愛遠奇縁、好女色の罪③
「もう我慢できない」
ボクはそう言って、ランジェリー姿の遥華に抱きついた。遥華の顎を掴んで強引に持ち上げると、唇を重ねて無理矢理に舌を捩じ込んだ。昼間、自由に欲求を裏切ることなく振る舞った彼女だが、夜は強引にされることを好む。
「ずっと楽しみにしてたんだろ」
ボクは遥華の両腕を掴んで引っ張り、ベッドの端に座らせた。彼女の両腕を万歳の状態にしたまま、ボクは自分の下半身を彼女の顔に押し付けた。
「ほら、早くしろよ」
ボクはできる限り冷たい口調になるよう意識して、遥華に命令した。
「……はい」
遥華は目をとろんとさせながら頷くと、ボクの体を舐め始めた。そこでボクが彼女の手を離すと、彼女は自分からボクの脚の間に手を入れる。
ボクは普段あまりこの手のロールプレイはやらないから、正直苦手意識がある。こういうのは愛くん辺りが得意だ。つい先日も、恋人に乞われて、その恋人の勤める会社が見える公園で野外プレイをした話を楽しそうに語っていた。その恋人とも一ヶ月くらいで別れたらしいが。
「もっと、ちゃんとやれよ」
ボクは遥華の後頭部を両手で掴んで、彼女の顔をボクの身体に強く押し付ける。遥華が高い声で唸りながら舌を動かすのが感じられた。ロールプレイは苦手だけれど、こうして体を触られるのは好きだ。何より良いのは、ゴムをつけながら女の子の中に精子を吐き出した時の気持ち悪さと無縁なことだ。自分からヤりたがる子は少ないので、これはボクにとって遥華との夜の大きな楽しみだ。昼間どれだけ退屈な買い物に付き合ったとしてもお釣りが来ると思うくらいには。
「──ッ!」
彼女に自分の身体を喰われるたびに、ゾクゾクとした感覚が背筋から足元にかけてまで伝わる。ボクは遥華の頭をより強く自分に押し付けた。遥華の手と口の働きで既に絶頂を済ませていたボクは彼女から体を離してやった。華の顔は涙と鼻水でびしょびしょになっている。
「いひひ」
そんな遥華は嬉しそうに笑って口を大きく開けて、んべっと舌を突き出す。
「えらいぞ」
ボクがそう言って遥華の頭を軽く叩くと、彼女は口を閉じて、ごくりと喉を鳴らした。ボクはもう一度遥華の頭を叩き、ベッドに彼女を座らせる前にそうしたように、彼女の顎を掴んで唇を重ねた。まず遥華の体液の塩辛さを感じ、それから苦味が口の中を襲ったが、ボクは構うことなく舌を捩じ込む。
「んっんっ」
遥華が息苦しそうな声を出して自分の喉元に手をやるが、まだ離さない。遥華は反対側の手でベッドなシーツをギュッと掴み、ボクの脛を蹴った。ボクはそこで彼女から口を離す。最後に彼女の下唇を軽く噛んで、彼女の鼻頭目掛けてブッと唾を吐き出した。
「げっ、ごほっ」
遥華が咳き込むが、まだ休ませるわけにはいかない。彼女自身がそれを所望している。ボクは遥華の腰からへそにかけて手をやる。慣れていないとは言え、ここまで来るとボクの嗜虐心も盛り上がってくる。
「なあ、お前はどうしたいんだ?」
ボクは彼女の耳元で囁く。これからすること、これからされたいだろうことを卑猥な単語を織り交ぜて、ねっとりと口にする。その間も遥華の柔肌を弄る指の動きは止めない。彼女を弄るのとは反対側の手であらかじめ枕元に置いていたゴムを手に取って、袋を開けた。ボクは遥華の両肩を乱暴に押して、彼女をベッドの上に倒した。
ボクは彼女の口の中に指を捩じ込んだ。ゴホゴホと彼女は咽せる。こうして苦しむ彼女を見ていると、たまにハラハラが勝ってしまうが、その気持ちはグッと飲み込む。ボクは彼女の頭の方に足を向けて体に覆い被さった。その態勢のまま、ボクは遥華の脚を両手で広げた。わざとジュルジュルと音を立てて、たまに噛みつきながら、ボクは彼女の脚を舐め回す。遥華の方も舌を動かし始めた。そのままお互いの体を口に含む。萎んでいたボクの男性器はまたすぐに勃起した。
「どうしたい?」
ボクが言うと、遥華は焦点の定まらない目を何度か瞬かせて、ようやくボクの顔を見る。その顔には歪んだ笑みが浮かんでいて、ボクは高圧的とも言える昼間の彼女の自由さを思い出して、欲情を募らせる。
──自由奔放で、他人のことを慮らず、自身の欲求のまま行動する。そんな女の子を征服する。いつもは女の子に悦んでもらいたいと思うボクだが、遥華をこうして組みしだくことは、ボク自身にとって至上の悦びと言えた。
「お願い」
「何を? どこに? どんな風に?」
「それは──」
ボクが尋ねると、遥華は卑猥な言葉で自身のしてほしいことを口にする。遥華は自分の笑みが溢れるのも我慢できない様子で、ヘラヘラとした笑みをずっと顔に浮かべていた。
──ボクは遥華の求めるまま、乱暴に契りを交わした。遥華は悲鳴と区別のつかない悦びの声を上げる。
「あああああ!」
