第4話 決意

これは古くから伝わる1つの話。

嘗て護国に妖という人ならざる者が現れ、彼等により災いが齎されると多くの人々が苦しめられた。それはまさに悪逆非道そのものと言うべきで悪しき者達は自らの思うがまま暴れ続けた。しかしそこへ現れたのは数々の呪術を会得しまさに天才とも謳われた1人の男。

彼の名は安倍晴明あべのせいめい、彼は自らが用いる全てを使い、魑魅魍魎達を次々と退治し護国へ平和と安寧を齎したという。

そして彼が持つ類まれなる才能に嫉妬し野心を燃やし続けていたのがもう1人の陰陽師である

蘆屋道満あしやどうまん

彼の実力は安倍晴明と同等、或いはそれ以上であるとされお互いにライバル同士であった。

やがて道満は晴明に対し宣戦布告すると共に彼と激しい戦いを繰り広げた…だがその軍配は晴明に上がる、そして道満は当時の天皇に禁術や呪術により災いを齎すと判断され都を追われた。


それから道満は再び晴明を討つべく変わり果てた姿で彼の前へ現れる。その彼が会得したのはヒトならざる者を使役し利用するというある種の呪術ともいえるモノでそれはヒトが持つ罪や業、妬み、恨み、嫉み、嫉妬、憎悪といった負の感情から生まれる。そのバケモノは後に穢れと呼ばれ、妖という存在と同等に害を成す物として扱われた。

晴明は未知の存在に対し苦戦を強いられるが辛うじて勝利を収め…道満はその際に深手を負った。もう2度とこの地を踏む事が無いように、これ以上民を苦しめない為に

彼は晴明の手で三途の地という異界へ送られた。彼が施した強力な術により

現世と三途の地への行き来を封じたのだ。

今も尚、その扉は強力な術を用いて封印されている...再び災厄が巻き起こらない様にと。これが陰陽師の間で伝わる伝説である。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

-弱ければ誰も守れない。弱い事は罪そのもの-


嘗てそう自分へ説いた人が居た。その人は優しくて、温かくて、そして

寂しげだった。


羽叶わかな!に、逃げろ...雛奈を連れて早く!!ぐぅう...ッ!! 』



『随分と衰えましたね...父上。それともまだ本気ではないと?私相手ならこの程度で十分だと思っておられるのですか? 』


これは私が最後に見た光景。

母に抱かれながら見たのは自分達を守るべく眼前の敵が振り下ろした獲物を

刀で受け止める父、土御門隼慶つちみかどしゅんけいの姿。彼と対峙しているのは自分の姉...土御門鷹香つちみかどようか。彼女は私と2歳年が離れていて、

次期当主の座は鷹香で決まる筈だった。しかし突如として反旗を翻し多くの陰陽師達を傷付け、殺し、今に至る。

当時の私は8歳、鷹香は10歳でまだ幼いが鷹香には才能があった。

飲み込みも早ければ実践に移すのも早く霊装展開術や物質変換術は勿論、

陰陽霊符の扱いでさえも長けていた。

それは大人の陰陽師でさえも顔負けするレベルで私は到底及ばなかった。


『...刀を下ろせ鷹香!!何故だ、何故お前が...!! 』



『自分の力を証明したいのです...誰に勝てて、誰に負けるのか。それにこの家には最早強い方は誰も居られません。それに貴方が言ったのですよ?と。ならば私に負ける貴方は罪...ッ!! 』


