光なき異世界

@KSGood

第1話 希望

盲目にも種類がある。白くボヤけてるタイプ、光だけ見えるタイプ、片目だけ見えにくいタイプ。ちなみに俺は全盲だ。全盲というのは光すら見えない…つまり見えるヤツで例えると片目を閉じた時の閉じた方の片目の視界らしい。

山を散策するのが俺の楽しみで、別に見えないから季節も何もわかんないんだけど下山する人がこんにちはと言ってくれるし、白杖が山を登るための杖だと思われるので結構好きだ。今日もいつもと同じコースを歩く。急に道路を歩く感覚が無くなる。戻っても道路はない。まずい…遭難だ。いや、目が見えてたら遭難でもなんでもないのだろうが、全盲にとって道が分からなくなった時点で街でも電車でも遭難だ。

「誰かー?誰かいませんかー?助けてください、遭難しましたー!」

傍から見れば遭難してないように見えるかもしれないのでこいつ何言ってるんだと思われるかもしれないがなりふり構っていられない。

「あの、俺目が見えないんですー!誰かー?もしもーし!」

ここはハイキングコースで初心者もよく通るからそんなに道を外れていなければ会えるはず。

「大丈夫か?」

若い男性の声だ。

「あ、すみません…道が分からなくなってしまって、道路の上に案内して貰えますか?」

「どうろ?」

「え、そんなに道外れてますか?困ったなぁ…家に帰れるかな。」

「良かったら家泊まります?夜遅いですし。」

「いいんですか?ありがとうございます。」

怪しいが金品が何も持って無いし断ったところでどうしようもないのでこの人に殺されたとしても文句は言わない。

「目が見えないなんて大変ですね。」

「まあ…生まれつきなので慣れました。」

「僕も他とは違くて…よく誤解されるんです。なので分かります。」

「なるほど…」その他とは違うの意味が変な意味でなければいいが。

「ご飯どうぞ。」

「何から何まで…ありがとうございます。」

「家どこら辺にあるか教えてくださったら街の方に案内しますよ。」

「ありがとうございます!」

なんていい人だ。食事も美味しいし、疑って悪かったな…暖かい。

「美味しい……」


ドンドンドンッ!ドンドンドンッ!激しく扉が叩かれる。

「出て来いゴブリン野郎!!」

酷い言いようだ。まさか借金取りだろうか?

バンッ!扉が壊される音がする。

「や、やめてください!」

あの人が困ってる。助けなければ。

「あ、あの…やめてください。その人は恩人なんです。金なら何とかしますから。」

「貴方は…?ゴブリンを庇う気ですか?」

先程と違う声。何人かいるようだ。

「違う!そいつは目が見えないから騙し取ってやろうとしたんだよ!馬鹿な奴め!」

そんな言い方明らかに変だ。そんな言い方したら殺られるに決まってるのに、もしかして守ろうとしてそんな嘘をついたのか?

「なんだと!!このっ…悪どいゴブリンめ!こいつっ…!」

さっきの扉を叩いてた人の声だ。怖い。

「ぐあっ!」

あの人の苦しむ声が聞こえる。もしかして…

「え!?大丈夫ですか?あの…」

「もう大丈夫ですよ。」

借金取りの声だ。怖い。

「あ、あの人は?」

「……俺は勇者ですよ!安心してください!」

意味がわからない。イカレ野郎だ。クスリをしてるかもしれない。

「そんなこと言う人信頼できません。」

「えぇ?でも勇者だからなぁ…」

「おいマーティン、そいつ目が見えないから勇者なんて言ったら余計怪しまれるだろ。」

勇者と名乗る奴はマーティンと呼ばれている。もう1人男がいるようだ。身長が高いのか上の方から声が聞こえる。

「ラドルク…でも、嘘は良くないだろ?」

「そりゃあ…って!真面目すぎんだよ!」

「まあまあ落ち着いて2人とも…貴方の名前は?」

今度は女性の声だ。この人に本名を教えてもいいのか?

