第2話 魔物
嘘だと言ってくれ。夢じゃないだと?フィーフィアはボンゴに、俺はワイロフに起こされた。俺が遭難してるところを助けてくれた恩人を殺し勇者だの魔法使いだのと名乗る頭のイカれたクスリ漬けの集団に生かされてるのが現実なんてクソだ。だがイカれたことを言う以外は普通に優しい。もしかしてこの人達は鬱病なのだろうか?それとも俺がイカれてしまったのか?
「ちょっと、あなた。盲目なら見張りする必要はないよね?」
「それはマーティンが言ってたこ…」
「あたしが弱いって言うの?こんなの一人で見張りしてるのと変わらないわ。足でまといとは思わないけど、あなたが見張りできるとは思えないわね。」
俺の言葉に襲いかかるようにフィーフィアは言った。フィーフィアの言いたいことはわかるし、正直俺も見張りは辞退しようかと思った。だがマーティンの説明も十分納得できるのだ。
「獣使いなら遠くにしか攻撃出来ない弓使いのデメリットを補えるし、それにフィーフィアは半狼だろ?夜目が利くから、盲目なスペスを補える。ワイロフも半狼だし、そしたら二巡目はスペスと一緒に見張りしてもらおうか。」と説明していた。
しかもハーディ曰く中級を覚えると獣の能力が1部使えるため、なんと目が見えるようになると言うのだ。生まれてから目が見えないため、目が見えるのは正直めっちゃ嬉しい。今は初級魔法の初級しか使えないため魔物を召喚することくらいしかできないらしい。流石に目が見えるようになればマーティン達が勇者一行というのも納得せざるを得ない。俺は産まれてから全盲なので妄想や幻覚をつくることすら出来ないはずだから。少し期待してしまってる自分がいることに驚いている。勇者と魔法使いを起こして次の番が来るまで寝る。
夜も空けてワイロフと一緒にマーティン達を起こした。ボンゴはぐぉぉおーと唸り声のようないびきをかいていてなかなか起きず、リリーが「ボンゴはこれで起きるのよ」と言って肉の匂いを嗅がせて起こした。
また動かないと行けないので素早く撤収作業をしているとプシュープシューと空気が抜ける音がした。
「早朝に出る魔物ですよ。召喚の準備しといてくださいね。」
ハーディが耳元でそう呟いた。
「何を召喚すれば?」
「水の精霊、スイレーンですよ。」
「何の魔物なんですか?」
「炎の魔物です。フレアと呼ばれてます。太陽から魔素を吸収しようと早朝に現れるんです。」
「太陽からまそ?」
「あぁ…説明は後でします。」
そう言うとハーディから呆れたような悲しんでるような溜め息がでた。
スイレーンと空中に点字で書くとバシャアンッという音と共に水が飛んできた。絵を描かなくていいのか。楽だな。
「援護するわ!」
リリーが何か唱えると、ブシューー!!と消防士がホースで火消しするような音が聞こえた。
「今よ!ワイロフ!フィーフィア!」
「「任せろ!!!!」」
すると、フレアという魔物の退治でワイロフが半身火傷を負ったらしく、ハーディに治療されている。
「っ…!」
「痛いですよね?痛いなら、こんな無茶しないでください。」
「……」
「あぁそうだ、太陽から魔素を吸収というのは炎系の魔物にはよくあることで、水系は水辺で、植物系なら森で…など、属性に近い自然の力を浴びることで魔力が回復されるんです。」
治療したまま説明を始めたのは気になるが、そんなこと気にしてる暇はなかった。もし本当に異世界だった時のために情報収集しなければ。
「へー…あの、魔物と獣の違いって?」
「魔物も元は獣なんです。見分け方は生息地域にいるかいないかですね、魔物は他の自然の力から魔素を吸収しようと生息地域から離れます。本来蜘蛛は洞窟から離れませんし、フレアも森には近づきません。それに万が一近づいてしまったら燃えます。つまり燃えていないということは他の魔素…恐らく水の魔素を吸収して燃えないようになったんでしょう。」
「……なるほど。」
「基本的に系は主に6つで水、炎、植物、光、闇、毒ですね。」
「系…?」
「あ、また魔物…今度は闇系の魔物ですよ。気を付けてくださいね。」
「え?」
「森にいる闇系は使いですから。」
シャアアアという猫の威嚇のような声が上空から聞こえる。飛んでいるのだろうか。
「ハーディ、スペス私のとこに来て!」
「はい。」
「え?」
「はやく!」
「はいっ!」
リリーが何か唱えると、シュパァァンと何かが跳ね返った音がした。
「スペス、大蛇を召喚してください。光の絵も描いて。」
ハーディに言われるまま大蛇と点字で書き、光をイメージした絵を描いた。
ズズズズ…と何かが引きづられている音が聞こえる。まさか"大蛇"が這う音なのだろうか?