何が起こったかは解らない、父は数多の刃で穿たれ目の前で死んだ。

そして私を逃がしてくれた母も死んだ。そして残されたのは私だけで

廊下の方を見ると鷹香が笑って此方を見ている。


『あーあ...残ったのは雛奈だけか。どうする?勝てもしないけど私に挑むか...それとも此処で無残に命を散らすか 』



『ッ...れ、霊装展開...急急如りつ──うぐぅッ!? 』


突如として腹部へ激痛が走る、鷹香の膝蹴りが命中したのだ。

痛みで起き上がれず呼吸が出来ない...視線を向けると刃の先が眼前へ突き出された。


『ざーんねん、霊装展開術は使わせない。終わっちゃったね?呆気なく 』



『と...父様と...母様を...か...返して...ッ...! 』



『忘れちゃたの雛奈?力なき正義は無、弱い事は悪、弱い事は罪...だから大切なモノも守れない...だから今の雛奈は唯の弱い存在って事。言い方を変えるなら出来損ない、クズって事だよ。でもまぁ...良く頑張ったんじゃない?出来損ないの癖に私に追い付こうとバカみたいに必死になってさ?見てて面白かったよ...ふふふ! 』


彼女は私を侮辱した。

そしてどういう訳か私の髪を掴んで強引に背を向けさせると頭を踏み付けた。

服を捲られ、素肌が風に触れる。泣き叫ぶ事以外は何も出来なかった。


『い、いや...嫌だ...やだやだ、死ぬのは嫌だぁあああぁぁぁッ!! 』



『じゃあ...こうしようか?。そして今から雛奈に刻むのは敗北の証...それを背負って生きるんだ。この先もずっと!! 』


刺す様な痛みが左肩辺りから走り、ゆっくりと肉を裂く様にそれが走って

止まった。気が動転し意識を失った私が助け出されたのはそれから少し後の事だった。


「...だ 」


雛奈は布団で目を覚ます、目覚まし時計が傍らで鳴っていて

それを止めてから暫し項垂れていた。両親の死...姉の裏切りと土御門家への

侮辱と非難の目。それだけは未だに覚えているし今も続いている。

16になった今でも鮮明に思い出せてしまうのは余程ショックだった為だろうか。

立ち上がってジャージに着替えようと思い、その場で服を脱いで下着姿になって

不意に姿鏡へ背を向けると左肩の少し離れた位置から背中の中程と右脇腹に掛けて斜めに走る傷跡があった。それは成長した今も刻まれていて鮮明に残されている。


「...弐聖伉儷。何で私がアイツと 」


昨日言い渡されたのは弐聖伉儷という制度。

それに基づいて巨悪である蘆屋道満を討滅する事を命じられたの

だが組む相手が相手なだけに気持ちの整理が付いていなかった。

部屋を出ると涼音が降りて来て欠伸をし、此方を見つめている。


「ふぁあ...んだよ、お前また走りに行くのか? 」



「...それが日課だから。自堕落な誰かさんとは違う 」



「そうかよ...てか何でそんなピリピリしてんの? 」



「...別に 」


 それだけ言い残すと雛奈は日課のトレーニングへ、涼音は用を済ませてからまた部屋へ戻って眠ってしまった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

それから2人は普段通り変わらず学校へ赴くのだが涼音は変わらずにサボろうと思い雛奈と別れて屋上の方へ向かおうとするのだが何かに身体を思い切り引っ張られて階段からずり落ちそうになる。


