10 懸賞金がほしい!
冒険者協会から鑑定所までの道のりは、大通りをまっすぐ進み、途中の広場で曲がればいいだけなのでかなり楽だ。
協会に向かった時にはいくつか屋台が出ていたり店が並んでいたが、ぽつぽつと閉店しているのが見える。
夕飯にする前に軽く何かつまむだとか、仕事帰りに買い物をするとか、これからも客は来そうではあるが、今はそうも言えないのだろう。
盗賊騒ぎに乗じた悪事が増えているからだろうか。なんとなく、不安が伝染しているのを感じる。
人通りも協会に向かった時よりもかなり少ないが、数人が集まっているのが見えて、つい目で追ってしまう。
街灯、だろうか。明かりを覆うガラスが割られ、中身が破壊されてしまっているようだ。修理しているのかな。
ただでさえ夜中に歩くのは怖いのに、明かりもなければ外に出るのが億劫になりそう。直してくれて感謝だな。
広場を経由して鑑定所が見える場所まで行くと、すらりと目立つ金髪の男が立っているのがわかる。リックさんだ。僕は早歩きで彼のところへ向かった。
「おっ、来たな。暗くなるから、急いで帰るか? ちょっとぐらいならどこかに寄ってもいいが」
「あっ、なら買い物に。買ってほしいものがあって」
「俺払いかよ!? そうかあんた、何にも持ってないのか。ったく、しょうがねぇな」
「ありがとうございます! いつかどうにかしてお返しします!」
ありがたいことに、道具を恵んで……もとい、買ってもらえることになった。いやあ、何から何まで世話になってるな。
だが、これも懸賞金さえあれば返せる。僕の、盗賊捕獲作戦さえ成功すれば!
金貨100枚という懸賞金を聞いて、真っ先にひらめいた。何人も何人も賞金首を捕まえたら賞金稼ぎ。
なら、偶然、たまたま出会ってしまったら? 女神様といえど罰することはないだろう。ダメだったら賞金全部返さなきゃいけないかもだけど。
とにかく情報に欠けるうえに、憶測で考えている部分もあるので、すべてが成功するかはわからない。でも、元手を作るにはやるしかない。
リックさんに頭を下げ、買い物に向かう。大通りにはまだ空いている店舗がいくつかあったので、そのうちのひとつを案内してもらった。
店内はまさに雑貨店という名前が似合う。リックさんを含め、町の住民は皆利用しているらしい。
独特ながらも不快感のない匂い、豊富な商品棚、派手すぎない雰囲気。人気なのもなんとなくわかる。
「で、何が欲しいんだ? 銀貨1枚分ぐらいにしといてくれよ」
金銭感覚がわからないものの、その都度聞いてすり合わせていくことにしよう。
一番安物の指輪と、頑丈なロープ。いくつかの道具が入る肩掛けの袋。これぐらいは銀貨1枚で買えるらしい。
「あと、手に持てる照明が欲しいんですけど、ありますかね」
「ランタンならまあ……いいか。夜中に歩く時には必要だし。全部で銀貨1枚は超えるけど、サービスしてやろう」
会計に向かったリックさんを観察する。銀貨1枚に、数枚の……色からして銅貨だろうか。それで支払いを終えた。
ランタンは手に持ち、指輪は右手にはめ、ロープは肩掛けの袋にしまう。万全とは言えないだろうけど、現状のベストだろう。
「てっきり食料とか服を買うのかと思ってたけど、そんなんでいいのか?」
「ええ。とりあえずこれでなんとかします」
雑貨店を出ながら、リックさんにそう言った。なんとかします、という言葉が引っかかったようで、彼の眉が少し動く。
「……おいまさか、盗賊でも捕まえようって気か?」
「バレましたか。流石にお金が全くないのはどうしようもないので、一攫千金を狙おうかなと」
「はあ、よくやるよ。あんたが怪我したって責任は取らんからな」
できない、とは言わないことに、少し安心した。強いスキルが全てという世界ではないのかもしれない。けど、僕のスキルには目標を成し遂げる力があると、彼も考えてくれているのだろう。
それからは、住宅地にあるリックさんの家へと歩いていった。体感だからあてにはできないが、15分ぐらいは歩いたかな。
その間は人が少ないことを感じながら、街灯について質問をした。なんとも、最近よく壊されているらしい。騎士団も犯人を捜しているとのこと。
案外物騒な町だな、なんて考えてつつ、様子を変える町並みを観察する。石造りの建物から木造が増えてきたか、と思ってから少しして、リックさんの家が見えてきた。少し大きめの木造小屋……つまり一軒家!? 僕とそう年齢が変わらなさそうなのに!?