ボオッっと燃える音が聞こえる。
「はやくスイレーンを!」
次はリリーに言われるままスイレーンと点字で書いた。またバシャアンッという音が聞こえ、飛び跳ねた水で少し濡れた。
「逃げないとまずいんじゃないの!?」
そういうとリリーが少し焦った声で何かを唱え始める。
「スペスさん次はコカトリスを召喚してください。光です!」
「は、はい!」
コカトリスと点字で書いて光をイメージした絵を描いた。
「リリー!」
ハーディが慌てた声で叫ぶ。何があったか把握しきれない。
「いいからはやくラドルク達を!」
「はい。」
「あ、あの…何が?」
「スペスもこちらへ。」
「はい。」
「闇系の魔物が強いのは見分けにくいからです。洞窟は毒、水の魔素が吸収できます。次は植物を吸収して太陽にあたり光と炎の魔素を吸収します。あの魔物は骸骨でした。炎まで吸収して…大蛇は焼き殺されました。」
「召喚された獣って…」
「本物です。生息地域から呼び出すので加護がある状態なのですが、魔物が強すぎて…」
「……」
だとしたら可哀想だな。人間の都合で…いや、夢なのに何本気で受け止めてるんだ。
「ハーディ、ラドルクは?マーティンは?ワイロフは?フィーフィアは?ボンゴは?」
「ボンゴは体がでかいので毒のまわりが遅かったので…フィーフィアとワイロフは半狼なので毒の耐性があるみたいです。」
「なら、マーティンとラドルクは?」
リリーの声が震えている。
「……スペス、すみませんがカーテルを召喚してください。」
カーテルと点字で書いた。これも絵を描かなくていいのか?と思っているとガゴンッと骨が砕ける音がした。
「リリー、お願い出来ますか?」
「……はい。」
リリーが何か唱える。しばらくするとボンゴが起き上がった。
「骸骨の魔物の材料使ったの?ゲッフ」
「はい…」
「……」
「それ以外に方法はなかったのか?」
と起き上がったワイロフが言う。
「はい。」
「兄さん…それは無理だよ。」
フィーフィアが起き上がって悲しそうに言う。
「……分かっている。」
「ハーディ、魔物の材料?を使うっていうのは…駄目なの?」
「…いい機会なので教えてあげましょう。魔物の魔石を使って治癒することは、魔物に近づくということになるんです。」
「でも俺たち魔物を食べて…」
「魔石を取り除けば魔物になりません。ですが治癒するには魔石を使わなければ…一応獣にも魔石はありますが、魔物になった獣の魔石にしか、治癒できません。」
「……」
魔石が何か分からない。違法薬物のことか?
「今回の怪我は重症なので、角が生えるかもしれませんね。」
角!?薬物の副作用の幻覚ってことか??
