女優としてこれは必要な事なんだよ。だからね、私は平気よ」


「そうじゃない、そうじゃなくて! 俺は委員長を独占したいんだ。委員長の、そんな露出の多い衣装、俺には耐えられないよ」


「・・・・ありがとうね、君は本当に優しいね。でも、それを言ったら私だってあなたの素肌をほかの女子に見せたくないんだよ、だから、ね、わかって」


 どうしたんだ? そんな事、解り切ったことなのに。

 委員長も俺も、今年は演劇部の役者、必要な事はすべきだって解っているのに、俺の理性が追い付いていない。

 正直、彼女のキャミソールからは、下着も透けて見えるくらいに薄いし、こんな姿、他の男子になんて見せてたまるか。

 そんな時だった。控室に母さんが入ってきた。


「ほーら、男女でこんな部屋に籠ってない! 変でしょ、第一、そんな恰好で(笑)!」


 あー、変だな、変です、認めます、はい。

 委員長も真っ赤だよ。

 そして、俺はなんとなくだけど、この時委員長の気持ちが少し解った気がした。

 母さんの姿は、ステージ上で絶対の存在となる。負けたくないんだ委員長は。俺が母さんの姿に釘付けになるところを、きっと見たくないんだ。

 解るんだけどなー・・・・。


「あら、愛良ちゃん、それ本当に下着じゃないの? ちょっと! もうこっち来て! マサル! あんた外に出てな!」


 意味も解らず、母さんに怒られた。

 怒られたよ、なんか今、俺!

 別に、俺が委員長を脱がした訳じゃないじゃん! ちょっと納得行かないんですけど!

 それでも、母さんと委員長が部屋から出て来た時、その意味が理解できた。

 委員長は、下着から水着に着替えていた。

 母さん、いつの間にこんなの準備していたんだ?

 たしかに見た目はそれほど違わないけど、あの悩殺な印象は大分薄れた。

 

「どうなか・・・・星野君」


「ああ、これなら、俺も安心かな」


 どうにも目のやり場に困る状況から脱し、一安心だった。

 それでも、学校側からおかしなクレームが付いたと聞いたのは、翌日の事だった。

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