白き空の向こうへ〜たったひとつの東京ダンジョン〜
和田 蘭(Wada Ran)
転換の日
中学最後の秋の日の正午、突然、空が真っ白に塗りつぶされた。
まるで液晶タブレットをホワイトペンで一気に塗り潰したかのように、ただの「白」だけが世界を覆った。
俺はそれをぼんやりとみていたら
ズンッッッ
となにやら気味が悪い感触が身体を通り過ぎた。
(なんだこれ?すっげぇ気持ちわりぃ)
不快感を催しつつリビングにいる母の様子を見に行こうとして自分の部屋を出る
「母さん〜?なんか外すっげぇ白いんだけど大丈夫?」
と、言いながらリビングへ繋がるドアを開けると
「そう…ま…」
母が倒れていた
「ちょ!?母さん!?!?」
俺は慌ててタオルを濡らして母に駆け寄る
「熱は……なさそう…だけどすっごく顔が白い……」
今朝まで元気だった母が嘘のように真っ白な顔で気持ちが悪そうにしていた。
ピコン
ポケットの中からスマホの通知が鳴った
【速報】都外との連絡が途絶。神奈川・埼玉・千葉で確認不能
ん?なんだこのタイトル……
その釣り記事は流石に無いだろ
なんて思いながら、でも少し不安でタップしてみる
………
はぁ!?!?
【本日12時頃、東京都と神奈川県、埼玉県、千葉県の県境になっているはずの陸地から三県の行方が消滅し、原因は不明。】
少し遅れて
【山梨県も消滅していることが判明】
…………
多分だけどこれ逆では…?
俺は逆に“東京だけ”がどこかに飛ばされたものだと予想する。
ピコン
【東京都以外の46道府県と連絡取れず】
ほらね?じゃなくて………マジ意味わかんねぇ…
どうなってんだよ………
あれから1時間くらい経った。
母はだいぶ良くなってもう会話もしっかりできるようになった。
俺がさっきスマホで見た記事のことは今は話せそうにないんだけど、きっと後々知ることになるだろうし……と思い、
「母さん、テレビ付けてもいい?」
と、情報収集に乗り出した
母は少し具合悪そうにしながらも
「ええ、大丈夫よ」
と言ってくれた。
そしてテレビを付けるとそこには
『速報です!ここは東京都と神奈川県の県境になっている多摩川です。ご覧下さい。本来であればここから神奈川県の陸地が見えるはずなのですが見渡す限りの海です。いったいこれはどういう事なのでしょうか?更にですね、東京と神奈川を繋ぐ電車の線路が、途中で綺麗に切断されています。』
『東京都以外の道府県が行方不明になった。と言うよりも東京都だけがどこかに飛ばされてしまった。と考える方が自然なのではないでしょうか』
『我々は現在流通やインフラの面で非常に困難な状況に直面しています。専門家は電気、ガスは持って2週間との見解を述べています。』
あれ、これ、ひょっとしなくてもヤバいやつ???
「ちょ、母さん!今うちに現金ってどれくらいある!?」
「えっとちょっと待ってね……確か……はい、これで全部のはずだけど……どうするつもり??」
「俺もよく分からないけど今テレビ見た通り外がヤバい。多分食料も取り合いになる。そして母さんみたいに気分が悪い人が続出してるはず。だから今のうちに食料を現金で買いに行く。インスタント食品多めに、あとはトイレットペーパーとかの必需品も含めて色々買い漁ってくるからちょっと行ってくる。」
我ながらなんたる行動力。でも今動かないと多分出遅れてしまう。
こういう状況は間違っててもいいから即決即断ができない人間から困る羽目になるんだ。
と、誰に聞かれるでもなく自身を鼓舞するために言い聞かせながら自転車に乗り全力でペダルを回す。
なんとか最寄りのドラッグストアに到着し、カートを3台もひっぱりながら、持てるだけの生活用品を買い漁っていく。
レジには誰も立っていないことを確認し、そしてカートに入れたそれらを全てセルフレジに通してお金を払う。
(セルフレジが現金対応で助かった……!)
世紀末みたいな状況でも、カメラは生きてるから盗みなんかして人生終わらせたくない。俺は清廉潔白でいたい。
自転車カゴには大きめの荷物を、持ってきた特大サイズのバッグには食料品をつめて、それでも荷物は持ちきれなくて結局サドルやハンドルに買い物袋をひっかけながら自転車を押して家に戻る。
一先ず今の自分に出来ることはしたけど、まだ情報を集めないといけない。
「ただいま、いろいろ買ってきたよ」
「あら相馬、おかえりなさい」
家に帰ると母の容態はかなり良くなっていた。
そしてまた2人でテレビを見ながら、片手にスマホを持って検索する。
ネットは通じてるんだな……
と思っていると、
外部との連絡は一切取れないが、断線しているはずなのに東京都内でのみインターネットの使用ができる。
SNSなどのアカウントは東京都内にいる人たちのものしか新しい投稿は見れないようだ。
謎すぎる状況に混乱していると、
『速報です!たったいま、お台場に近くの東京湾に非常に大きな扉のようなものが確認されました。この距離で見ても大きいことがひと目で分かります』
『なお、都内に駐屯している陸上自衛隊が部隊を編成して扉の中に向かうと発表しています。』
なるほどな、少し読めてきた。
きっとあの扉の中にこうなった原因が隠されているんだろう。
となると、俺もそこに向かうのが正解なのか慎重に判断する必要がある……
そもそも一般人にその扉って解放されるのか??
突入禁止が出る前にさっさと向かったほうがいいのでは……?
頭の中が扉に支配される中、思い出す。
そうだ、今日は親父が大阪出張の日だった。
大阪……連絡が取れない!!!!!!
やばい、やばい、どうしよう、!!
いや……落ち着け、落ち着くんだ相馬、ここで慌てたってしょうがないじゃないか。
自分に出来ることは少ない。何でもかんでも一人でやろうとするな。もっと冷静に物事を判断しろ。
ふぅ、、、、落ち着いてきた。
親父は生きてる。むしろ親父の方が俺と母さんの生存を心配しているはずだ。
断絶されているのは東京都の方なんだから。
とはいえインフラがあと2週間で止まってしまうのはまずい……
政府はなにか手を打たないと手遅れになるぞ…?
俺と母は買ってきた食料があれば2ヶ月は生きていけるはずだだが他の都民はどうだ?
ぶっちゃけ俺の今の状況で他を助けるなんて余裕は…無い。
だから暴動やテロが起こってしまう前に何とかしてくれ、というのが本音であった。
少し時間が経って夜ご飯を作りながら母と話をする。
「そう……やっぱり親父とは連絡がつかなかったのか」
「うん、あの人大阪出張だから今朝新幹線で向かっていって……ぐすん」
母は相当参っている様だった
それもしょうがない。旦那さんともう会えないかもしれないなんてなったら誰しもそうなるだろう。
(決めた)
そして俺は決意した。
母を守るために、この謎だらけの環境でもどうにか生き延びてみせると。
中学最後の秋の日が、今までの日常の最後の日となってしまった。
──後にこの日を、人々は「転換の日」と呼ぶ。
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