短編小説『笑う箱庭』

@Akatsuki971

 

誰もが、同じ動きをしていた。

歩く。揃えて歩く。

立つ。揃えて立つ。

呼吸を、揃える。

その顔は、同じ「普通」の仮面。

目も、口も、鼻も、表情も、感情も、すべて、均質に閉じ込められている。


胸の奥では、何かが呻いている。

低く、荒く、届かぬ声。

ブラックボックスの中で、膨張する。

膨張する。

膨張し続ける。


誰も、聞かない。

誰も、見ない。

動作の型に、体を押し込む。

押し込む。

押し込まれる。


ひび割れが入る。

微かに、仮面に。

誰も、気づかない。

だがひびの奥では、狂気が蠢く。

怒り、嫉妬、欲望、恐怖――

ぐちゃりと絡み合い、形を失い、蠢く。


仮面は、割れる。

化け物が、顔を覗かせる。

個性は、ない。

誰もが、同じ悍ましさを抱えている。

群れの誰もが異形であり、誰もが胸の奥に恐怖の核を隠す。


息苦しい。

逃げ場は、ない。

胸の奥の声は、止まらない。


しかし、仮面は、再び装着される。

揃って立つ。

揃って歩く。

揃って止まる。

日常は、戻ったかのように見える。


だが、声は消えていない。

膨張する声は、そこにある。

誰もが化け物であること、狂気を孕むこと、

それは静かなる圧迫として胸に残る。


息をするたびに、圧力に気づく。

呼吸を揃え、動作を揃え、視線を揃えるたび、

内側の化け物は、密かに笑う。

そして、誰も、止められない。

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