ボクは遥華をぎゅっと抱きしめて、そうやって二人して声を張り上げた。二人の叫びが部屋中に響く。遥華の声が突然ふっと消え去ったかと思うと、ボクも遥華も放心した状態で、ベッドの上に体を投げ出した。
「気持ちよかったよ」
冷えた頭で隣にいる遥華に微笑みかけながら、今のは流石に嘘をついたな、と思う。当然、ボクの言葉なんて嘘だらけなのだけれど。
3
「たまには生でヤりたとか思わないの?」
放心している遥華を背中から抱き締めて、この後どうしようか考えていると、遅れて絶頂から帰ってきたらしい彼女がぼそりと呟いた。
「え、ヤダ」
遥華に急に問われたボクは咄嗟にそう口にしてしまって、思わず吹き出した。不意打ちにそういうこと聞くのはやめてほしい。
「遥華に無理させたくないし」
ボクは思わず口をついた言葉にそう続けた。
「あたしは無理されたいのよ」
「んー、考えとく」
ボクは適当に返す。遥華ならこれでもやり取りとしては満足だろう。
「あたしは別に生で良い。というか、生が良い」
「はいはい」
「あたしピル飲んでるし、ちょっとくらい大丈夫。っていうか普通、こういうの男と女逆でしょ。男って生でヤりたいもんなんじゃないの?」
「人によるだろ」
ボクはぼんやりとした頭で、昔一度きり遊んだ女の子のことを思い出していた。向こうも遊び人で、ピロートークとして蘊蓄を語る姿があまり好みでなかったので、それっきりにした子だ。これまで何人の女の子とセックスしたのか、ちゃんと数えていないが、それでも一度きりの女の子のことを思い出すことはある。名前も忘れたが。その子が言うには、ボクらの年代で生の経験があるのは三割いかないとか何とか。
「あたしはわかんないけど、生でした方が気持ち良いらしいじゃん」
次に思い出したのは、初めて静香とセックスをした時のことだった。あの時は生でヤった。そしてまた別の女の子を思い出す。
──あのクラスメイト。やはり名前を思い出せない彼女とは、一年くらい付き合った。その子からも一回だけ、ゴムなしを懇願されたことがあった。懇願というよりも、遥華が言うような俗説はいくらでも聞くけれど、実際にどう違うのか確かめたい、という興味半分もあったみたいだ。多分、ボクがこれまでに相手してきた女の子の中でも、彼女はトップクラスに真面目な子だったから。
「変わんないよ」
ボクはそう口にする。静香とのセックスも、あのクラスメイトとのセックスも、どちらも胸に何かがつかえるような気持ち悪さを感じた。その気持ち悪さは、ゴムをして中で射精する時の気持ち悪さとは全く違うものではあるけれど。女の子の中で射精するのは、それがゴムありだろうがなしだろうが、どちらも気持ち悪いことに変わりはない。
「そういうもん?」
遥華がゴロンと体を回して、ボクと向かい合わせになった。額に皺が寄ったその顔には、少しばかりの不安が浮かんでいる。
「少なくともボクはそうだよ」
ボクは遥華の頭を撫でる。遥華は嬉しそうにはにかんだ。
「遥華とは一番楽しい形でセックスしたいし」
これは本当だった。面倒な気持ちを抱えたままするくらいなら、そんな懸念は排除した方が良い。欲求に赴くままにボクとの時を過ごしたい遥華には、ボク自身も同じ態度で挑みたいものだ。ボクは遥華にキスをする。キスをしながら遥華のランジェリーを少しズラして指の腹で乳首を撫でた。遥華の体がびくりびくりと動いて、また喘ぎ声が部屋に響く。
「そっか。ま、それならいっか」
ボクが遥華から手と唇を離すと、彼女はようやく納得して、彼女の方からボクを抱き締めた。ボクも彼女に応える形で、彼女の背中に手を回す。
「ねー、やっぱり拓巳があたしと付き合ってよ」
「ダメ」
ボクは即答する。この手の質問に気を持たせるつもりは全くなかった。
「イジワル」
遥華が大きく鼻から息を出す。
「でもそういうのが好きなんでしょ、遥華は」
「だから困ってんのよね」
今度は溜息だ。遥華は脚も使ってギュッとボクにしがみ付くようにする。ボクは思わず笑って、遥華を強く抱きしめ返した。
──誰か一人と付き合うなんて、めんどくさいだけだ。クラスメイトと別れた理由は、単純にボクの浮気だった。同じ大学を志望していた、塾で仲の良い女の子に誘われてキャンパス見学に行った帰りにモジモジとしていたその子の手を取ってキスをしたところを、同じ学校の奴に見つかって告げ口されたせいだった。ボクはあの子がキスをしたそうにしていたから、そうしただけなのに──。クラスメイトとは別れたが、塾の子とはまだ友達だ。結局同じ大学には行かなかったが、毎年学祭の頃になるとウチの大学に遊びに来る。
ボクはこれまでに恋人になった子の顔を思い出そうとして、やめた。頭に浮かぶのは静香の顔だけで、他の女の子の顔は皆、モザイクがかかったみたいに霞んでいた。
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