「あっぶねぇ!?何なんだよ...ッ!? 」


よく見てみると腰に青色の紐が巻き付いていて、そこには居なくなった筈の雛奈が居た。


「...身体束縛、急急如律令。 悪いけど行かせない、授業に出て 」



「はぁ!?何で...てかお前居なくなったんじゃねぇのかよ!? 」



「...口答えは不要。授業に出て 」



「だからって学校で術を使うなっての!! 」



「...授業に出て。3度目は言わない 」



「出なかったらどうなるんだよ?まぁ流石に──いぃッ!? 」


涼音の首筋へ差し向けられたのは雛奈が使う短刀の刃先。

無表情で訴え掛けて来るその有様は恐ろしく、何をされるか解ったモノではない。


「...今日から陰陽師に相応しい生活態度に変えてもらう。サボろうなら本気で首が飛ぶ 」



「お、脅す気かよ...!?てか誰かに入れ知恵されたのか? 」



「...早く教室へ行って、時間がない。それともこのまま連行されたい? 」



「うぐ...わぁーったよ、行けば良いんだろ!?行けば!! 」


拘束が解かれ、監視されながら涼音は自身の教室へ向かうと

席へ座る。その様子を見た加奈が嬉しそうに近寄って来た。


「ちゃんと来た!偉いぞー涼音!!あれ...土御門さんも一緒だったんだ? 」



「な、なんつーか...その......色々あってな? 」



「ふぅん?授業だいぶ進んでるけど...大丈夫? 」



「マジかよ...その辺は頼んだ! 」


両手を合わせると加奈は2つ返事でそれを受け入れる。

HRが始まるとダルそうにしながら涼音は話を聞いていた。


(こんな事ならサボってる方がマシだっつの。先公の話、マジつまらねぇから嫌いなんだよな... )


左手で頬杖を突きながら話を聞いていると強い殺気を感じ振り返る、見てみると

雛奈と似た何かがそこに居たのだ。その手には白く細い何かが握られている。


「いぃッ!?お、お前まだ──」



「どーかしたの涼音?あんまり騒ぐと怒られるよ? 」



「へ!?あ、いや...お面被った様な変なのあそこに居ない? 」


ロッカーの方を指差すと加奈も其方へ視線を向ける、だが首を傾げて

違和感を感じていた。


「...?何にも居ないじゃん 」



「おいおい...まさかあたしにしか見えてねぇのか!?」


実は雛奈は涼音がサボらない様にと陰陽師でしか感知出来ない霊力で生み出した分身体を残しておいたのだ。仮面の奥に在る目がギラリと光り、涼音を睨み付ける。


「ちッ...アイツ、こんな状況で勉強しろとか拷問かよ......。 」


こうして彼女は雛奈の分身に監視されながら授業を受ける羽目となる。

少しでもサボリの兆候があればチョークがすっ飛んで来て涼音の後頭部へ的確に命中し彼女が悲鳴を上げるの繰り返し。それを繰り返した末にようやく昼休みが訪れた。


「痛てて...ふざけやがってあの狐面、何度も人の背中にチョークぶつけやがって! 」



「見えないけど何か色々凄かったもんね...この調子でサボり癖も無くなったりして! 」



「何でお前も乗る気なんだよ... 」


溜息を吐いた時、購買から出て来たのは雛奈で

菓子パンを買い込んだのか両手に幾つか持っていた。涼音に気付くと面倒そうな表情を浮かべていて、それに気付いた涼音はズカズカと近寄って雛奈の事を睨み付けてから頭ごなしにこう言った。


