第7話 逆行の勇者……邂逅


 あれから俺は旅の道中、魔獣の群れに突っ込んだり。何も無い所で時間を巻き戻したりして、巻き戻しの能力の検証をしながら旅をしていた。

 

 検証の結果。まあまあ収穫もあった。

 

 最初は十数匹の魔獣に突っ込むと30回は死んだのだが、今は1度も死なないで魔獣の群れを狩ることができるようになった。

 

 他にも色々あるのだが……それは後にしよう。

 

 そんなこんなで旅を続けていると目的地は案外、すぐに着いた。

 

 まだ言っていなかったが目的地は、原作の情報集でクロノスと何か関係があると言われていた街……リチシアである。

 

 リチシアはそこそこ大きい街で、街を守るために設置してある門も立派である。

 

「通行証を見せろ」

「あーと、その~。なくしてしまいました。どうにか入れてもらうことができないですかね」

「通行証がないならこの街に入ることは出来ない。次」

「そこを何とかっ! わざわざこんなところまで来たんですよ!!」

「お前の事情は知らん。この街にはこの街のルールがある。ほかの場所では知らないが、通行証がないならさっさと失せろ」

「くそっ!! 人が下手になってればいい気になりやがって!!」

 

 門を通って町へ入ろうとしている行商人が逆上して門番に襲い掛かろうとするが──

 

「バカめ……」

 

 それを見越していたのか門番はすぐに行商人の頬を殴りつけて、背中に差している剣を行商人の首へ宛てがう。

 

「ひいっ!」

 

 首に宛てがわれている剣を見て、行商人は顔を青褪めさせて逃げて行った。

 

 

 その一部始終を全て、見ていた俺なのだが……。

 

 マズイ……とてもマズイ。街へ入るためには通行証が必要なのかよ。

 

 通行証が必要なことすら知らなかった俺だが、当然そんなもの持っている筈もない。……と、いうことは街へ入れない。

 

 街へ入れないとここへやって来た目的が、達成できなくなる。

 

 さて、どうしようか……

 

 無理矢理、街へ入る手はないことはないのだが……問題はあの門番である。さっきの一部始終を見た所、あの門番普通に強い。

 

 俺が今やろうとしていることに気づかれたら、めんどくさいことになりそうだ……

 

 他に何か手は無いか……? 何かこう、合法的な手段で入る方法とか……。

 

 いっそ色仕掛けでもしてみるか? ……控えめにシリカの顔はこの世界でも指折りに入るくらいの可愛さだ。

 

 ならそれを利用して……てっそれはまずいだろ!? 男として何か失う気がする! 

 

 そうして門の前へ右往左往していると。

 

「この街に何か用か、入りたければ通行証を出せ」

「あ~~とぉ」

 

 やっばい気づかれちゃった……て、いうか門の前で怪しい行動をしていればそりゃ目につくね! 

 

 本日二度目のやらかしである。

 

 他にも俺はフードを目深に被っており、容姿も怪しさ満点だ……。

 

 そんな怪しさ満点な恰好をしている人物が、街へ入るための門の前でうろちょろしているのだ。そんな奴がいたら当然、門番は怪しむわけで。

 

 

 どうする……? 。どんどん状況がまずい方向に行っている気がするぞ。

 

 そんなこんなで、いろいろ考えて打開策を考えようとしているのだが……当然見つからない。

 

「お前……まさか、通行証なしでこの街に入ろううとしたのではないよな?」

「おっとぉ……」

 

 非常にまずい。先程からマズイとしか考えていないがマズイ状況である。

 

 しょうがない……こうなれば──

 

「……! お前、顔をよく見せろ!」

 

 

 すぐ近くに来た門番が、何かに気づいたような反応をして顔を見せろと要求するのだが……。

 

 何だ……? まさか、指名手配されているのか? 

 

 思い当たるのは、つい数日前に殺した天使の事……。

 

 だが。それだとするなら情報が回るのが早すぎる。それに、天界にいる奴らはこの時点では行動はしてない筈……。

 

 するとしても、クロノスが勇者に力を与えることまでだろう。

 

 だとしたら何故だ? ……上位天使が殺されたから行動を速めたのか? 

 

 それとも、別の要因が──

 

「な……!」

 

 考えていた所……俺がいつまでたっても動かない事に痺れを切らしたのだろう。門番がフード思い切り上げ俺の顔を見る。

 

 すると、何故か門番が驚愕の声を上げる。

 

 やばいっ……! 見られた!? 指名手配されているのなら、相当まずいことになってしまった……! 。

 

 このまま逃げるしかないか? ……体力を余計に使うことになるが、しょうがない……

 

 そうして、能力を発動させようとして……

 

「無礼な態度。申し訳ありません!!」

 

 門番が次に起こした行動。

 

 それは俺を排除するために剣を抜くわけでもなく、俺を捕縛するための行動でもない……

 

 門番が起こした行動……それは、謝罪である。

 

 王族に無礼な行動を働いた一般市民が必死に許しを請うが如く……頭を下げる。

 

「へ……?」

 

 門番が起こした突然の行動に、俺は能力を発動しようとした意識が霧散して頭の中が真っ白になる。

 

「まさか聖女様とは……! 本当に無礼な態度申し訳ありませんでしたっ!!」

「どうぞ! お通りください……!」

 

 あまりの衝撃で未だ脳内に??? が広がり、門番の言葉を聞き流している中……。俺は門番に促されるまま、門を潜る。

 

 

 

 

 ^^^

 

 

 

 どういうことだ……? 門番のあの反応……何が起こっている? 

