ダンジョン

ヴーヴー、ヴーヴー


スマホに電話がかかってきた。

相手の名前は「鳴宮光なるみや ひかる

小学校に入る時からの幼馴染で俺の1番仲のいい友人だ。


「もしもし」


『あぁ、良かった繋がった。お前こっちにいるんだな』


こっち、というのがどこなのかが嫌でも伝わるワードになってしまったことはともかく


「なんとか生きてるよ。母はちょっと体調悪そうだけどな」


『多分それみんな経験してるぜ。若い人はあまり影響受けないらしいが…』


そうだったのか、ニュースでは体調不良者続出って出てたけど若い人はあんまり深刻な影響を受けないらしい


『それでさ、お父さんが報道関係の仕事してる友達がいるんだけどその人から聞いた話でさ』


なんだろう、正直信憑性の高い情報は今いくらでも欲しい。


『自衛隊の部隊が戻ったって、虹色の石みたいなのを持ってたらしいよ。ちょっと隠してたみたいだけど』


なんだそれ!?


『俺は多分ファンタジー小説とかによくある魔石だと思ってる!多分これからエネルギー開発とかが行われると思うぜ。インフラが落ちる2週間で形になるかは分からないけどさ!エネルギー問題は時間が解決するだろうってのがその人と俺の見立てだよ。』


「まじか……」


だけど、これは非常に大きい情報だ。


『それでいま、あの白い転移の影響で仕事が無くなった人とか、食い扶持がない人を集めてその石を集める団体を組織しようとしているらしい。』


あぁなるほどね。確かに外への移動手段どころか、目的地すら失ってしまった以上、物流業界とかは輸出入なんて出来たものじゃないし、医療業界もストックが尽きれば医療崩壊は待ったなし。エンタメ業界もそうだ。こんな世の中でエンターテインメントできるかっつー話だわ。

事態は俺が思っているよりも遥かに深刻だった。


『開発はきっと成功する!今この状況がまさにファンタジーしてるんだぜ?きっとどうにかなるって思ってた方が意外とメンタル持つからな』


そう話す光の声は穏やかだった。


「なぁ、そっちは食料とか大丈夫か?俺あの後すぐにドラッグストア行ってインスタント食品とか買い溜めしたから、分ける前提だったらあんまり量はないけど少しなら届けられるぜ」


『おいマジかよ良いのか!?うちは弟と母と3人いるからさ、結構困ってたんだよ!』


「まかせろ、明日の朝にそっち向かうわ」


『りょうかい〜さんきゅーな!』



そうして電話を切ると光が話してくれた情報を元に整理する。


「ガスも電気も魔石で解決、水も海がある。外とは遮断されててもネットは生きてる。──つまり最大の問題は食料だ」



幸いにも母さんと2人なら2ヶ月は暮らせるだけのストックが今はある。

これを持って自衛隊の駐屯地でも回ってみるか?

いや、向こうはきっと口が堅いしそれだけじゃ恩は売れないか…

でもこの食糧、絶対トレードで使えるはずなんだよなぁ、、、


ひとまず光にその件を報告するか。


「この食料はきっと切り札になる。……光と一緒なら、使い道を見つけられるはずだ」




◆◇◆◇◆◇◆




翌朝、光の家に向かうため自転車を押して家を出た。

通い慣れたはずの道は、見慣れない静けさに包まれている。

閉ざされたシャッターには「臨時休業」の張り紙が並び、開いている店には長蛇の列。

列に並ぶ人々は、

「昨日の配給はもう無くなってしまった」

「今日こそ買えなきゃ終わりだ…」


と不安げに囁き合っていた。

道端では買い込んだカップ麺を缶詰と交換する者もいる。


耳を澄ませば、あちこちで扉の噂が飛び交っていた。

「あの中には金銀財宝があるらしい」

「いや、昨日入った自衛隊は誰も帰ってないって聞いたぞ」

「扉に吸い込まれたら最後、出られないんだって…」


不安と希望が入り混じったざわめきが街を覆い、人々の視線には疑心が濃く宿っていた。

昨日までの東京はもう戻ってこない。

俺はバッグに詰め込んだ食料の重みを確かめ、ペダルを踏み込んだ。


光の家に着くと、窓から漏れる灯りがやけに安心感を与えてくれた。

呼び鈴を押すとすぐにドアが開き、鳴宮光が顔を出す。


「おう、相馬!」

「よっ、光。ほら、約束の食料」


肩から下ろしたバッグを差し出すと、光の目がぱっと輝いた。

後ろから小さな足音が駆け寄ってきて、まだ幼い弟が顔をのぞかせる。


「あー!そーまくんだー!」

無邪気な声で駆け寄ってきてくれる光の弟…かけるくんの姿に癒される。

確かもうすぐ5歳だったはずだ

「翔くん、ひさしぶりだね」


弟の手を引いて出てきた光の母は、少し疲れた顔をしていたが、それでも笑みを浮かべていた。

「相馬くん、ありがとう。本当に助かるわ」


街に漂っていた疑心の空気が、まるでここだけ別の世界みたいに和らいでいた。


「相馬、俺の部屋こいよ!ちょっと話そうぜ!」


「あぁ、そうだな」


光の母にお邪魔します、と挨拶を済ませてから2階に向かう。


「相変わらず広い家だな」

と、茶化しながら言うと


「まぁな、だけどこんな状況じゃそんな意味ねぇんだよな」


確かにその通りだ。


「父親と連絡が取れないのは、お互い様か…」


光の家は都内に二階建ての一軒家が建てられるくらいには金持ちだ。だが光の父は海外勤務で年に1回帰ってこれるかどうかといったところで一緒に「「こっち側」」に来ることは叶わなかった。


「……と、こんな感じだな」


「なるほどな、大体一緒だわ」


現状のすり合わせやここに来る途中で見た街の様子などを伝えた後、これからどうするか。という話に移行する。


「そんであの扉の中の新しい情報はあるのか?」


「あぁ、そう言われると思って少し調べて見たんだ!」


「それで?」


「分かったことは──何もない」


「は!?なんも??」


「うん、ゼロ」


「光、お前俺をバカにしてるわけじゃあ……なさそうだな。となると……」


「うん、せーので言うかい?」


「あぁ」


せーの、と1呼吸おいて声が重なる。


「「扉の情報は意図的に隠されている」」


すると光はニコッと笑ってから


「そういうところ、さすが相馬だよ」


「馬鹿言え、ヒント与えすぎだっつーの」


ふぅん、、、なるほどね


光があれだけ調べて出てこなかったってことは、そういう事なんだろう。


「そもそもさ、なんでネットだけ繋がるのか意味わからなかったから考えてみることにしたんだよね。そしたら思いついちゃって、ここに『僕たちを連れてきた何者か』が発信できる情報を制限しているんじゃない?」って



あー、そっちか、つまり政府が意図してやっている事ではなく、別の勢力?が存在する。と、



「まぁ勘だけどねー!」


光は続けて言う。


「でも扉の情報だけ徹底的に隠しているってことは、思いつく限り2つしかなくて、1つは政府が情報の統制をしている。もう1つは、その『何者か』は政府の発表を待ってから情報を流すつもり…とかどう?」



ピロン


【速報】東京都庁「扉の中は“ダンジョン”」──世界を揺るがす初公表


背筋の辺りがぞわりとした。──当たってやがる。

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