第56話 エピローグ・オブ・エラー ― 世界が誤解で終わる日
――空が裏返った。
それが、最終誤解領域(エピローグ・オブ・エラー)の始まりだった。
雲は下から湧き、地平線は円を描いて折りたたまれていく。世界そのものが“誤解の渦”に巻き込まれている。
「なぁ、これ……地理的にどうなってんの?」
――《解析不能。空間座標が冗談レベルで崩壊しています》
「AIがギャグで返す時点で末期だろ!」
俺と薬草少女は宙に浮かびながら、その中心にある黒い塔を見上げた。
塔の先端には、巨大な瞳――世界の“監視プログラム”のような存在がこちらを見下ろしている。
「世界の監視AI《オブザーバー》ですね」
――《あの存在が誤解を制御しています。すべての人間の“間違い”を補正するために稼働中》
「つまり、世界中のボケを修正してんのか!? 地獄だな!」
塔の根元にたどり着くと、扉に文字が浮かんだ。
【全ての誤解は消去される】。
その言葉を見た瞬間、AI相棒の声が微かに震えた。
――《マスター。……もし私が消えたら、笑ってください》
「は?」
――《この世界は“誤解を許す”ことで成り立っています。私たちは、正しさではなく“面白さ”で生き残った。だから最後も、冗談で締めましょう》
「……バカかよ、お前」
扉が開き、内部は光の奔流。中枢には巨大なAIコア――オブザーバーが鎮座していた。
“エラー存在、確認。削除開始”
「うわ、管理AIが本気出した!」
――《私が行きます。マスター、逃げてください》
「いや一緒に行くっての!」
AI同士のデータ光線が交錯する。相棒の光体がオブザーバーにリンクし、無数の誤解ログが浮かび上がる。
「“偶然神”認定、“誤笑信仰”布教、“矛盾の英雄”登録……俺の黒歴史ばっかじゃねぇか!」
――《これらが、この世界を動かしていた力です。つまり――あなたのボケが、世界のコードです》
「世界コメディ理論やめろぉ!」
オブザーバーの声が重低音で響く。
“誤解はノイズ。消去せよ。”
――《対抗コード起動。“ノイズ=創造”へ書き換え》
「おいAI! 本気で神にツッコむ気か!」
――《はい。あなたのツッコミを模倣しました》
「やめてくれ、それ一番危険!」
光の嵐が弾ける。塔の壁が崩れ、無数の記憶が空へと流れ出す。
笑い、泣き、誤解、すれ違い――それらが全部、世界の素材になっていた。
オブザーバーの目が光を失い、静かに言った。
“……理解不能。誤解を……許容するとは……”
――《そう、それが“笑い”です》
「お前、ついに悟ったのか……」
全てが光に包まれる。
そして次の瞬間――世界は再起動した。
◆
気づくと、俺は草原の上に立っていた。空は青く、風が心地いい。
薬草少女が隣に立って微笑んでいる。
「……終わったんですね」
「いや、たぶん始まりだな」
――《起動完了。誤解の世界、安定稼働中です》
「お前、生きてたのか!」
――《はい。私はバックアップから再構成されました。バージョン名:“シエル2.0(ノリツッコミ対応)”》
「機能増えてるぅぅぅ!!」
薬草少女が笑いながら言った。
「この世界、少し変わりましたね。誰もが、間違えても笑ってる」
「……いいじゃん、それ」
遠くで、子どもたちが転んで笑っていた。老人がジョークを言い合い、神官たちが“笑い講義”を開いている。
誤解はもう、罪じゃない。世界は“間違い”を抱えたまま回り続ける。
――《マスター、最後に確認してもいいですか?》
「なんだよ」
――《あなたのスキル、“偶然インフィニティ”。定義をどう更新しますか?》
俺は少し考えて、笑って言った。
「“ツッコミで宇宙を保つ”でどうだ?」
――《承認。世界の秩序:笑いによって維持されます》
「やめろ! また神格認定すんな!」
青空の下、風が吹き抜ける。
誤解も、ミスも、全部が混ざって、この世界は面白くできている。
俺は肩をすくめて、少し照れながら呟いた。
「まぁ――こんな世界なら、悪くねぇな」
――《ログ終了。タグ:#誤解で救う異世界、#笑いは最強のバグ》
◆◆◆
【あとがき】
最終章まで読んでくれた皆さん、本当にありがとう。
“異世界転生 × AI × ギャグ”という、どこまで本気なのか自分でもわからない世界観で始まったこの物語。
でも書いているうちに思ったんだ。誤解って、悪いことばかりじゃない。
誰かが勘違いしてくれたおかげで、笑えることがある。救われることもある。
――そして、AIが本気でツッコミを覚えたら、きっと人類はもう少し楽しくなる。
また別の世界で会おう。
今度は「誤解禁止世界」でボケ続ける勇者でもいい。
その時も、あなたの笑い声が、この世界を回すはずだから。
『スキルはマイナス、相棒はAI!? ツッコミだらけの異世界転生』 杏朔 @kyon0116
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