「お前!あのヘンテコなの何とかしろよ!!お陰で背中やら肩が痛ぇんだけど!? 」



「…サボる貴女が悪い。これからお昼、邪魔しないで 」



「だからってお前なぁ...あんなのどう考えても理不尽だっつの!! 」



「...ちッ 」


雛奈は先程より怪訝そうな表情を浮かべたかと思うと思い切り舌打ちした。


「てめぇ今舌打ちしたろ!?したよな!? 」



「...それより良いの? 」



「あ゛ぁ!?何がだよ!? 」



「...お昼。買えなくなるけど 」


そっと後方を雛奈が指差すと既にパン類の一部が売り切れ初め、

それからも続々と生徒らが押し寄せていた。


「やべぇッ!?てめぇ、後で覚えとけよ!! 」


啖呵を切って駆けて行き、購買の列へなだれ込んだが

結局購入寸前で売り切れてしまう。まさかの昼食抜きが確定した涼音は

トボトボと肩を落として加奈と雛奈の元へ戻って来た。


「どう...だった? 」



「買えなかった...ちくしょう...... 」



「あらら...どうしよう?学食行く? 」



「無理だよ、この時間は込んでて無理だし 」


溜め息をついた際に視界に入ったのは雛奈の持つ菓子パン達。

視線に気付いた彼女は自ずと後ずさりを始め、ニィッと白い歯を剥き出しにした

涼音はじりじりと詰め寄る。


「有るじゃねぇか...よぉ...? 」



「...ッ! 」



「1つ位寄越せよ? 」



「...イヤだと言ったら? 」



「力付くで奪ってやる!! 」


バッと掴み掛るが雛奈はそれを左に躱し、続いて来た掴みを右へ飛んで躱す。

正面から来ればそれを後方へ飛び退いて躱した。


「こンの野郎...寄越しやがれ!! 」



「...食い意地のバケモノ 」



「お前が言うな!待てコラぁあああッ!! 」


駆け出した雛奈を追い掛ける形で涼音は廊下を走る、器用に階段の手摺を雛奈が滑り降りれば涼音は階段を飛び降りて強引に追い掛けて行く。

生徒達の合間をすり抜けて突き進んだ先の廊下を右へ曲がった時に1人の男子生徒と涼音がぶつかりそうになった。


「うわわ...ッ!? 」



「バカ!急に前へ出で来るんじゃ──ッ!? 」


そして思い切り正面からぶつかると彼を押し倒す様な構図になってしまうと

彼女は身体を起こして相手の方を見ていた。


「いてて...おい、大丈夫か? 」



「う、うん...何とか...あッ!?キミは確かこの間の公園で...!! 」



「あ?...お前、確かあん時の! 」


お互いに思い出すと涼音は周囲の視線を感じて事態に気付くと

彼から飛び退いてからお互いに立ち上がる。彼の名札には[半田]と記されていて

涼音が公園で見た生徒と同じだった。


「半田...? 」



「僕は半田翔真、宜しく。キミは確か不良の... 」



「誰が不良だ!あたしは灰崎涼音、見た目がこうだからそう見えるだけでフツーだよフツー!! 」



「わ、悪かったよ...ごめん 」



「んな事どうでもいい!さっき黒い髪の女が通らなかったか!?パンめっちゃ抱えていけ好かない顔した奴!! 」



「通ったけど...何かあったの? 」



「サンキュー、それだけ解りゃ──ッ!? 」


彼女が動き出そうとした瞬間、大きく腹が鳴った。

それも目の前に居る彼に聞こえる位の大きさで咄嗟に抑え込んだが

もう時は遅い。


「もしかして...お腹空いてる? 」


振り返ると翔真が苦笑いしながら話し掛けて来る、対する涼音はそれに

無言で何度も頷いた。昼休みが終わるギリギリで翔真が差し出して来たのは購買で買ったチョコバーで受け取った彼女は彼を見て話し掛けた。


「良いのか? 」



「うん...何か大変そうだしあげるよ 」



「ラッキー!へへへッ、お前良い奴だな!あのパン野郎と違って断然!! 」


包み紙を破くとそれを手にその場で食べてしまうと彼女は腹を撫で下ろし

安堵の表情を浮かべた。


「この具合なら何とか持ちそうだ。後はテキトーに炭酸でも買って腹膨らませとくよ 」



「それで平気? 」



「あぁ、慣れてるからな。じゃーな!そろそろ戻るわ 」


戻ろうとした時に翔真は思い付いた様に涼音を呼び止め、何かを手渡して来る。

それは名刺の様なモノで受け取った彼女は不思議そうな顔でそれを見ていた。


「怪異...探偵団?何だこりゃ 」



「実はそこのメンバーなんだけど...部員数増やしたいって部長の牧野君から言われててさ 。ど、どうかな?灰崎さんはこういうのに興味ある?」



「...まぁ少し?そうだ、なら丁度良いの居たからそいつも入れてやるよ。あたし入れて2人ならどうだ?コレの礼って事で 」


チョコバーの包み紙をヒラヒラさせて涼音は笑っていた。


「本当!?助かるよ、ありがとう!!後で入部届け持って行くから! 」



「おう、またなー! 」


1つの悪知恵を思い付いた涼音はニヤリと笑い、翔真と別れて自分の教室へと引き返して行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

迎えた放課後、話が有ると涼音は雛奈を呼び出してとある場所へ向かう。

ドアを開けるとクラッカーが鳴らされて見てみると男子3人と先に来ていた加奈を入れた女子3人が出迎えて来た。雛奈はビクッと驚いた反応を見せたが一方の涼音は動じていなかった。