「えっ、これがリックさんの家なんですか」
「鑑定士のわりに小さい家だなってか? まあ、確かに俺もそこそこ儲けてはいるが」
「いや逆です。すごく立派な家で驚いてます」
「まじかよ。もっといい家に引っ越そうかと思ってたが、やめとこうかな」
僕はなぜ家を持っていることに驚いたんだ? 僕の前世の記憶になにかがあるんだろう。若いうちから一軒家に住む、ということを驚く何かが。
普通の家と違った、一般的な選択肢があったのかな?
ならなおさら、聞いておかないといけないことがある。
「こういう家に住むのって、一体いくらぐらいしますかね」
「だいたい年間で金貨15枚くらいか? この大きさにしちゃ高いかもな」
なるほど。いや、金銭感覚が理解できたわけじゃないけど、自分が家を持つのはあまり現実的じゃないなと改めて思った。
「まっ、入ってくれ。勝手に物に触るなよ」
お邪魔します、といいつつ家の中へ。そこそこの広さだが、僕の感じる人が暮らす部屋とはだいぶ違うようで、真っ先に抱いたのは違和感だった。あると思っていた家具がない。ないと思っていた家具がある。失いつつある記憶でも、無意識にそう考えているのだろうか。
大部屋の端にそれぞれ台所やベッド、タンスなどの収納が置かれた家。特に収納の多さが目立つような。たしかに、自分で道具を鑑定できると、色々道具を集めたくなる気持ちもわかる。
勝手に触るなと言われたものの、見知らぬ道具に触れるほど好奇心旺盛ではない。それに、結構綺麗に片付いているから、触るのはかなり躊躇われる。彼、案外几帳面な性格なのかも。僕たちは靴を脱いで、部屋にあがった。
「ひとまず飯にするか。簡単なのしか出せんが、文句は言うなよ」
「いえいえそんな。ありがたくいただきます」
肉は無い! とすぐに前置きされた。僕は一体どんな顔をしていたんだよ。……手伝った方がいいかな。とりあえず声はかけてみるか。
「……記憶がなくなってるのに料理はできるのか? 確かにやったら何か思い出すかもしれんな。じゃあ皮むきを頼む」
「手を洗うにはどうすれば? 蛇口ってあります?」
「蛇口? なんだそれ。あ、でもチヨリがびっくりするもんはあるぞ」
じゃん、と見せられたのは壁からこちらに向け吊るされた木の棒。僕の胸の位置ぐらいにあるけど、これが一体?
「これに触って、唱えれば、先から水が出てくる。まあ、分かりやすく言うと杖だな。高かったぞー、これは」
水を頼む、とリックさんが言うと、じょろじょろと綺麗な水が出てきた。こんなの見たことないぞ、と興奮しながら、思わず声が漏れる。
「おおお! 出てきた!」
「水魔法の一番弱いのが付与されてるんだ。勢いは全然ないけど、井戸を往復しなくていいのはだいぶ便利だな」
下に置かれた桶に溜まった水は結局外に捨てないといけないみたいだけど、それでも便利なことに違いはない。今日はこれでスープを作り、残っていたパンと一緒にいただくようだ。今更何も食べてないのを思い出し、ますます期待感が高まるのだった。
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