第5話 相良龍二

パラメーターを上げると決意してから数日。今は6月の初旬だ。


ゲームのパラメーターには若干のクセがある。どういうことかというと、数値が上がりやすい項目と上がりづらい項目があるのだ。例えば運動のパラメーター。これは非常に上がりやすい。相対する勉強のパラメーター。これは上がりづらい傾向があった。比率で言えば3対1といったところか。


俺はその事実を把握していたし、学生の本分は勉強である。授業を受けていれば、心持ち次第で嫌でも上がるのである。


――そう言えば、ゲームでは授業でパラメーターが上がることはなかったけど、実際はそんなこともないんだな。


これは嬉しい誤算だ。現実であれば当たり前であった。



俺という人間がどういう人間か。まぁ、普通の一般的な男子高校生だろう。


相良龍二さがらりゅうじ、16歳、高校一年生。身長は176センチ。まぁ低くはないけどって感じか。最近は朝のトレーニングで少し筋肉質な身体になってきている。目指せ細マッチョだ。勉強も普通だったが、最近の授業や自宅での予習と復習が習慣になってきていることもあり、授業内容はほぼ理解できる程度の頭だ。ルックスはまぁ、10人に「カッコいいか」と聞いた場合、6人くらいは「悪くない」と答えるような、平々凡々な男子高校生である。


まだ慣れないが、眠い目を擦って起きる。日課となっている筋トレとランニングだ。初日は3キロで根を上げていたが、5キロは簡単に走れるようになっていた。


今日は雨が降っているので、生乾きの少し臭いレインコートを着て走り出す。


自宅に戻り、簡単にシャワーを浴びて朝食を食べ、家を出る。朝のルーティンだ。


「なんか、制服ちっさくなったな…」


そんなことを呟きつつ、まだ登校時間には余裕があるので、のんびりと歩いて登校した。



午前の授業を終えて、一つ前の授業内容について頭の中で整理していると、後方の席から騒がしい声が聞こえてきた。


「あー、数学がマジで分からないよー。試験近いのにヤバいなー。萌さー。今度勉強教えてくれよ」


佐藤湊さとうみなとである。


「湊くん、最近は遅くまでゲームばかりしてるからだよぉ。朝起こしに行っても全然起きないし、ちゃんと勉強しないと夏休み遊べなくなるよぉ?しいちゃんや茉莉ちゃんと遊ぼうって話してるのに」


「分かってるよ。萌が教えてくれれば大丈夫だって!そんなことより飯にしよーぜ!弁当持ってきてくれたか?」


「そんなことって…。もう知らないからね。はい、今日のお弁当だよぉ。」


甘く可愛らしい声で答えた一色萌いっしきもえは、鞄から弁当を取り出し、佐藤湊の机に置いた。


彼らの話を盗み聞きしていたクラスメイト――まぁ特に男子なのだが――男子連中の嫉妬と羨望により、教室の温度が少し下がった気がした。


佐藤湊。あいつは幼馴染に起こしにきてもらってるのか。弁当も作ってもらってる。

ゲームで佐藤湊を育てあげ、彼女を攻略した俺としては、なんとなくホッコリした気分である。


――王道テンプレ幼馴染かよ。尊いなおい。


そんなことを考えつつ、俺は佐藤湊の現在地について考察を始めた。

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