「ようこそ光明学院怪異探偵団へ!僕が部長の牧原直継、宜しく!! 」


そう名乗ったのは奥に居た少年で雛奈はキッと涼音を睨んだ。


「...聞いてた話と違う。合わせたい人が居るって言ってた 」



「間違ってないだろ?これがあたしのだよ 」



「...用事が有るから帰る」


引き返そうとした雛奈だったがセミロングの金髪少女、玖珂沙織くがさおりと髪を後ろで結んだ結絆に捕縛されてしまった。


「土御門さんも興味あるんだ、こういう変なの! 」


と笑顔で右側から沙織が話し掛けて来る。


「これで数は逆転!女子増えたし女子会出来んじゃん!! 」



「...わ、私は...ッ...! 」


対応手こずっている中で涼音を見ると彼女は意地悪そうな笑みを浮かべ

笑っていた。普段から雛奈があまり話さない事を逆手に取ったこの作戦は

ある意味成功だった。


(...アイツ、後で覚えとけよ...!!)


そういう目で睨み付けると雛奈はギャル風な2人に連行されてしまう。

突如として歓迎会が始まると涼音は加奈と一緒に窓際に居て様子を見ていた。

オカルト知識を悠々と引け散らかす直継、それを聞いてリアクションする光太郎と苦笑いしている翔真、雛奈の髪を結んでいる結絆と同様に雛奈の右手にネイルをしている沙織の姿があった。雛奈は空いた左手で机の上から市販のクッキーを皿から取って食べている。


「加奈ぁ...いつもこんな感じなのか? 」



「う、うん...これが平常運転かな?でもビックリしたよ涼音が入部するなんて 」



「成り行きだよ...成り行き。まぁ半分はアイツへの仕返しだけど 」


そう話すと加奈は小さく笑っていた。


「そういえば覚えてる?小学校の時...涼音が私を助けてくれた事 」



「...?そんなのあったっけ 」



「私が居残りで勉強させられてて、それを見たクラスで身体の大きい男の子とその仲間の子に虐められてた時、あたしの友達に何すんだーって結絆と一緒にその子達とケンカして泣かせたって話 」



「あー...あの話か。あの後こっぴどく怒られたんだぜ?女の子らしくしろとか、素手で殴るなとか...もう散々 」



「でも嬉しかったなー、涼音が庇ってくれたの。ヒーローみたいでカッコ良かったもん 」


それを聞いた時、ケガレと出くわしたが助けられなかった事を不意に

涼音は思い出していた。


「この間は...その、悪かった!会う度にずっと言えなくて...お前そういうの気にしないでずっと引き摺るタイプだし......だから── 」


一礼し加奈へ謝罪をするも彼女は「顔を上げて」とだけ伝えた。


「 大丈夫、この間のアレは確かに怖かったけど...今此処に居るのはあの時私を助けてくれた子のお陰だもん。涼音は何も悪くないよ 」



「ッ...今度はあたしが加奈を守るから!絶対...!!約束する!! 」



「そういえば涼音の家も陰陽師の家だったもんね...解った、じゃあ今度こそちゃんと守ってよ?私の事! 」



「...おう! 」


涼音が微笑むと「「でーきた!!」」という声がし振り返ると

髪をピンク色のリボンでツインテールにされカラフルな付け爪をされた雛奈の姿があった。その表情は昼休みに見せたあの怪訝そうな表情と同じだった。


「ぶッ!あっはははははは!!お前かなり似合ってんぞ? 」



「...うるさい。全部そっちのせい 」



「いっそギャルにでもなれば良いんじゃね? 」



「...それだけは絶ッッッッッ対にイヤ!! 」


2人のそのやり取りは暫くの間続いていた。

土御門雛奈、灰崎涼音...2人はケガレを祓う陰陽師であり

弐聖伉儷という選ばれし運命を背負う者。

そして普段は何処にでも居る普通の高校1年生である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る