「……」

「私はリリー。魔法使いよ。」

「宗教勧誘なら間に合ってます。」

悪魔祓い的な感じか?そこらへんは詳しくないので区別できないが…

「宗教勧誘じゃないわよ!」

「はははっ!リリーが魔法使いじゃなくて宗教勧誘だってさ!」

「うっさいわねラドルク!」

「すみません、うるさくて…確かにいきなり現れて勇者一行だと言われても納得はできないでしょう。僕はハディー。薬師です。あと兼任でヒーラーやってます。」

「あの…何かの冗談ですか?勇者一行とかゴブリンとか…さっきの人は俺の恩人なんです。遭難してたとこを助けてくれて。」

「……すみません、どんなに良い奴でも魔物は倒す決まりで。」

勇者と名乗る男が悲しそうに言う。なんでそんな反応をしているんだ??

「にしてもゴブリンや勇者一行を知らないなんて…奴隷にでもされてたのでしょうか?」

と薬師と名乗る男が言う。

「奴隷?されてませんよ。」

「もしかして…!この人顔が良いし、性奴隷とか?そんなの可哀想よ…」

「障害のある方が性奴隷にされるケースは珍しくありませんね。知能の高いゴブリンなら奴隷にするでしょう。」

この人達さっきから失礼すぎないか?

「ハーディさん?でしたっけ?本当にさっきの人はそんなことする人じゃありません。薬師だろうが宗教勧誘だろうが勇者だろうが借金取りだろうがヒーラーだろうが関係ありません。恩人を殺した人を信頼できません。」

