第28話:宇宙レストランでダブルデート(後編)

 料理が運ばれてきて、四人の会話はますます弾んだ。

 ルナは宇宙食のパイを一口食べると、目を丸くしてユウキに感想を伝えた。


「ユウキ!これ、本当に美味しい!なんだか、月のお母さんの料理を思い出すなぁ…」


 ルナの言葉に、ユウキは優しく微笑んだ。


「そうなんだね!ルナの故郷の味なんだね!」


 その時だった。






 キィィィィィィィィィィィン…!





 甲高い電子音が、レストラン中に響き渡った。


 同時に、煌々こうこうと輝いていた室内の照明が一斉に消え、窓の外の星明かりだけが、微かに室内を照らしている。


「な、なに…!?」


 ルナが怯えたようにカイの腕にしがみついた。レストラン内の客が、ざわつき始める。


「お客様、ご安心ください。一時的な電力システムの切り替えです。まもなく復旧しますので、そのままお席でお待ちください」


 レストランのスタッフが、落ち着いた声でアナウンスする。

 だが、その声は、客の動揺を抑えきれていないようだった。


 ユウキも、突然の出来事に心臓が早鐘を打つのを感じた。


 恐怖症が、再び彼女の心を蝕もうとしている。


 その時、アキは、静かに立ち上がった。


「ユウキ、カイ、ルナ。少し、外に出てくる」


 アキは、そう言って、スタッフに声をかけ、レストランの裏口へと向かおうとする。


「アキくん!どこに行くの!?」


 ユウキは、アキの腕を掴んだ。


「…俺の、専門だ。まさか、こんな場所でトラブルが発生するとはな」


 アキは、ユウキにそう言って、優しくその手を解いた。アキの横顔は、いつもの不器用な青年ではなく、冷静沈着なプロの運行管理者に戻っていた。


「おい、高遠!俺も行く!」


 カイが、アキの後を追うように立ち上がった。


「…カイ、お前はここにいろ。お前がここを離れると、ルナがまたパニックになる」


 アキは、カイにそう言って、ルナをチラリと見た。


 ルナは、不安そうな表情で、アキとカイを見つめている。カイは、アキの言葉に、一瞬だけ躊躇ためらったが、ルナの顔を見て、静かに頷いた。





 アキは、そのまま裏口へと消えていった。



 ユウキは、アキの背中を見送りながら、彼が今、一人で重い責任を背負い、戦っていることを感じた。自分の恐怖心と向き合い、アキの仕事に触れたユウキは、彼がどれだけ孤独な戦いを続けているか、痛いほど理解していた。


「…大丈夫。アキくんは、絶対に大丈夫だから」


 ユウキは、ルナとカイにそう言って、自分の恐怖心を抑え込んだ。


「でも、ユウキ、さっき、すごく怖そうだったじゃない…?」


 ルナが、ユウキの顔を覗き込む。


「大丈夫だよ。だって、アキくんが言ってたでしょ?『俺が守っているのは、空の安全だけじゃない。地上にいる、みんなの日常も、守っているんだ』って。今、アキくんは、私たちのために、戦ってくれてるんだから」


 ユウキの言葉に、ルナは、静かに頷いた。


 その言葉通り、数分後、レストランの照明が再び点灯した。


「皆様、大変お待たせいたしました!電力システムの切り替えが完了いたしました!」


 スタッフがそうアナウンスすると、レストラン内は、安堵の空気に包まれた。


 アキが、疲れた顔で席に戻ってくる。


「…ごめん、大丈夫だったか?」


 アキは、そう言って、ユウキに優しく微笑んだ。


「うん!アキくんのおかげで、全然怖くなかったよ!」


 ユウキは、アキの言葉に、満面の笑顔で応えた。


 その夜、アキは、ユウキを自宅まで送り届けた。


「…ごめん、せっかくのダブルデートだったのに」


 アキは、申し訳なさそうに言った。


「ううん。私、今日、アキくんが、どれだけすごい人か、改めて知ることができたよ。私の英雄様だもん」


 ユウキがそう言うと、アキは、ユウキの頭を優しく撫でた。


「…ありがとう、ユウキ。お前がいてくれて、本当に良かった」


 アキの言葉に、ユウキは、胸の奥が温かくなるのを感じた。


「…私、アキくんの、その仕事、これからもずっと応援してるからね」


 ユウキの言葉に、アキは、静かに頷いた。





 その夜、二人は、いつもよりも深く、お互いの存在を感じていた。

 仕事とプライベート。二つの世界が交錯し、二人の絆は、さらに強く結びついたのだった。

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