首飛ばしゲームから地下へ
ようすけ
第1話 首飛ばしゲーム
わたしが右のパンチを出した。
すると美咲の首があっちの方にまで飛んだ。これで一点だ。
「円の中に入れないと……」
「ちゃんと狙って飛ばせよ、トンマめ!」などと地下の闘技場で野次が飛ぶ。
「おれがお前の首を代わりに飛ばしてやるよ」
審判の男がわたしに近づく。それから微笑んだ。
「あいつらはこの場所の過酷さが分からないから勝手に言わせておけ」
わたしは泣いていた。
審判に言った。「これ以上、もう友だちがいないんです」
審判は「分かっている」というような表情だ。
わたしの肩に手を置いた。それを合図に、門の所から大きな男が二人も入ってきた。
美咲を含め、数々の友だちの首を飛ばしてきたわたしではあるが、これ以上の友だちを呼ぶことが出来ずに、残念ながら地下の労働施設行きが決定した。あの時にああしておけば、などといった後悔ばかりが脳裏をよぎった。
これまで、わたしは幾多の死線をくぐり抜けてきたが、これはもうお手上げだった。
地下の労働施設から出てこれる人間はいない。
しかもわたしが美咲を含め、ヨシキや丈城などの首を飛ばしたビデオカメラを、運営側は担保にして記録しているのだった。わたしはだけど、泣いたりはしなかった。叫ぶこともしなかった。そんなのは体力の無駄でしかないし、自分の境遇を嘆いたりする姿が観客たちの好む所なのだ。
審判の男は気を取り直していた。
次の男が入場する。その男は血気盛んという訳ではなかった。だが、いよいよ労働施設へと連れて行かれるわたしを見ても、事態の深刻さに気がついていないように思えた。どこか、ただビビっているだけなのだ。
審判の男が、わたしの次の男に言った。
「友だちの首を飛ばして、あの円の中に入れるんだ。飛びやすいように刃物で切れ込みを入れて、思い切り握った拳で殴るんだぞ」
「はい」
「真ん中に近ければ近いほど、得点が高い。見事に十点を取れば一億円だ」
「本当に一億円がもらえるんですか?」
「だけど、本当にお前は地下の労働者施設で死ぬまで過ごすんだぞ」
「それは分かっていますけれど……」という男の声が聞こえた。
審判の男は、観客たちの野次に備えてささっと始めたそうだったが、男の質問があまりにも長かった。男は本当に一億円がもらえるのかどうかをを気にしていたのだ。
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