雪宮藍、マネージャーやります!

冬樹夏架

雪宮藍の始まり

第1話 雪宮藍、マネージャーやります!

『決まった〜!! 低い体勢からのドライブ! 加藤選手プロ入りからの長年のライバル、李選手にやっと! やっと勝利を勝ち取りました!! 日本女子史上初の世界選手権ベスト4以上確実!! 』


 1999年、私のママは日本人女子選手初めてのベスト4になった。準決勝でドイツの選手に負けちゃったけどそれでも日本卓球会に大きな希望になった。でもその年に私のパパの当日アナウンサーだった「雪宮幸一郎」と結婚して引退した。まだ28歳で引退は惜しまれたらしいけど、子供ができるから子育てに力を入れたいってキッパリ引退した。


 そして2001年、私、雪宮藍が産まれた。卓球選手とアナウンサーの娘として生まれた私はもちろん卓球を幼い頃からやってた。でももちろん無理やりじゃないし、私はママの卓球の大会のビデオをよく見てたし、ママの動きを見たら私にもできるかもって思ってやりたい!ってママに頼んだの。

 そしたらいいよーってすぐ道具揃えてくれて、近所のクラブチームに参加して、一緒に練習した。私がママの娘だって知ると皆がすごーい!って褒めてくれる。でもそれは私がすごいんじゃなくて、ママが凄いの。でもママが褒められるのはいい気分だったの、だってママは自慢のママだから。


 自分の才能に限界を感じたのは中学生の頃だった。私は小学1年生の頃から卓球してたのに、私より歴が短い人達に負けるようになった。私が負けると決まって言われる。


 「加藤奈緒の娘なのに」


 私は悔しくて悔しくて、いっぱい練習して、大会で戦績を出すんだって思って休日は近所の体育館でひたすらママと、それか友達の彩月ちゃんと練習したけど、彩月ちゃんは弱っちいから練習にならなかった。

 

 中学生最後の大会、結果は全市3回戦敗退。

 札幌は激戦区だし、強豪が多くって勝ち進むことが出来なかった。相手は全道大会常連校だし、勝てる相手じゃなかった。


 ママは怒らないしパパも優しく笑うし、2人とも私に興味無いの?って怒ったけど、そうじゃなくてママとパパは2人揃って


 「結果と過程は違うからね、ママもパパも藍が頑張ってたのは見てたし、頑張ったことが偉いと思う。」


 いい両親を持った上に、かなり心が痛くなった。私は中学生の早い段階で私のママを自慢するのはやめた。誰にも言わないようにした。

 ママの娘なのにって言われるのが悔しくて、だからこそ勝ちたかったのに、私にはセンスが無かった。


 才能こそ磨けばどうにかなるものだけれど、センスだけはどうにかできるものじゃない。私は何事も上手くできるけど、それ以上に行かない。

 例えばバレーボール。見てたバレーボール漫画のようにやろうと思えばなんとなく出来た。体育大会ではバレーボールをやったけど、私のチームにはバレー部が居ないから、中途半端にできる私がエースになって、バレー部が居ない相手だった1回戦は勝てたけど、バレー部がいる2回戦目は呆気なく負けた。


 所謂私は


『出来ない人から見たら上手いけど、できる人から見たら弱い』


 というタイプの中途半端な人間だった。カラオケも90点行かないし、テストも基本60〜80点台。

 


 高校は卓球を辞めることにした。選手としてやっていくにはセンスが無さすぎる。ママの経歴に泥を塗るから、それなら選手を引退する。


 「ほんとにいいの? あんなに頑張ってたのに」


 「頑張ったって無駄なことあるんだよ、結局大会で結果を出すのが私にとって全てだったし」


 「だから卓球部が弱い、正北高校にしたのね。まぁ卓球部が強い弱い関係ないだろうけど、もう卓球部には入らない?」


 「え、入るよ?」


 「え?入るって何するの、卓球はもうやらないんじゃないの?」


 「へへん、私高校受験で気付いたの、私自分でやるのはセンスないけど、教えることには長けてると思う! だから私、」



 『雪宮藍、マネージャーやります!』



 ママはビックリしてたけどそれでも私のやりたいことに否定はしなかった。そんなママが大好き。

 マネージャーって何するんだろって調べたら球拾いだとか戦績、データをまとめたりだとか、雑用だとか、よく言われてるけどやってみたいことがあるの。


 卓球部を大きくして、全道大会にでる!


