第9話 父への手紙
朗読会を終えた夜、俊介は自宅の机に向かい、便箋を広げた。書こうとしていたのは、亡き父への手紙だった。
これまで、父に対しては怒りと反発しかなかった。厳しく、冷たく、理解してくれなかった存在。だが今、俊介は違う視点で父を見つめていた。
「お父さん、僕はずっとあなたを恨んでいました。僕の我儘を否定し、夢を潰した人だと思っていました。でも、今ならわかります。あなたは、僕を守ろうとしていたんですね」
俊介は、父が実家に頭を下げて借金を頼みに行ったこと、生活費を捻出するために黙って働き続けたことを思い出した。 それは、愛情の不器用な形だったのかもしれない。
「僕は、あなたのようにはなれなかった。でも、今ようやく、あなたの背中に追いつこうとしています」
手紙を書き終えた俊介は、それを仏壇に供えた。線香の煙がゆっくりと立ち上る中、彼は静かに手を合わせた。
その夜、俊介は久しぶりに深い眠りについた。
つづく
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