第1話 廃墟の街に、彼女は降り立つ

 照りつける太陽の下、廃墟の街を一台の真っ黒な『トレーラー』が駆け抜けていく。

 通常のトレーラーより一回り大きなその荷台には、藍色の鎧を纏ったヒューマキナ――人型機動兵器の総称である――が載せられている。


 そのヒューマキナのコックピットシートで、パイロットは呟いた。

 

「……ナギ。

 目的の街まで、あとどれくらい?」

『あと5分も経たずに到着するぜ』


 帰ってきた声の主――音声だけ聞けば男性である――はコックピット内には存在しない。

 操縦しているトレーラー側にも存在しない。

 何故なら『彼』……ナギは、パイロットが所有する一式を管理・操作するためのAIシステムなのだから。


『廃墟の中で登録された街だからな。

 どこからどこまでかが範囲なのかは人間には分かり辛いだろうさ。

 ま、俺も人間だった時には分かんなかっただろうけど』

 

 ケケケ、と笑う形無き同僚にパイロットは小さく息を吐く。

 言いたいことはある……というか、いつも言っている事だが、今はいいだろう。

 浮かんだ言葉を霧散させたうえで、パイロットは改めて別の言葉を形にする。


「ナギ、噂についてどう思う?」

『んー……純粋な確率で言えば、ほぼないだろ。

 だが、新しくできた街だ。

 よそ者が流れ込んできて紛れるにはうってつけだろう。

 まあ、それでもやってることがやってることだからなあ』

「……それでも確かめないことにははじまらない、か。

 地道だけど――隊長なら苦にしないだろうな」

『ちげぇねえ。っと、範囲一歩前に到着だ。

 ちょうど近くにだだっ広い廃墟があったから、そこに停車させてもらうとするか。

 パーキングエリアはないみたいだしなw』

「ヒューマキナ用の駐車場なんて、大都市くらいにしかないでしょ」

『相変わらずネタにマジレスだな』

「ジョークは突っ込んでこそじゃない?

 ともかく、ゼヴォシオンをよろしくね」

『あいよ。

 あれをゼヴォシオンって呼ぶのにはちょいと抵抗あるが』


 一言多い同僚に、わからなくはないけど、と返しつつパイロットは瞑目する。

   

 ここから先は、ある意味において『全てが敵だ』。

 気合を入れていこう。


 自分が『彼ら』の全てを背負っているなどとは言わない。

 だが、もはや『彼ら』を正しく知っている存在は限られている、


 だから、まだ死ねない。死ぬには少し早い。


 そう考えながら纏っているパイロットスーツの状態を確認――すべて問題ない。

 機能も偽装も完璧だ。


 そのチェック完了と同時にトレーラーが完全に停止したことが、全装備を連携しているナギから告げられる。

 

 パイロットは、横倒し――ベッド状になっていたシートから起き上がり、近くに置いていたコートを羽織る。

 ずっと愛用している多機能フルコートだ。

 そのフードを深く被ってから、コックピットドアを解放……外へと出て行く。


「……ふぅ」


 シオンの胸部装甲の上に立って見渡す廃墟に思うところはある。

 いつだって、もしも、たられば、は頭を過ぎっている。

 だけど、それに縛られていては何もできない。


「迷いは無駄の連鎖。

 早めに断たなきゃ転ぶだけ……って言ってたのは、リュードさんだったかな」

『ああ、言ってた言ってた。

 タバコとか吸いながら無駄にカッコつけてw』


 実際、そのとおりだろう。

 後悔の鎖は時間が経てば経つほど増えていく。

 理由がない限りは迷わずさっさと行動するべきだ。  


「タバコか……余裕があったら探しておこう、うん」

『おけ。俺も意識しとくよ』

「ありがとう。さて――行きますか」


 そうしてパイロット――シオリ・ヤエガキはヒューマキナから飛び降りた。


 己の旅を、一歩でも前に進めるために。


「って、あいったぁっ!?」


 そして――着地の際に失敗して足首を軽く捻ったのであった。

 

『ケケケ!

 お前さん、相変わらず時々間抜けだな!

 いつまで経ってもそこは治らねえでやんのw』

「うう、ホントそうだから困るよね……」

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