 そう意気込んで正北高校に足を踏み込み、2017年4月。卓球部の部室のドアを勢いよく開けた私の前に広がる空間は、キラキラした綺麗な部室。


・・・では無くて、辺りに散らばる卓球玉、消しきれてないホワイトボード、ボロボロの木のベンチ、球拾いの網が床に散乱してて、埃にかぶれた汚い棚。


 入った瞬間咳が止まらない。最悪な部室だ。私はここで3年間過ごさないといけない。


 「あ、1年3組、雪宮藍です、マネージャー志望できました。よろしくお願いします」


 「君が顧問が言ってた新入生の雪宮氏ですか、私が部長の新島陽太と申します、よろしくね」


 スチャってメガネを上げて頭良さそうに見せてるけど、絶対こいつ頭悪いだろ。話し方に知性を感じない。てかもう見るからにオタク、卓球部のことをオタク仲間の集う場所とか考えてそう、他のふたりもパッとしね〜、低身長坊主に、身長普通の髪型も普通、顔も声も普通。ほんとに卓球出来んのかよ。


 「あの、すみません、もう単刀直入に聞きます、皆さんの戦績はどんな感じです?」


 「フフン、まずは部長である私がお答えしましょう。最大2回戦出場!」


 周りに……というか部員の2人から拍手が巻き起こる。まぁこの感じだと後のふたりは一回戦敗退かな。弱いというか覇気を感じない。逆によく一回戦勝ったなと正直思った。


 「まぁ相手は1年生の初心者でしたけど、2回戦目は強豪校でね、勝てませんでしたね」


 「あの、部活としての目標とかなかったんですか?」


 「最初は全道大会に出ようと思ってはいたのですがね、札幌から全道大会に出るということは中々難しいのですよ」


 「難しい?」


 札幌は全国的にも卓球部激戦区であり、アニメやドラマのようなダークホースは中々現れない。

札幌が激戦区なこともあって、強いひとはやはり強いチームに入る。もちろん他の競技もそうだろうけど。

 なにより、ダークホースが現れない理由はトーナメントの仕組みにもある。

 弱小校と強豪校が2回戦以内に当たるよう仕組まれているために、たとえ1回戦に勝っても2回戦目には必ず負ける。

 

 アニメやドラマのような甘い世界では無い。強豪校と弱小校には圧倒的な練習と意志の『差』がある。どんな強い中学校にいたとしても弱小校に入ってしまえば衰退の一路を辿る。そしてなによりモチベーションが違う。勝つための部活と、ただ卓球をしに来てる感覚の部活動では大会に対する意気込みが違うのだ。


 「つまり、我々の部活動は大会に重きを向かず卓球同好会的なものになっているのですよ」


 「それでいいんですか? 2回戦目までには強豪校とぶつかる。だから勝てない、意味が無い。頑張って技磨いても上には通用しない。なら同好会なんて言って自分の面目守ろうとしてるんじゃないんですか?」


 「厳しいですねぇ。じゃあ、あなたは何故選手志望ではなく、マネージャー志望なのですか?」


 「そ、それは……」


 「そこまで言われて黙ってられるほど私のプライドは廃れていませんよ。私ね、卓球のことは好きなのです。あらゆるニュース、大会、選手についてリサーチしているのですが、あなたの名前、顔、そして札幌にいること。ここまで来たらもうあなたの事は理解出来ました。」


 「えっ」


 「ズバリ、あなたは雪宮幸一郎の娘ですね」


 「いやなんでパパの方で呼ぶんだよ」


 しまった、隠し通そうとしたのについおかしくてツッこんでしまった。パパって言ってしまった。


────藍、もう高校生になるんだから、ママとパパのことは外では父、母と呼びなさい。」


 びっくりしてパパ呼びしちゃって恥ずかしい〜。でもそんなことより、なんでこいつそんな少ない情報量だけで私を雪宮幸一郎、、加藤奈緒の娘ってこと気付くんだよ。


 「あの、そのことは他言無用でお願いします」


 「いいでしょう。なら私からも条件があります。勝負しましょう。卓球で。1セット先取のゲームです。あなたが勝ったら、情報はリークしません。ただ、あなたが負ければこの情報はリークし、あなたを選手として向かい入れます。いいですね?」


 「んもぉ、仕方ないです。やりましょう! 部長との勝負、受けてたちます」


 「よぉし、じゃあスタンバイ! 谷くん!」


 「いやあんたじゃないんかい!」


 なんなんだこの部長は。さっきからふざけてるようにしか見えない。


 まぁこの人に勝てばマネージャーとして入れるんだし、簡単に倒せそう。手足は別に長くないし、筋肉も普通。身長も私と同じくらい(164cm)だし。髪型が坊主で目つき悪いから見た目だけ強そうだ。


