第2話 イヤホン
ワイヤレスイヤホンを片方無くした。
通勤途中のどこかだとは思うが見当がつかない。
ここ最近、ダイエットの為に意を決して、電車を使わず二駅の距離を歩いて通勤していた。歩数にして一万歩に少し足りないくらいになる。好きな芸人のラジオのアーカイブを聞き流しながら朝の日差しを浴びながら歩くと不思議と心も健康になっていくようで気分も上がる。
無くしたイヤホンにはAirPodsのようなスマホからイヤホンの位置情報がわかる機能はついていない。
AirPodsほどではないが、そこそこの値段だった。使い勝手も良く気に入っていたのに残念だ。今は仕方なく代用で学生時代使っていた安物の有線タイプを使っているが、コードに引っかけると耳から引っこ抜けて不快だし、コードが鞄の中で邪魔になる。不満は溜まるばかりだ。
通勤のたびに足元を探しながら歩くも見つからない。
もう無くして一週間以上経つ。
今日は雨が降っていた。
もう諦めた方がいいかもな、寂しそうにつぶやいた。
驚いたことに、翌日無くしたはずのイヤホンを見つけた。
ガードレールの支柱の上にちょこんと置いてあったのだ。
今まで下ばかり向いて歩いていたから逆に気づかなかったのかもしれない。親切な人に感謝しながら拾い上げる。
雨に濡れた跡はない。祈るように電源を入れてみる。Bluetoothに繋がった。生きてる!間違いなく行方不明だったうちの子だ!絶望的だった状況からの再会を喜んだ。
それからだ、不思議なことが起こり始めた。
ラジオのノイズが大きくなり始めたのだ。
歩いているから多少の雑音は気にならないが、もしかしたら壊れてしまったのかもしれない。
それからノイズが日々、人の話す声のように意味のある言葉のように聞こえてきた。
なぜかイヤホンを外しても聞こえる
年老いた女のような声で絞り出すように
「聞イて」
波長が合ってしまった。
耳なりのように響き続ける。
ノイローゼになりそうな日々、こうなったのもあのイヤホンのせいとしか考えられない。
充電が切れてもあの声は止まない。
分解しようといじっていると、シリコンのイヤーピース(耳に触れるパーツ)がポロッと外れた。
拾い上げるとイヤーピースの折り返された内側に髪の毛が何重にも巻き付けてあった。
あまりのことに手が止まる。
嫌々ながら反対側のイヤホンと比べるとシリコンの色や質感が若干違う。
巻き付けた髪の毛の隙間から見える。髪の毛の下に細く折りたたまれた紙が巻き付けられている。思わずイヤホンから手を離す。
だが、イヤホンを手放しても声は耳鳴りのように止むことは無い。
目の前に誰かのイヤホンが落ちている。
お高い位置情報機能がついてるやつだ。
拾い上げ、髪の毛が絡まったイヤーピースを付け替え、踏まれないようにガードレールの支柱の上に置いて立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます