1章 シエルに新たな風が吹く
その手は影をも掴み取って
3 到着!シエルの町
そこは町を覆う外壁も見当たらず、大きな門も無かった。ファンタジーな世界なんだから、と考えていたが、町の規模はそれほど大きくないのかも。
町に入る境界線はすぐにわかった。道がある一定の場所から石畳になっていたためだ。
通行人は少なかったものの、そこを通る際、軽装の鎧を着た人から怪訝な目で見られたのは言うまでもない。鎧を着てるんだ、なんて思いながら、じろじろ見ないようにしないと。
町を守っているであろう人からしても、僕はセーフという扱いなわけだ。怪しいんだろうけど、止められないギリギリのラインなのだろう。セラさんに迷惑をかけなくてよかった。
「まだ昼過ぎですし、色々回る時間はありそうですが、やっぱりスキル鑑定が一番ですよね! チヨリさんはどうされますか?」
「じゃあ、僕もそこに行こうかな。あっ、鑑定ってお金かかります? それじゃだめか」
「18歳になったらみんな受けるので、どの町でも無料で受けられるんですよ。……まさかチヨリさん、お金を持ってないなんてことは……」
「そのまさかです。無一文ってやつです」
今度は呆れ果てた顔がこちらに向く。セラさんは表情が豊かだなぁ。
しかし、彼女は気づいたんだろう。何も持たずに森の中にいた異常さ。服は汚れておらず、身体も不潔には見えない人間がなぜ森の中から?
疑問の答えはもちろん、わからない、のみ。
事前に地図を持っていたセラさんは、寄り道をせずにシエル鑑定所という場所まで案内してくれるようだ。町の入り口に人は少なかったが、中心部にある鑑定所に近づくにつれ、確かな活気を感じてきた。
見た目は石造りの建物に、時折出ている露店。歩道に沿ったお店からは、ちらりと剣が売っているのが見える。見るもの全て、ものすごくファンタジーな町並み。
だが、僕はこの感覚を知っている。大型ショッピングモールに頼らずとも、道路沿いにある程度の施設が揃っているタイプの田舎ってこんな感じ。だから小さくとも鑑定所があるんだろう。
匂いも様々なものが漂ってくる。一番乗りで揚げ物の音と匂いが僕に届いた。けれど、不思議とまだお腹は空いていないんだよな。
セラさんも同じく空いていないようで、ずんずんと鑑定所めがけて歩き続けている。地図によると……あっ、見えてきた。他の建物より一際大きくなっている気がする。それほど人が集まる時があるんだろう。
駆け足になったセラさんを追いかけ、ドアを開けた彼女と共に中へ入った。
目の前にはいくつかの窓口を設けた受付があり、奥に部屋が続いている。2階もありそうだ。
幸い他に鑑定をする人は誰もいない。待ち時間なく受けられそうだ。
ざっと部屋を確認した後、念の為料金を確認できないか、立て札あたりを探してみる。あった! ……と思ったら。
文字が読めなかった。ポケットの中に入っていた紙に書いてある字と、似た雰囲気を覚える。
これでひとつわかった。僕は言葉は喋れても、文字は読めないんだろう。
「チヨリさん、さあ、受付に行きましょう」
そう言ってセラさんは先に行ってしまった。よほど自分のスキルがわかることが楽しみなんだろう。
僕も見てもらおうと思い、隣の窓口に向かおうとする。その時だった。たまたま奥の部屋から出てきた男性と目が合ったのである。
金髪のイケてる男子、という評価が似合いそうな人だった。年齢は僕と同じくらいか。新人さんかも。
彼は僕を一目見た後、ずんずんとこちらに向かってくる。身長は僕より少し高く、ちょっと圧を感じる。良さそうなカバンを持ってるのも原因か。
まさか僕に用事が? 何をやらかしたかと不安が溢れてくる。
「そこのあなた、これからスキル鑑定ですか?」
「あ、はい。そのつもりです」
「あなたの鑑定は私が請け負います。さあ、こちらへ」
受付の人に二言ほど残して、金髪の男性は僕を奥の部屋へと連れていった。廊下を抜けると、小さな個室へ案内される。面接でも始まりそうな雰囲気だ。