 「谷幸郎です。一応次期部長です。中学から卓球をやっています、勉強は得意なので分からないことあったら聞いてね」


 「あ、どうも。先サーブどうぞ」


 「じゃあ、行くね」


 サーブは下回転サーブだ。たまは伸びずに手前で落ちてくる。まずはバッグに返して──。


 「えっ」


 大きい振りからのサーブにしては、、回転が全然かかってない。それにびっくりして緩い球を返してしまった。

 来る、スマッシュが。


 強く振りかぶったボールが私のコートに帰ってくる。一歩下がって低い体制からドライブを決める。相手は取り切れず私の得点だ。


 卓球はサーブ2回交代。デュースになったら1回交代に変わる。サーブは自分のコートと相手のコートを1回ずつバウンドさせるのがルールで、球は手のひらから16cm上げて打たないと行けない。卓球は想像するより規制が厳しい。最近こそなくなりかけてると聞くも、ラブゲームは禁止という謎ルールもある。


 「10ー1」

 

 「ぶ、部長、、なんでこんな強いひとがマネージャー志望なんですか、、」


 「それは同感だ。全道大会も夢じゃないのでは?」


 全道舐めんな! 今まで横回転で攻めてたから今度は回転に見せかけた早いサーブをバックに返して終わり。


 「11ー1」


 「素晴らしいですぞ。雪宮氏。だがしかし、あなたが倒したそいつは我々の中でも最弱」


 「そんなやつ次期部長にすんなよ」


 「次は私が相手になります。私が勝てばさっきの条件を飲んでもらいますよ!」


 『11ー3』


 「……完敗だ。」

 

 「あの、ふざけてるんですか? 私中学札幌で卓球部してたんですけど、中々結果残せなくて、全道大会にも出れなくて、このままだと母の名前に泥を塗るから、選手を辞めたんです。でも、後輩に教えてる時、思ったんです。私は戦うより教える方が向いてるって。分析も教えるのも楽しいって思ってマネージャーになろうと思ったんです」


 「じゃあ、何故我々のような弱小校を選んだのです?札幌は激戦区、強豪校に入る方がいいのでは?」


 新島部長の言うことはご最もだ。強豪校に入ってマネージャーをやればいい。でも、そこはもう既に出来上がってるチームだ。私ができることは何も無い。

 アニメのような甘い世界ではない。そんなこと知ってる。でも私はやっぱり『下克上』が好きなんだ。


 「札幌が激戦区とか、強豪校弱小校とかなんてそんなこと知ってる。強豪校に入ってマネージャーやればそこそこいい経験にもなるし母の顔に泥を塗ることもない。でも、だからこそ私、雪宮藍はこの正北高校を強くしてこの強豪校蔓延る札幌から全道大会への切符を取りたいんです。」


 中学時代、自分の限界を知って、これ以上うまくも強くもなれない。どんだけ頑張っても上には上がいる。そんな時に見た1つのアニメが私を奮い立たせた。

 そのアニメはバレーボールのアニメで、主人公はある1人の選手に憧れ、同じ高校に入ったが、思い描いてた強豪校では無かった。だがそんなとこから主人公たちが努力し、全国大会へのキップを勝ち取っていた。

 そんな下克上に憧れた。私もそんなふうになりたい。でも自分がやるより教える方がたのしい。


──だからこそ。


 「今年は入る人もういなそうなので、来年にかけます。来年いっぱい人を呼ぶために、こんな甘い部活動をぶっ壊して、強いチームにしたいです。戦ってわかったけど、基礎がなってない。そこから磨いてけば勝率も上がってくと思います。ですが、これは私1人の想いだから、皆さんがついて来れないなら、諦めます。」


 「新島部長、谷。その子が言ってることは正しいと思うよ。」


 「風間くん、、」


 「正直、俺も思ってた。こんな部活動でいいのかって。その子が入ってくることがこの卓球部のターニングポイントになるんなら、俺たちが一緒に強くなればいい」


 「風間くんがそう言うなら、、というか、私も部長としてあなたの言う事は否定しませんぞ。いいでしょう! これからの練習メニューやトレーニングはマネージャーである貴方にお任せします。そして我々に教えてください。そして高体連、我々を勝たせてください」


 「皆さん、、ありがとうございます。では、よろしくお願い致します。ところで、皆さんの名前ちょっとホワイトボードに書いてもらっていいですか?」


『新島陽太』部長


『谷幸郎』副部長・次期部長


『風間心之助』次期副部長


「風間くんはどっちで呼べばいいんですか?」


「もう風間くん言うてるやん先輩なのに」

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