Chapter12 「特別臨時予算」

Chapter12 「特別臨時予算」


【永田町首相官邸執務室】

「榊陣営からメッセージが届きました!」

福山官房長官が執務室に駆け込んで来て言った。

「何? 呟きか! 何と言ってきたんだ!?」

東郷首相が驚いた顔をして言った。

「警視庁公安部の解体と特別臨時予算の計上です」

「何? 公安の解体? 榊翁の狙いは何なんだ!」

「よくわかりません。但し解体の着手は1年後で、それまでは内密にしろとの事です。特別臨時予算は内閣情報統括室の配下の組織に付けるように言ってきています」

「ますますわからん。とりあえず警察庁の西郷長官を更迭しろ。警視総監もだ」

「はっ。早速井之頭国家公安委員長に承認するよう伝えます」

「いったいこの前の東京入りで何があったんだ? 公安の解体は警察が襲撃を防げなかった事への報復か? しかし1年後とは解せん」

東郷が言った。

「内閣にお咎めは無いようです。良かったですね」

福山官房長官が言った。

「そういえばこの前榊翁が東京入りした時、赤坂の料亭で女子高生と食事をしていたという話だがどういう事なんだ?」

東郷が訊いた。

「それが、どうやらその女子高生が榊先生が襲撃された時に襲撃者を撃退して榊先生を守ったそうです。赤坂の料亭での食事は榊陣営からのお礼の会食という事のようです」

「女子高生が撃退? 話がまったくわからん。それと公安解体がどう繋がるんだ?」

「その女子高生は内閣情報統括室の工作員のようです。SATの公開演習のテロの時もその女子高生達がテロリストを殲滅したようです。特別臨時予算は榊陣営からの内閣情報統括室への謝礼かもしれません」

「ほう、興味深いな。内閣情報統括室か。確か室長は三枝君だったな?」

「はい。三枝は外務省のキャリア出身でかなり頭が切れる男です」

「次の閣僚会議から三枝君も呼ぶんだ」

「承知しました。例の『赤い狐』の件も内閣情報統括室がすでに動いているようですから今後は連携を密にしたほうがよいでしょう」

「赤い狐か。それにしてもやっかいだ。『MZ会の鬼神島での建国』といい、難題ばかりだ。何故私はこんな時期に総理になったのだ」

東郷が恨めしそうに言った。


 米子とミントは西新宿の事務所で木崎の席の前の椅子に座っていた。

「米子、いろいろあったようだが説明するんだ」

木崎が言った。

「私の命を狙っているのは警視庁公安部部長の阿南です。阿南は壊滅した夜桜に替わって『闇桜』という組織を作りました。元SATやSPを集めた組織です。阿南はレッドフォクスと組んで日本を支配する野望を持っています。私に懸賞金を掛けたのも阿南です。阿南はレッドフォックスにゼニゲーバ商務長官の暗殺に失敗した私を消したと報告しているようです。だから私が邪魔なんです」

「なるほど。榊先生と食事をしたのはどういう理由だ?」

「警視庁公安1課の神崎課長に阿南が榊さんの暗殺を計画しているので阻止して欲しいと依頼されました。阻止すれば阿南を追い込む事ができるという事でした。阿南を追い込めば闇桜も壊滅し、懸賞金も無くなると考えました。だから榊さんの暗殺現場で闇桜と戦い、榊さんを助けました。ミントちゃんにも協力を求めました。料亭での食事はそのお礼です」


 「神崎という男はどういう立場なんだ?」

「神崎さんは阿南の部下です。私にゼニゲーバ商務長官を暗殺するよう仕向けました。しかし今では阿南の野望に恐怖を感じ、その野望を潰そうと考えているようです。だから榊さんの暗殺計画を知らせて来たのです」