「どうぞ、お座りください」
部屋の真ん中に置かれたテーブルを挟むように、質素な丸椅子が2つ置かれている。気になってきょろきょろ見渡してみるが、なんとなく空気感が違うことしか分からなかった。
「お察しの通り、この部屋はスキル”防音“の効果が付与されています。つまり、あなたのスキルに関する情報が他に漏れることはございません」
もちろん、あなたのスキルは守秘義務によって守られますので。彼はそう続けた。
「スキルの情報というものは、基本的に開示して就職など生活に役立てられます。ですが、その判断をされるかはお客様次第。何らかの理由で明かしたくない方もいらっしゃいますからね」
まあ、そういう場合もあるか。とにかく、スキルというものが人生を左右する重要なものだとよくわかる。要するに、自分の道がどうなるかは運次第なんだろう。
最も、スキルで怪力を得た人が学者になってもいいし、その逆のようなことがあっても僕は気にしない。
だが、スキル持ちという明らかに格上の人間と常に比べられる、厳しい人生が待っている。こんな認識で合っているだろうか。
「鑑定に入る前に、何かご質問はございますか?」
おっ、親切だなこの人。ここぞとばかりに質問させてもらおう。
「じゃあ、スキルの基礎知識を、できるだけ優しく教えてほしいです。子供でもわかるぐらいに」
「基礎知識……ですか。かしこまりました」
一瞬、彼の眉間が歪むのを見逃さなかった。あながち、試されているとでも思っているのだろう。変なことを聞いてくる奴だな、とか。あ、変な服だなこいつ、とかかも。
「そもそもスキルというものがどういうものかはご存知でしょうか?」
「女神様から受け取った才能や能力のことだと聞きましたね」
「ええ、その認識で間違いありません」
ここまでは知っている話。ここから新しいことは聞けるだろうか。
「スキルには大きく分けて4つのランクがあります。下からコモン、レア、スーパーレア、そしてそれ以上」
「エピックとかレジェンドじゃないんですねぇ」
「えっ? ええ。皆こう呼び分けていますから」
しまった、また悪い癖というか、よくわからない話を勢いでしてしまった。多分、僕の前の記憶が関係しているんだろう。
そして、僕からすれば結構衝撃的な事実が発覚している。天から与えられた才能に、格差があるということ。こりゃあ、コモンだったら落ち込むし、スーパーレアだったら調子に乗るぞ。
自分の進路や選択肢は女神様によって決められる。僕がいた日本もそう変わらなかったのかもしれないが、いささか寂しい気持ちになるな。やりたいことは、自分で決めてこそだと思っていたから。
「6割くらいの人間がコモンスキルなんですから、結果が悪くても気にかける必要はございません。人生経験を積めば、スキルも成長してランクが上がることもあります」
ほうほう、と頷きながら説明を聞く。うん、薄々感じていたが。
胡散臭いな! この人! ものすごく失礼だが、僕の直感がそう告げている。完全に印象だけの話だ。口が裂けても言えない。
金髪で丁寧な物腰だが、どこか隠しごとをしている雰囲気。じゃらじゃらしたリストバンドやネックレスをしてない分ましだが、どこか嘘をついているように思える。
この考えが顔に出ないように気を付けつつ、自分のスキルが気になった僕は、質問を切り上げ本題に臨もうとした。
「色々答えてくれて、ありがとうございます。じゃあ、鑑定の方を」
そういった僕を見て、彼の口元はにやりと動いた。疑問に思うよりも早く、彼は口を開く。
「それは無理だな。あんたのスキル、強すぎるから」
「……は?」
反射的に声が出てしまう。僕のスキルがどうこうより、突然態度を変えた豹変っぷりの方に驚いてしまうのだった。
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