act1.男でも魔法少女になれるか→A.なれます

「ここはどこ? 私は誰? あなたはだあれ?」


「……」


「どうしてここはこんなにゴミが沢山あるの? どうして私はここにいるの? ねえねえ、どうしてあなたは何も話さないの?」


「……」


 ペラペラペラペラ。

 女は俺に向かって途切れることなく言葉を投げ続けた。


 エリア7.スクラップマウンテンレンジ。

 無数のゴミ山の内の一つ、その頂上で俺はこの女と出会った。


「どうしてそんなボロボロの服を着ているの? どうしてそんなに汚れているの? どうやってこのカプセルを開けたの? どうしてあなたは黙っているの? どうして? どうして?」


「おい」


「なあに?」


「黙れ」


「ひどっ!」


 ピンク髪の女はたちまち涙目になった。


 しまった。

 本当は「静かにしてくれ」と言うつもりだったのに。

 言葉が上手く出てこなくて、つい。


「なんでそんなこと言うの! 人にそんなこと言っちゃいけないんだよ! そういうことを言ったら人は傷つくんだよ! 私、泣いちゃうよ!」


「……」


 これ以上口を開けば2倍3倍になって返って来るだけだ。

 俺の拙いコミュニケーション能力では、状況を悪化させることが目に見えている。


 沈黙は金。


 そう決めて俺はゴミ山を下り始めた。

 が、なぜか女は付いてきた。


「ねえねえ、どこ行くの? お家に帰るの? 私も帰りたいけど帰る場所がないんだ。というよりも帰る場所が分かんないの。ねえねえ、私はどうしたらいいと思う?」


 うるさい。やかましい。うっとうしい。


 グッと顔を寄せ肩が触れそうなほど密着してくる。

 視線も逃がさず、まっすぐにこちらを射抜いてくる。


 なぜだ。

 俺が無視し続けているというのに、なぜこの女はこんなにも話しかけてくるのか。


「だって他にお話しする人がいないでしょう。私、誰かとお話ししてないと不安になっちゃうの。良かったら話し相手になってくれない?」


 ……?

 俺は何も話していないはずだが、なぜこの女は返答をした?


「それに私って記憶がないからさぁ、何をしたらいいかも分からなくってぇ」


 ……たまたまか? 偶然の言い回しか?

 いや、どうでもいい。


 俺は金欠だ。今日中にこのゴミ山で換金できるものを見つけなければならない。

 自分の飯すらままならないのに、こんなのに付き合ってやる時間も暇もない。


「私の服を売ればお金になるかもよ」


「⁉」


 ――こいつ、俺の心が読めるのか?


「完全には分からないよ。ぼんやりとだけ。でも私の身ぐるみをはがないのは、私がかわいそうだからなんでしょう? 優しいね」


「……お前、何者だ?」


 すると女はパッと太陽のような笑顔を咲かせて、こう言った。


「やっと話してくれた! 私はね、なんだ!」


 ……は?


 よく分からん女はよく分からんことを口走った。

 魔法少女?