「そんな…ラドルクッ…マーティン…」
「リリー…少し休もうか。」
「ありがとうフィーフィア…でも大丈夫よ。ちゃんと見させて。」
「……スペス、魔王の正体知ってるか?」
暗い声でワイロフが問う。
「魔王の正体?」
今俺の心の中は『魔石』が隠語なのか気になってるんだが…もしかして魔王って薬物売買人のボス的な人か?
「前の勇者さ。」
とフィーフィアが答える。
「え?」
前の勇者?どういうことだ?話してる感じやっぱりクスリ漬けの人達じゃないのか?
「魔物を倒した時に負った怪我で、ヒーラーでも魔法使いでも治せない怪我は、魔物の魔石でしか治せないんだ。皮肉だよな。」
「フィーフィア…ゲッフ」
「知ってるか?魔王の従者達は勇者一行だ。我とフィーフィアのかつての父もいた。」
「おでらもああなるのかな。ゲッフ」
「やめて!!縁起でもないこと言わないでよ!私が魔物の材料使ったのよ…」
「魔物化は…今までの勇者の誰にも止められなかったことなんです。元獣や元人間だった魔物を殺した罰だと思って甘んじて受け入れるしか道はありません。」
「嫌だったらやめてもいいのよ。私だってこんなの奴隷の方がマシだわ。」
「いや、やめないよ…」
恩人を殺されたとはいえクスリ漬けの奴らに職業と食べ物を与えられた。死ぬよりはクスリ漬けされる方がマシだと思えるくらいには勇者一行と名乗るイカれ集団に絆されている。
「はやく中級獣使いになれ、そしたら我らの魔物化も止められるかもしれない。強くなるのが生きる道だ。」
「はい…」
「召喚の仕方は私とハーディが教えてあげる。レベルの上げ方はとにかく魔物を倒して食べるしかないわ。」
「料理はおでに任せてよ!今日は骸骨出汁のフレア焼きだね!ケフッ…」
マーティンとラドルクが起き上がってからボンゴの作った料理を食べた。その日の味はいつもより少し寂しい味がした。暗く重い空気が流れている。恐らく角が生えたんだろう。暗く重い空気のまま見張りの番が決まった。今回は俺が中級になれるようリリーとハーディが色々教えてくれるらしい。順番はこうだ。俺、リリー→ワイロフ、ハーディ→ボンゴ、ラドルク→マーティン、フィーフィア→ハーディ、俺→リリー、ワイロフ→マーティン、ボンゴ→ラドルク、フィーフィアの順番だ。今夜は2時間交代の16時間で夜明けが来るらしい。
今度こそ夢から覚めたい。魔物化とか言いだす勇者一行から逃げだしたい。
「ちょっと聞いてるの?」
「あ、うん…」
とリリーが少し怒りながら言った。
「例えば、フレアは明視出来るの。光の魔物は光りで目を攻撃した後に襲ってくるから。スイレーンは水の魔物を誘き寄せることが出来るわ。水の魔物は警戒心が強いから。」
「なるほど、ならどうやってその能力を?」
「獣使いは前例が少なくて分からないことだらけなんだけど…」
「はい。」
「獣の魔石を吸収してその能力が使えるようになるみたい。」
「獣の…」
「まあ獣とか魔物に詳しいのはハーディの方だから、そこら辺はハーディに聞いて。」
リリーと一緒にワイロフとハーディを起こして寝た。しばらく寝たあとマーティンとフィーフィアに起こされた。
「コカトリスとカーテルってどういう生き物ですか?」
「本当に何も知らないんですね。」
「え?はい…」
やっぱりなんかこの人にめっちゃ可哀想な人って思われてそうだ。仕方ないと言えば仕方ないんだけど…少し罪悪感がある。
「あのカーテルは家畜としても人気が高いんですよ。」
「へぇ…」
「コカトリスの見た目は鶏の体に蛇のしっぽ、ドラゴンの翼を持った
「ヌー?ヌーはいた。鶏や蛇もいた。」
スイレーンだとかフレアだとか異世界みたいな名前を言う割にはヌーや鶏、蛇もいるのか?
