第4話 ゲームスタート
STORY OF DEICIDE三週目……それは人間ではほぼクリア不可能と言われるレベルの難易度。
フレーム単位で回避しなければほぼ即死の攻撃を連続で放ってくるボス……一回攻撃を受けただけで体力がほぼ消し飛ぶ攻撃仕掛けてくる雑魚敵が群れて襲い掛かってくる魔境。
二週目時点でクリア比率はゲームプレイヤーの約十%いるかいないか、と言われているレベルの難易度設定である。
三週目になるとクリア率は脅威0パーセント……最初のボス突破率は1.2パーセントと言われるクソ使用……果たしてゲームクリアできる人間がいるのか……
そんな魔境をストーリー中盤まで続けた者のみが解禁される情報。
男の娘シスター……シリカの固有能力
その真価
それは──
「何故だ!? なぜ治る!!」
「その再生能力はなんなんだ!! まるで元の状態に戻っているかのように!! なんなんだそれは!? なんなんだ貴様はアアア!!」
──巻き戻しの力……時間、概念、物体、その全てを巻き戻す。
例え、物が壊れたのなら壊れる前へ、傷ついたら元通りに。負けそうになったらその負ける前へ、そんな無法の力。
それが三種目中盤に判明されるシリカの固有能力。
一周目二週目のシリカはこの力の真価を理解……そして条件を満たせなかった為、巻き戻しの力を発動する事ができなかった。
そう。この力を使うためには一つの条件がいる……それは、神への信仰心を捨て去ること。これを聞いたものはたったそれだけ? と、思うかもしれない。だがそれはシリカにはとてもじゃないができたものではない。
彼は今回間に合わなかった俺と同じようにこの地獄を見た。
彼は全てが終わった後に、この場所に戻ってきた……もともと、あのクソどもが元凶だと知っている俺とは違う。彼は己が心を、安定させるため神に縋った。それしか生きる方法を、彼は知らないから……。
そのため、神への信仰心を捨てた三週目の彼は常に落ち着きがなかったり言葉が刺々しくなっている。
まぁ、それはともかく
今は目の前の羽虫に集中しようか……
「さっさとしねえ!!」
取り合えず俺が死にうる攻撃のみを避け、死なない程度の傷を巻き戻しているのだが……どうすべきか……。
床に落ちていた短刀を拾い、どうにか攻撃を当てようとしているのだが当たらない。筋力や戦闘経験と言う基礎能力が俺と天使とではあまりにも大きな差があるのだろう。
この巻き戻りの力は絶対に負けない力なのではあるが、もちろん弱点はある。
それはこの力が絶対に負けないと言われる由縁でもあるのだが、ここまで来たら分かる人はわかるだろう……この力は負けない力、最強の力ではない理由……それは、致命的な程までの火力不足。
どこまで行っても巻き戻すことしかできないのだ。生き残る、と言うだけでは一級品なのだが敵に勝つと言われるとそこまでである。
本当にどうするか……
そういえば天使を巻き戻し続けたらどうなるんだろうか?
気になったらやってみるのがゲーマとしての性だな。
……やってみようか。
「ようやく死ぬ気になったか? 人間……ならばそのまま死ねえ!!」
目の前の天使が振り下ろす剣を俺は回避……なんてことはしない。そのまま肉体で受け止める。そのまま腕に剣が食い込んだまま、能力を使って戻していく。
「な!? なにをやっているんだ貴様ぁ!!」
俺の奇行に天使は一度体を硬直させる。
そして……
「キャッチ」
俺は硬直した隙を見逃さず天使の腕を掴む。触れてしまえばこっちのものだ……そのまま能力を発動させる。
「があああああああああああ!!」
「お? その反応なにかあるな」
「貴様ぁああ! 何をしたア!!」
巻き戻した影響か、叫び声を上げる天使……だがすぐに手を振り払われ、蹴りを入れられる。
「グッ!!」
数メートルは吹っ飛んだだろうか……瓦礫にぶち当たり血を吐く。
やっぱり筋力では叶わない。
結局振り出しに戻ったか……。相手は今の事もある……そうやすやすと触れさせてはくれないだろうな。
未だ決定打は何もない、筋力もない、魔法もほとんど使えない、唯一使える、身体強化の魔法を使ってもこいつには及ばない。
ないない尽くしもいいところだな。
どうすべきだ、どうすれば……!
目の前の敵に対しての有効手段はない……そのことに焦りが出てくる。
──嗚呼……そうか。
……いや。その方法を俺は知っている筈だ。画面越しで何百回もやったこと……。
──手段はある。
なら。あとは覚悟……そして、人間であることを捨てるだけだ……。
そうだ、俺はあの地獄を見た。あのクソみたいな光景を……。
数十分前までは俺に良くしてくれた人だったものが転がっている地獄。
あの日守ると誓ったくせに守り切れなかった地獄。
どこまでも純粋でかわいかったあの子たちが骸として地面に転がっている地獄。
セクハラをしてくるがそれ以上に慈愛に満ちたシスターが己の腕の中で体温が失われていくのをただ見ることしかできない地獄。
そもそも俺は一度死んだ身だ……とっくのとうに覚悟はできている。
そして、それ以上に俺は許せないのだろう。この地獄を作った目の前の敵を……守るべきだと思ったくせに守り切れなかった俺の事を……!
これは復讐と同時に、俺に対しての断罪だ……! 。
なら、やり直して見せよう。
手元にある短刀を強く……万力が如く力で握りしめる。
何回でも、何十回でも、何百回でも、たとえその道中で何百と己の死骸が積み立てられたとしていようが……。
だから……。
最適解で目の前の存在を
殺そう
幸い俺が持っている力はそれを可能にする。
ならば、やるべきことはただ一つだ。
手に持っている短刀を自身の首にあてる……。
では
プレイヤーの意地を見せるとしようか……
短刀を持っている手へ、さらに力を込め──
「ゲームスタートだ」
その言葉を言いきった瞬間、俺の首は地面に転がり落ちるのだった……。
^^^
『一時的な時間逆行を感知しました』
どこまでも真っ暗な世界に、その無機質な声が響いた……。
「へえ……」
その真っ暗な世界には場違いな、真っ白な少女がとある一つの時計を手に取る……。
すると、時計の針が急に動き出した。一秒、一分、一時間と時間をかけてゆっくりと針は巻き戻る。まるで一つの物を探しているかのようにゆっくりと。
目的の時間は見つけたのだろうか、気づいたら時計の針はその時間で止まっていた。
「……ふふっ」
真っ白な少女は、それを見た。何回も……何百回と死んでも立ち止まる事をしない一人の少年の事を。
その少年は死んだとしても、次に生かすため周囲の観察を止めない。
その少年は目の前の敵を殺すために、自身の屍が何度も積みあがったとしてもやめることはしない。
少女はまるで玩具を与えられた子供のように、眼を輝かせてそれを見続けた。
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