 

 

 街へ入った後。しばらくの間……宇宙猫が如く、脳内に??? を広がらせていたわけなのだがしばらく時間が経つと落ち着いたのだが。

 

 落ち着いた頭で考えていても門番の変化の有り様が、未だわからない。

 

 確か。あの門番の変化の有り様であまり覚えていないのだが、聖女……と言う事を言っていたのは覚えている。

 

 聖女……俺が? ……少し前まではシスターとして活動していたのだが、聖女とまでは言われてない筈だ……。

 

 そもそも俺達が活動していた所はかなりの辺境だ……それに俺は顔を覚えられるまでの事はしていない。

 

 原作のシリカも聖女とまでは言われてはいなかった……。

 

 だとしたら何故? 

 

 それに、気がかりなのはそれだけではない。気のせいかもしれないが……この街に入ってから、視線が増え続けている。

 

 本当になんだ? 何が起きている? 

 

 疑問が止まらないまま、民家の窓を通して自分の姿を見る……。

 

「は……!?」

 

 窓に反射した自分の姿を見て驚愕の声が出た……。

 

 窓に写った自分を見て何か驚くものがあるのか?

 

 ……ただいつも見ている、普通の姿しか出ないだろう……と言われるだろうが、今写っている姿は今までの自分とは異なっていた。

 

 ……それは

 

 肩にかかるくらいの奇麗な銀髪は……毛先と所々がメッシュのように、血濡れのように赤黒い色に染まっている。

 

 当然、染髪などはしていない。なのに、なぜか赤黒くなっている髪……。

 

 だが。一番俺が注目している場所はそこではない。では何処か……となると。

 

 右の眼球だ。

 

 髪の毛同様、奇麗な銀色はそこにはない……。そもそも一般的な目では、なくなっている。

 

 太陽の様に光り輝く金色こんじき。そして、金色の上には簡素に作られた時計のような模様があった。

 

 何故、俺が町の住民から見られているのか……門番があんな風に態度を変えたのか。

 

 原因はこれだ。

 

 門番の言っていた聖女、と言う言葉……おそらく、この瞳が証拠なのだろう。

 

 

 

「知らない……!」

 

 そう。知らないのだ……原作にはこんなものは登場していない。聖女と言う存在も登場していないのだ……。

 

 原作で登場していない物がこの世界にある……。

 

 この世界で、生きている人間はプログラミングされたNPCではなくちゃんと生きている。

 

 原作では名前すら紹介されていないNPCは、この世界では名前もあるし今まで生きていた痕跡もある。

 

 この世界はゲームではないのだ。

 

 だから当然と言えば当然なのだが、ここにきて原作外の物が登場……。

 

 もしも、他にもこのような存在があるとするなら……。

 

 だとすると、不確定要素が一気に増える……原作通りにも物語が進まなくなってしまう。

 

 どうする……! どうすれば原作通りに進む……。

 

 いや……冷静に考えれば、俺がいる時点で物語とは違う方向に進んでいる……。

 

 結局この世界はゲームではなく、この世界の現実だ……当然、原作通りには進まない。

 

 だけど、結局この世界の原点はゲームだ……。

 

 勇者と魔王そして神が戦い合う物語……だとすればどう転ぼうが、何処かにターニングポイントがあるだろう……

 

 その場に俺がいればいいだけだ……。

 

 そう……一人で考える中、突然右目が疼いた……。

 

 突然の事で混乱する。右目を手で押さえて周囲を見る……。

 

 近くに何かがいる……と、俺の勘が、右目が訴えていた……! 

 

 そうして、周囲を見渡すとその正体が何なのかすぐに分かった……。

 

 

 

 何故ならそいつはこの街にいる、どの存在の中でも最も異質だから……。

 

 オーラ……という物がその他、大勢と遥かに違ったから。

 

 ──そいつはこの世界で最も輝く存在。

 

 ──かつて俺が操作していた勇者……

 

 

 

 

 

 クロノスから力を与えられた唯一の人間。

 

 この世界の主人公

 

「シリカの匂いがすると思ってきたんだけど……」

 

 この世界で一度も出会っていない筈……なのにそいつはシリカの名前を知っていた。

 

「気のせいじゃなかった……」

 

 そいつは俺の事をじっくりと、舐め回すように見ていた……。

 

「……見つけた。とりあえず身動きできないように縛って……。そのあとは……」

 

 この世界で接点は一度もない。なのに……そいつはシリカの事を知っていて、おまけに何かやろうとしていて……!? 

 

「まぁ、それは後にして」

 

「とりあえず、初めましてかな」

 

 そこにそいつ……いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──シリカ

 

 

 時の勇者……ラルカ・アーグがそこにいた……。

 

 

 

 

 

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