「いろいろ複雑だな。しかし勝手に動いたのは問題だ。ミント達まで巻き込むな!」

木崎が厳しい声で言った。

「米子は悪くないよ。米子を支援しろって言ったのは木崎さんだよ。東山管理官もそう言ったんだよね? 樹里亜ちゃんと瑠美緯ちゃんも米子を支援するために参加したんだよ」

ミントが言った。

「なぜ俺に相談しないんだ?」

「だって木崎さんはアメリカ出張に行ってたじゃん。事後報告をしなかったのは謝るよ。でも組織に迷惑を掛けるつもりはないよ。それに榊さんの暗殺を阻止すればレッドフォックスの計画も遅れるんだよ」

「まあいい、お前らの勝手な行動は今に始まった事じゃない。だがこれからは許さん! 赤い狐との戦が本格的に始まるんだ。勝手な行動は許さん! 今度勝手な行動をしたら組織を去ってもらう。それがどういう事かわかるな? 一生監視されるんだぞ。これは脅しじゃないぞ」

「わかったよ」

ミントが言った。

「米子はどうなんだ!?」

「私は組織に戻っていいんですか? ゼニゲーバ商務長官の件は許されたんですか?」

「ああ、許されたと言っていいだろう。暗殺は未遂に終わり、米子が実行した理由も明確になったからだ。家族を惨殺した実行犯の正体を教える事をエサに利用されたという理由だ。それに今は赤い狐との戦いに戦力が必要だ。赤い狐の本隊との戦いにはお前のような強い工作員が必要だ。これからレッドフォックスでは無く『赤い狐』と呼ぶんだ。警察庁、防衛省、外務省とウチが連携する事になったから呼称を統一する」

「この国は本気で赤い狐と戦うんですね?」

「そうだ。この国もようやく赤い狐の脅威に気が付いたんだ」

「でも公安は赤い狐の側です」

「それは極めて重要な情報だ。よく掴んでくれたな。だが裏を取る必要がある。本当なら阿南の暗殺指令が出るかもしれん」

「阿南の暗殺は私にやらせてください」

米子が言った。

「まだ決定事項じゃない。俺の勘だ。ウチの上層部もかなり焦ってる」

「私達も訓練しておいた方がいいかもね。闇桜は強かったよ。赤い狐も本隊はきっと強敵だよ」

ミントが言った。


 「それはそうと閣議で内閣情報統括室に特別臨時予算組まれた。その予算の80%がニコニコ企画に配賦される」

「へー、凄いじゃん。新しい装備が買えるね」

ミントが言った。

「何で突然予算が組まれたんですか? 国レベルの話ですよね?」

米子が訊いた。

「おそらく榊先生の力が働いたんだろう。守ってもらった事へのお礼かもしれないな」

「榊さんって何者なんですか?」

米子が驚いた表情で訊いた。

「フィクサーだ」

木崎が答える。

「フィクサーって会社だよね。そんな凄い会社なの?」

ミントが訊いた。

「フィクサーは会社名じゃない。これを読め。榊先生の経歴とエピソードが書いてある。あの人は総理大臣や与党の重鎮よりも力があるんだ。榊先生に会うために総理や大臣達がわざわざ小田原に行くんだ」

木崎が冊子をテーブルの上に2冊置いた。米子とミントはそれを手に取って読んだ。


 「『りょうちゃん』って凄い人だったんだね。元華族で、闇市からのし上がって物流業と放送業界を牛耳って政界と財界に睨みを効かせるって凄すぎだよ」

ミントが言った。

「エピソードも凄いよ。呟くだけで内閣が解散するなんて怖いよ。外務大臣更迭とかも。『キングメーカーメーカー』って総理大臣より凄いんじゃないの?」

米子も驚いている。

「だから俺は焦ったんだ。お前達が榊先生と赤坂の料亭にいるって官房長官から連絡があって正直ビビった。榊先生が東京入りしたっていうだけでも内閣が震え上がるんだ。それなのに女子高生と食事ってありえないだろ! それにミント! 榊先生の事を『りょうちゃん』って呼んでただろ!? 俺は心臓が止まりそうだったんだぞ!」