「だけどあなたは保護されるべきだ、少なくとも俺はそう思う。このままだとあなたはまた性奴隷にされる。」

「マーティンの意見に賛同だな。俺様達の言うことは信用しなくていい。ただここら辺は魔物も多いし危険だ。特にゴブリンはな。」

「はぁ?魔物とか魔法使いとかヒーラーとか勇者とか…」

「ちなみに俺様は剣士だぜ。」

「目が見えないからって馬鹿にしてるんですか?わかりました。ここで俺を殺さないと警察に通報しますよ。」

「けいさつ?なんだそれ。」

剣士と名乗った男が初めて聞いた言葉を聞き返すような口調で問いかけてくる。

「……は?」

「あ!もしかして異国から逃げて来たのか?」

「なるほど…確かに。マーティンの言う通りかもしれませんね。」

「あとは逃げる途中で何らかの形で気を失ったとかな。」

と剣士と名乗る男が言う。

「可哀想…異国から逃げたのにゴブリンに…私達が何とかしてあげれないの?」

「とりあえず皇子に報告すれば?ニコラス様は優しいし。」と勇者と名乗る男が言う。

「人格者よね!流石皇子!かっこいいわぁ…」

「リリー、婚約者いるぞ。」

「ラドルクうるさい。あのね、そういうんじゃないのよ!」


「遅くなったね。」

「お疲れ様です。」

「お疲れ様。マーティンもラドルクもリリーもハーディも。」

「この人が例の…」と女性が言う。

「おぉ…確かに綺麗な顔立ちだね。性奴隷としてよく売れそうだ。おっと…すまない。気を悪くしたかな?」

「……」

皇国の皇子とかいうやつのことも勇者一行とかいうやつのことも信用出来ない…だけど目が見えないから抵抗は出来ない…

「マーティンのバカが、人間を騙してたゴブリン倒した後に勇者って名乗るから警戒してるんですよ。」

「バカとはなんだラドルク!」

「目が見えないんだよ、バカ!そりゃ警戒するだろバカ!」

「恐らく異国の性奴隷で、何故言葉を理解し話せるかは……分かりませんが、逃げてる途中で記憶を失った可能性があります。」

「なるほど、ありがとうハーディ。初めまして、ニコラス・ナーダムだよ。ナーダム皇国の皇子だ。まさか皇子を名乗るなんて嘘なら侮辱罪で極刑だろ?」

「……」

こんなのは夢だと思いたい。遭難先で頭のおかしい奴らに囲まれて…恐らくクスリを飲まされる…警戒しなければ。

「初めまして…名前はありません。」

嘘をついた。俺の名前は天海あまみ 大地だいちだ。つくづく大自然な名前だと思う。いやそんなことはどうでも良くて…本名を教えるとまずい。

いやでも名前ないなんてこいつらの性奴隷という設定にぴったりじゃないか?クスリ漬けでヤラれるかもしれない。

「大変だったね、もう大丈夫だよ。勇者一行もいったん帰ろうか。」

「「「「はい。」」」」


「とりあえず勇者一行を紹介するな!俺はマーティン。勇者だ。よろしくな。」

こんな状況でなければ爽やかな好青年だと感じるくらい明るい声だ。

「俺様はラドルク!ドワーフと人間のハーフで剣士だ!よろしくな!」

先程の男より低く威圧感がある。

「私はリリー。魔法使いよ。よろしくね。」

声が高くて女性らしい雰囲気がある。一般的な宗教勧誘の声にそっくりだ。

「僕はハーディ。薬師です。ヒーラーの役割をしてます。よろしくお願いします。」

冷たくて淡々とした喋り方をする人だな。

「あとは休養中の槍使いと弓使いの半狼兄妹ワイロフとフィーフィア。ハンマー使いのボンゴもいるんだ。」

勇者と名乗る男が楽しそうに話す。休養中って…クスリ漬けのことだろうか。

「とりあえず鑑定をしてみましょう。スキルとそれにふさわしい役職が出てきますから。」


「ハーディ、頼んだよ。」と皇国の皇子と名乗る男が言う。

「はい。じゃあ…ここに手を。………スキル『森羅万象』…獣使いですね。」

「おぉ…すげぇスキルだな!マーティン見ろよこれ!」

「え、ラドルク、これすげぇんじゃ?」

「おう!お前、えっと…」

「そういえば…この人の名前どうしますか?」

「あれだよな、忘れてるだけで名前あるかも知れねぇし……」

剣士と名乗る男が困ったような声で話す。

「スーティーはどうかしら?魔法語で名無しって意味よ!」

「なんか嫌だろ。」

「じゃあラドルクが名付けなさいよ!」

「俺様はセンスが壊滅的なんだよ。」

「僕も名前のセンスはありませんね…皇子からなら有り難いですし、名前がわかっても通り名的なものに使えるのでは?」

「思いつかなかったわ!それなら貴方も嬉しいんじゃない?ハーディ天才ね!」

「それもそうだね。なら…スペス…スペスはどうかな?」

「魔法語で希望ですね!とっても素敵だと思います皇子!」

「ありがとうリリー。さて、君は気に入ってくれたかな?」

「はい…ありがとうございます。」

スペスの意味が希望なのはラテン語と同じだ…スーティーはラテン語じゃないのに。設定ガバガバだな。なんだか余計にクスリ漬けの奴らだと思えてきた。

「それで…頼みがあるんだ。スペスさえ良かったら魔物を一緒に倒してくれないか?」

「勇者とですか?」

「マーティンって呼んでくれ!」

「は、はい…」

「獣使いなら目が見えなくても戦えるから心配すんなよ!」

「いっ…っ。」

剣士と名乗る男に背中を思いきり叩かれた。

「報酬はナーダム皇国からだすよ。」

「あとまた奴隷にされなくなるぞ!俺様みたいな剣士にハンマー、弓、槍、魔法、薬…ま、何より勇者がいるからな!」

「わ、わかりました…やらせてください。」

逆らうと今すぐに奴隷…つまりクスリ漬けにされそうだ。


「おい、これからは敬語なしな!俺様のことはラドルクと呼べ!」

「うん…」

「獣使いとはいえ目が見えないとか…足でまといなんじゃないの?」

「フィーフィア!もう!ダメだよそんなこと言っちゃ!」

「リリー…あたしは心配してんだよ。」

「我はフィーフィアに同感だ。」

「ワイロフ〜…獣使いは今までなかなかいなかったんだよ、魔法使いと同じくらい貴重な役職なんだぞ?」

「マーティンは楽観的だな。我とフィーフィアは警戒せざるを得ないな。」

「マーティンが楽観的かどうかは戦ってから決めてはどうですか?」

「そうだぞ、ハーディの言う通りだ。決めるのはまだ早い。足でまといなら追い返せばいい。それに最終的に決めるのは俺だろ?」

「まあまあ、休養開けから喧嘩はやめようよ。ゲフッ…」

「ボンゴは相変わらずですね。」

フィーフィアが声の張った威圧するような女性で、ワイロフが唸り声のような低い声の男性で、ボンゴが太った声の男性らしい。あのイカレ野郎が嬉しそうに話していたクスリ漬けの仲間だ。