「ヌーと鶏と蛇がいた?何を…有名な伝説の生き物ですよ?」
「……は?」
ヌーと鶏と蛇って絶滅危惧種だったか?伝説の生き物ってどういう設定なんだ?
「どっちかと言うと、ドラゴンが伝説の生き物だろ。」
「……もしかして異世界から来ました?」
「ぶふっ…」
思わず吹き出してしまった。異世界から来たという設定はそちらがつくってるのにこちらが異世界人扱いされてしまった。
「冗談はやめてくれ。」
「冗談ではなくて…貴方は目が見えないんですよね?もしかして異世界に来たことに気づかないだけなのでは?」
「……」
呆れてものも言えない。異世界転生は有り得ないしそもそも遭難したぐらいで異世界転生してたらたまったもんじゃない。やはりクスリ漬けの危ないやつか鬱病なのだろう。街に案内してここの住所を言ってくれれば何とか家に辿り着ける可能性もあるのにナーダム皇国とか意味の分からないことを言うから辿り着けない。携帯も森の中だから恐らく圏外なのだろう。先程から反応しない。俺の家族は亡くなってるが俺が居なくなって心配してくれる友達はいるしヘルパーの笹山さんや盲導犬のモナカもいる。歩き慣れた山だからといってモナカを連れて行かなかったのが馬鹿すぎる。
「スペス?」
山の中で遭難した俺を責めているとハーディが話しかけてきた。
「異世界に来たなんて有り得えない。俺はハーディの言う通り記憶を無くした奴隷だったんだろう。」
とりあえずこの人話に合わせた。
「……それもそうですね。異世界転生なんて有り得ないですから。」
何を言っているんだ?ヒーラーとか言っておいて…そうか、こいつらの設定ではドラゴンとか魔法使いとかがいる世界が現実世界なのか。
待てよ?魔法があるなら異世界転生だって有り得るんじゃないのか?いや…こいつらの異世界ガバガバ設定にツッコんでもしょうがない。
「今日大怪我を負いましたね。マーティンとラドルクの魔物化も進んでしまいました。あの骸骨はスーティルと呼ばれてます。コカトリスやドラゴンや大蛇と同じように色んな属性があります。逆にフレアやスイレーン、カーテルは1つの属性しかありません。」
「カーテルはなんの?」
「植物系ですね。」
「あの、属性となんとか系の違いって?」
「あぁ…例えば植物系なら苔属、花属、食肉属、毒属があります。毒以外は基本的に見た目が変わるだけですよ。」
「なら毒は?」
「例えばカーテルならカーテルから生えてる植物が毒になるんですよ。」
そもそも動物から植物が生えてるということ自体おかしいんだが…
「炎系なら太陽属、
「しきえんぞく?」
「炎の色と火力が違うんですよ。」
「なるほど?」
「水系なら海属、川属、池属、湖属、湿地属ですかね。」
「へー…」
「闇、光、毒はまた次の見張りの時に話しましょうか。リリーとワイロフを起こしましょう。交代の時間です。」
リリーとワイロフを起こし眠りについた。
【おまけ】
勇者一行の力の強さランキング
1位.ボンゴ(ハンマー使い)
2位.ワイロフ(槍使い)
3位.マーティン(勇者)ラドルク(剣士)
5位.フィーフィア(弓使い)
6位.スペス[天海 大地](獣使い)
7位.リリー(魔法使い)
8位.ハーディ(薬師、ヒーラー)
対戦した時の強さランキング
1位.マーティン(勇者)、ラドルク(剣士)
3位.ワイロフ(槍使い)
5位.ボンゴ、フィーフィア(弓使い)
6位.スペス[天海 大地](獣使い)
7位.リリー(魔法使い)
8位.ハーディ(薬師、ヒーラー)
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