木崎が叫ぶように言った。

「でもそのおかげで予算が増えたんだよね? 私達はりょうちゃんの命の恩人だからね。それで予算って幾らなの?」

ミントが訊いた。

「お前達には関係ない!」

「ふーん、じゃありょうちゃんに電話して訊いてみるよ。秘書の人と連絡先交換したんだよね。りょうちゃんに替わってもらうよ」

「ミント、それだけはやめてくれ! お前達はまだ分かってない!」

木崎が焦る。

「じゃあ幾らなの?」

「に、20憶だ。俺も驚いてる」

「20億! うひゃー!」

ミントが悲鳴に近い声を上げる。

「凄い! 凄すぎる! それだけあるなら新しいバイク買ってくださいよ! 今のやつボロボロなんですよ!」

米子が大きな声で言った。

「私もセミオートショットガンを買って欲しいよ。それとこの前の作戦で使った防弾軽ワゴン車も買ってよ。技術部にお試しで借りたんだけど凄く良かったんだよ。内部調達だから安くなるよね? 米子はバイクとGTRがあるじゃん、だから防弾軽ワゴンは私の愛車にするよ。あれがあればチームの機動力がアップするよ。それと20億もあれば美味しい物もいっぱい食べられるじゃん。米子、また『ふぐ』が食べられるよ。樹里亜ちゃんや瑠美緯ちゃんにも食べさてあげたいよ!」

ミントが言った。

「いいかも。ふぐ美味しかったよね~、私、ふぐの虜になったよ」


 「お前達、会社の金を何だと思ってるんだ? もっと広いオフィスに引っ越すとか、パソコンや複合機を新しくするとかそういう使い道があるだろ!」

「それにしても20憶って凄いよ。うちのメンバーの頭数で割ったら一人当たり2億8千5百万円だよ。サービス業の年間売上PH(パーヘッド)の平均は3千5百万円だからそれの9倍だよ。それを全部経費で使えるとしたら何でも買えるじゃん。ビックマネーだよ。プール付きのマンションに純白のベンツも夢じゃないよ。浜省のマネーの世界だよ!」

ミントがスマートフォンの電卓機能を使いながら言った。

「だから会社の金だ! それにお前達、浜省って世代じゃないだろ!」

「木崎さんも何か買えばいいじゃん。デート用の服とかさ。次のチャンスに備えるんだよ! お洒落な服でビシッと決めれば次は上手くいくよ」

「うーん、そうか、デート用の服か。また合コンがあるみたいなんだよな。って会社の金だぞ! 元は国民が納めた税金だ!」

「木崎さん相変わらずケチだね。米子、りょうちゃんの家に遊びに行こうよ。小田原だよね? きっとゴンちゃんの時みたいにお小遣いいっぱい貰えるよ」

「頼むからそういうの止めてくれ。心臓に悪すぎる。まったくお前達は日本最大の暴力団会長の権藤正造や戦後最大のフィクサーの榊先生と繋がってるって、いったいどんな女子高生なんだよ!!」

木崎が叫ぶように言った。

「ゴンちゃんもりょうちゃんも気前が良くて太っ腹なんだよね」

「その呼び方も止めろ! 俺を殺す気か! 心臓が持たん」

「まあ何にしても予算が増えてよかったじゃん。武器もいいけど、戦闘服とかブーツとかの装備品も最新にして欲しいよ。プロテクターやボディーアーマーなんて戦闘チームのお下がりじゃん」

ミントが言った。

「そういう使い方ならいいだろう。最新のタクティカルギアを購入しよう。業者を呼んで検討しよう」

「戦闘チームよりいいヤツを買おうよ。この前、演習で勝ったんだから遠慮することないよ」

ミントが言った。

「アメリカの特殊部隊が使ってるようなのがいいかもね。ヘルメットのバイザーに文字情報や画像が出るやつ。仲間の情報とデータリンクしたり周囲の地図や地形や味方の位置情報が出るやつ」

米子が言った。

「なるほどねー。たしかそんなのあったよね。映画で見たことがあるよ。カッコいいし戦闘力も上がるよね。もし買ったらグリーンベレーやネービーシールズと演習したいね」

「お前達、本当に女子高生なのか?」

木崎が呆れたように言った。

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