第15話 ルイ対メダカ

冬の寒さが可哀想で、池のメダカを室内に移すことにした。


先日の“金魚鉢ひっくり返し事件”の反省を踏まえ、今回は四角い水槽(1650円・税込)を購入。

生き残った赤ちゃんメダカと、まだ小さい幼児メダカをその中に避難させた。

大人のメダカたちは、冬眠して無事に冬を越してくれると信じて――。


本来、メダカは冬の間に退避させる必要はない。

それでも今回あえて避難させたのは、異常気象のせいだ。

気温がなかなか下がらず、メダカたちは寒くなる直前まで卵を生み続けていたのだ。


* * *


さて、本題。


棚に新しい水槽を設置し、日光に3日ほど当てて塩素を抜いた水を入れる。

そこにメダカたちを放してしばらくすると、ノンちゃんがやってきた。


水槽の上に軽やかに飛び乗り、こちらをチラリと見る。


(ノンちゃん?)


何をするのか見守っていると、

ノンちゃんは水槽の蓋にある“餌やり用の小さな穴”に手を突っ込み、水を触り始めた。


(ノンちゃん!?)


そして――濡れた手を舐め始めた。


(変な水の飲み方w)


ノンちゃんはそれを何度も繰り返す。

手を突っ込み、水を舐め、また突っ込み、水を舐め……。


「ノンちゃん、それ疲れない?」


「にゃ~ん。」


あざとい返事をしながら、濡れた手を私の服で拭いていくノンちゃん。


(をい!)


* * *


それから少しして、今度はルイ君がやってきた。

おもむろに水槽に飛び乗り――すぐに中のメダカに気づく。


ガリ! ガリガリ!!


ルイ君は泳いでいるメダカを捕まえようと、

ガラス越しに手を伸ばして水槽の上から引っかこうとする。


しかし、ガラスの蓋が邪魔でメダカにはまったく届かない。


(お前、少し考えろよ……。ガラスの蓋が無かったら、水槽に落ちるんだから。)


そんなルイ君を眺めていると、彼は気づいてしまった。

――ノンちゃんが手を入れていた、あの餌やり用の穴に。


(まさか、そこから手を突っ込む気か!?)


見守る私にも緊張が走る。


だがルイ君は、手ではなく――顔を突っ込もうとした!


……もちろん、穴は猫の手が入る程度の大きさ。

顔なんて入るわけがない。

どんなに頑張っても、鼻しか入らない――。


それでも必死に挑むルイ君。

しかし、努力むなしく顔が入ることはなく、ルイ君の戦いは終わった。


(ルイ君……賢そうなのに、やっぱりちょっと抜けてるよなぁ~w)


怒ったルイ君は水槽から飛び降り、

水槽に向かって猫パンチを数発繰り出すと――

そのまま廊下の奥へと逃げていった。

力のあるルイ君の猫パンチは一発一発が重く、水槽の水が波打っていた。


……メダカたちは、無事に冬を越せるだろうか。


私はルイ君の逃げていった廊下を見つめながら、

何とも言えない不安を覚えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る