「おっ!噂をすれば蜘蛛の魔物だ!さっそく俺様が殺るか〜?」

「待って!あの蜘蛛は魔石を守ってる洞窟があるの。そこにボスがいるはずよ。」

「さすがリリー。皇国一の魔法使いですね。」

「やめてよハーディ〜!」

「おい、ラドルク…蜘蛛が動いたぞ。」

「ワイロフ匂いたどれるよな!?」

「我に任せろ。」


「いたわ、魔法を唱えて出られないようにする。私が合図したらみんな洞窟の中に入って!いい?さん、にー!いち!」

リリーが何か唱える。

「ほらスペスほんとに魔法使いだったでしょって…そっか!見えないんだったー…もー!嘘じゃ無いんだって!」

「まあまあ、リリー落ち着けよ。ほら、蜘蛛が襲ってくるぞ!」

「俺様に任せろ!いくぞマーティン!」

「おう!」

「スペス、ドラゴンを召喚してください。」

「え、でも唱え方が…」

「獣使いは誰にもわからない文字で例えばドラゴンならドラゴン召喚と空中に書き、炎、水、光、闇、毒、植物のどれかの系を絵で描くと発動します。この蜘蛛相手なら炎です!」

「誰にもわからない文字…??」

とりあえずドラゴン召喚と点字で空中に書き炎をイメージする絵を描いた。目が見えないのでこの絵が正しいのかわからない。グキャアァアという急ブレーキに近いような鳴き声が聞こえてくるとともにバサッバサッとでかい羽音とブォンブォンという風を切る音が聞こえてくる。もう既にクスリ漬けされたのだろうか、幻聴が聞こえてるに違いない。

「うぉっ…リリー!俺様とマーティンに耐火魔法かけてくれ!」

「うん!」

「ならば雑魚共は我とフィーフィアとボンゴに任せろ。」

「うおりゃあぁあ!!ゲッフ…」


「スペスのおかげで楽に倒せたね?フィーフィア、ワイロフ?」

「まあ…確かにあんたのおかげであたしたちは楽に倒せたのには違いないね。」

「足でまといなんて言ってすまなかった。」

「いや、俺は召喚の仕方も知らなくて、ハーディさんに教えて貰ってやっとできたので…」

「あの場で教えられてすぐできるのはすごいですよ。」

「改めて半狼のワイロフだ。」

握手された。ワイロフの手の甲の感触があまりにも毛深すぎるし手のひらが柔らかい肉球のような感触もする。

「妹のフィーフィアだよ。改めてよろしくねスペス。」

「よろしく…」

フィーフィアの方はワイロフよりは毛が浅いが、獣みたいな毛深さには変わりない。肉球のような感触もある。

「おではボンゴ、魔物の食べ方なら任せてよ。ゲッフ。」

ボンゴと名乗る男は会った時から、喋った後に軽くゲップをしている。クスリの副作用だろうか?というか我とか俺様とかおでとか…日常生活ではあまり聞かない一人称だ。クスリやってる奴って全員そうなのか?

「あそこの開けた場所で野宿しようぜ、どうせ魔物は夜中にしか出ねぇし。」

ラドルクが森の開けた場所を指さす。

そういえば寝てない。山で遭難してクスリ漬けの奴らに生かされてるなんて夢だと思いたいので寝たら夢から覚めてて欲しい。

「さぁ…見張りの順番を決めようか。」

「えぇ!?もぅ?ゲッフ…ご飯たべよぅよぉ。お腹すいたよぉ。ゲフッ…」


蜘蛛を食べた後見張りの順番が決まった。俺は目が見えないため目がいいフィーフィアかワイロフとすることになった。順番はこうだ。

マーティン、ハーディ→ラドルク、リリー→ボンゴ、ワイロフ→フィーフィア、俺→マーティン、リリー→ラドルク、ハーディ→ボンゴ、フィーフィア→ワイロフ、俺。クスリ漬け達が言うには異世界の夜は長いらしい。4時間ごとに交代で32時間で夜が開けるらしい。

見張りの順番が回ってこないで、夢から覚めて布団の感触を感じたい。


【おまけ】

・勇者一行

勇者:マーティン

一人称:俺


剣士:ラドルク

一人称:俺様


魔法使い:リリー

一人称:私


ヒーラー兼薬師:ハーディ

一人称:僕(敬語)


ハンマー使い:ボンゴ

一人称:おで(ゲップ)


槍使い:ワイロフ

一人称:我


弓使い:フィーフィア

一人称:あたし


獣使い:スペス[天海 大地]

一人称:俺

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