「私は記憶は無いけど、これだけは覚えてるんだ。ねえ、魔法少女ってなあに?」


 知らん。こっちが聞きたい。

 この可笑しな電波女、こちらの想像以上に厄介な代物かもしれない。


「ねえ」


「……」


「こっちに来る」


 女が言った瞬間。

 ゴミ山の頂上に空から巨大な物質が落ちてきた。


 轟音と衝撃がゴミ山に響く。

 頂上のスクラップ群を蹴落とし、黒光りする機体が着地した。

 分厚い装甲に二本の触角アンテナ。

 ここら一帯で嫌というほど見かける 、不快な虫を思わせる操縦式自律ユニット。


「ようトラッシュ! いいもん持ってんじゃねえかァ!」


 その機体が不快で耳障りな音を響かせ、尋常ならざる速度で接近してきた。

 太い腕が伸び、ピンク女をわしづかみにする。

 そして虫特有の奇怪な挙動で、瞬く間にさらっていった。


「あーーれーー! たすけてーーー!」


 そして間抜けな叫び声が、ゴミ山全体に響き渡った。


「ぐへへへへ。この顔にこの服、どうやら地元の女じゃねえな。こりゃ言い値で売れるぜぇ」


 コックピットのハッチが開き、中から現れたのはゴキブタだった。

 太った顔にニチャニチャとした不敵な笑みを浮かべている。


 奴が目をつけているのは、女の顔立ち。

 いやらしい意味ではないではなく、服ごと奴隷商に売れば大金になるから。


 つまり、奴はあのピンクの女を商品として売るつもりなのだ。


「……」


「あん? なんだよその目、やるのか?」


 俺があの女を守ってやる理由など何一つない。

 ないはずのに、胸の奥ではいら立ちが募っていた。


 ダメだ、ここで出て行ったら力のない俺は一瞬で蒸発させられる。


「……」


「相変わらず愛想のねえやつ。こいつは貰っていくぜぇ」


 口角を引きつらせいやらしくわらう、下卑げひた顔つき。

 いつもそうだ。


 いつだって力のない者は、力のある者に奪われる。

 弱者はただ黙ってそれを受け入れるしか、生き残ることができない。


「トラッシュ……」


 女が呟く。

 このまま連れていかれれば、人間以下の家畜のような扱いを受けるだろう。

 だが、俺には関係ないことだ。

 俺には何も……。


「ねえねえ、ゴキブタさんはなんで頭に触角が生えているの?」


「ああ⁉ てめぇ、誰に向かって口をきいてやがる⁉」


 唾を飛ばしながら、ゴキブタが絶叫する。

 ゴキブタは俺が心の中で付けたあだ名で、実際の名は別にある。


「え、あなたがつけた名前だったの? ねえねえ、それってどういう意味?」


 ……また余計なことを。

 次の瞬間、怒り狂ったゴキブタがピンク女に銃口を突きつけた。


「この女ァ! コケにしやがって!」


 銃口に赤い光が凝縮されていく。

 引き金を引かれれば、女は一瞬で消し炭になる。

 その時だった。


「待て」


 俺の口が、勝手に開いていた。


「ああん?」


「……その女を、返せ」


 バカか。

 俺は馬鹿か? 死ぬのか? 頭にウジでも沸いたか?

 頭ではそう思いながらも、俺の目は奴をにらみつけていた。

 反抗の光を宿したまま、強く。


「トラッシュのくせに生意気言ってんじゃねえ! 死にてえのかぁ!」


「もう、うんざりだ。この、ゴキブタが」


 口から勝手に言葉がこぼれた。

 奴の顔が怒りで真っ赤に染まり、銃口がこちらに向く。


「そんなに死にたいんなら、死ねやあアアアアアアアアアアア!」


 レーザーが放たれ、赤い光が俺を包む。

 それでも俺は奴を。

 この腐った世界を睨み続けた。


 刹那、目の前でレーザーが弾かれる。

 そこに現れたのは、カプセルから飛び出してきた薄赤色の背面の端末。


「フラグメントモバイル……」


 女がつぶやく。

 その謎の端末はレーザーを防ぎきった後、自然と俺の手に納まった。


「なんだァ、そのアイテムは!」


 それは俺が聞きたい。

 手の中の端末は、その画面に九つの白い光点が浮かび上がっていた。


「トラッシュ! 諦めないで!」


 ピンク髪の女が叫んだ。

 その声はまるで天まで響く鐘のように、頭に直接叩き込まれた。


「諦めない心が、あなたの魔法になる!」


 魔法。

 それはこの世界を動かす絶対の力、避けられぬ理。


「ガハハハハハ! お嬢ちゃん、そいつは無理な相談だ。トラッシュは魔法を使えねえんだよォ!」


 ゴキブタの嘲笑が耳を打つ。

 奴の言う通り、俺は魔法を使えない。

 だから俺には、何も……。


「大丈夫! !」


「は?」


「は?」


 俺とゴキブタは、思わず同時に聞き返してしまった。

 何言ってんだコイツ。


「おいおい魔法少女って、そいつ男だぞ?」


「男とか女とか関係ない! トラッシュ、『チェンジ・フラグメント』って叫んで!」


 ――いや、なんだよその恥ずかしい合言葉。


「変身魔法! 音声認証なの! 早くして!」


「……チェンジフラグメント」


 ぼそっと。

 やけくそのように早口で言った。


 瞬間、画面の点が「4」の軌跡を描き、足元に魔法陣がほとばしる。

 まばゆい光の紋様が一気に展開し、ゴミ山の頂上を照らし出す。


 上空から轟音。

 まるで落雷のように機械のパーツが次々と転送され、俺の周囲を旋回する。

 その分厚い装甲のような鎧が、勢いよく俺の体へと突っ込んでくる。


 背骨に響く衝撃とともに、分厚い装甲が体へと強引に装着されていく。

 薄赤色の装甲に漆黒の駆動フレーム。

 胸のコアが脈動し、背の推進ユニットが淡く光を散らす。


 その姿は魔法少女と呼ぶにはあまりにも無骨な、機械装甲ロボットであった。

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