第2話 幸せの最中


 俺達が住む教会はエラメルド山と言う山の頂上にある……

 

 だからか教会には人が近づかない。

 

 そのため信者は増えずお金も増えない……信者が増えない為人員が不足し人の住む町へ聖水やお守りを売りに行けない。聖水などを売りに行けない為、この教会の事を町に住む人達も認知しない。

 

 そのためそもそもこの山に教会があるなんてこと自体、知らない人も出始め。わざわざこんな辺境にある教会に来る人も居ない。

 

 その悪循環が続いた結果。あの教会は寂れてしまている。

 

 その解決のために俺はあの教会で作った聖水を、山を下りて麓にある町に聖水や魔獣の素材を売りに行

 っている。

 

 魔獣? 聖水? そんなゲームみたいな話あるわけないだろ……と思う者もいるかもしれないが、この世界はそんなファンタジーがまかり通っている世界なのである。

 

 まぁ、憑依転生している俺自体が、ファンタジーの塊のようなものかもしれないのだが。

 

 とにかくこの世界には魔獣など危険極まりない存在がいるのである。このような事実に俺は当初ゲームみたいな世界に転生した! これなら魔法も使えるのでは? ……と小躍りした。

 

 事実この世界には魔法……他にも稀に使える者が現れるという固有能力と言う力も存在しており、当初俺は小躍りどころか盛大にはしゃぎ回った。

 

 そのはしゃぎようにミア達に熱でも出したか? ……と心配されたほどだ。

 

 子供かよ……と言われるかもしれないが現代社会に生きる男児にとって魔法や魔獣などが存在する世界に、いざ実際に来て魔法が使える……と言われたものなら皆一様に大はしゃぎするものではないだろうか? 

 

 男は皆、成長しても心に中二病を飼っているものなのだ。

 まぁ、そうはいっても未だ前世の自分の事はあまり思い出せていないのだが……。

 

  それはともかく閑話休題

 

 この世界には魔法が存在して、この体の元の持ち主であるシリカ少年はこの世界の住人である……当然、魔法が使えない筈もなく。

 

 いざ使ってみた結果。

 

 身体強化の類しかまともに使えなく、他の魔法も使ってみた結果……大した効果が出なくて若干落ち込んだのは記憶に新しい。

 

 大して効果が出なかったと言っても発動できなかったのではない。

 

 例えば定番の炎系統の最下級魔法を発動してみた結果……他の人達は平均で火炎放射器レベルなのだが、自分はライター程度の火しか出なかったのだ……。

 

 これには俺も気分が大きく下回り、ミア達にやっぱり熱が出たのでは? と、また心配される始末。

 

 今度は稀に使える者が現れる固有能力に期待したのだが……。

 結果はお察しの通り。その後シナシナに枯れた俺はミア達に全力で心配されて、丸一日ベッドの上で拘束される始末。

 

 因みにその時のシアは、シリカもそういうお年頃になったのね……と後方腕組彼女面おじさんの如く、頷いた後。

 

 俺が入っているベッドに突っ込んで来ようとした所をミアに回し蹴りからのロープでぐるぐる巻きにされたて、外へ放り出されていた。

 

 あの変態シスターは扱いはあの教会の皆、共通である。

 

 どうしてあのシスターは、あんな変態になってしまったんだろうか……。俺をあの暗闇から連れだしてくれた時は、あんなかっこよかったのに……。

 

 閑話休題

 

 取り合えず、俺がまともに使える魔法は身体強化のみ。

 そんな中……あの教会に偶然置いてあった武器などを使って俺は魔獣を狩って、その素材を山の麓にある町にいって売る。

 

 そうやって俺は教会の資金稼ぎ……あわよくば教会を町の皆に広めようと活動していた。

 

 その活動を始めて2か月ほど経った頃だろうか。その頃には町の人達にも受け入れてくれるようになり、歓迎されるようになっていた。

 

 それからさらに時間が経ち俺は今日もまた町に下り、聖水と素材を売って食料の買い出しを行っていた……。

 

「よう! 嬢ちゃん今日も買い出しか? その年で働き者だねぇ」

「いえ、神に仕える者として当然のことです。それと嬢ちゃんはやめてください……これでも一応、男ですので……」

「いやぁ……何回も聞いてるけどよ。その見た目で男ってのは、未だに信じらんねえなぁ」

 

 この目元に傷があり禿頭のいかにも堅気ではないであろう、容姿の大男はこの町一番の八百屋の主人である。

 

 見た目に反して気さくで面倒見がよく、俺がこの町に来た当初からよく世話になっている人物である。

 

 そんなおっちゃんと世間話をし始めてから少し経った後、他にも買う物があることを思いだしたのでここらで話を切ることにする。

 

 

「それでは次のところもあるので、これで失礼します」

「おう! またな嬢ちゃん」

「だから嬢ちゃんはやめてくださいと……まあいいですけど」

「おっと……そういえばこれも持ってきな」

「え……いいんですか?」

 

 八百屋のおっちゃんに渡されたのは形が悪いが……それでも食べれそうなニスジンやジグイモ──この世界では名前が違うものだが実際はニンジンとじゃがいもとほとんど差異はない──などの物

 

「おうよ。形が悪いから店には出せないものでな。いつも自分たちで処理しているんだが、いかんせん食いきれなくて。まだ食えるのに捨てるのも、もったいなくてな……よかったらもらってくれ!」

「いっつもよくしてくれるばかりか、こんなものまで……! ありがとうございます!!」

「おう! ……もっとたくさん食って大きくなりな! 坊主!」

「はい!!」

 

 そうして貰った沢山の野菜が入った麻袋を肩に担ぎながら次の目的地に進んでいく。

 

 あのおっちゃんには感謝いっぱいだ……こんなに沢山、貰ってしまって。

 

 今となっては見慣れた町を、道なりにどんどんと進んでいく。すると、すぐに次の目的地にたどり着いた……。

 

「また来たのかい? 今度は何を買ってくんだい?」

「ん~と……じゃあ、角ヤギのお肉をください」

「はいよ~と……じゃあ600ゴールドだね」

「え! そんな安くしてもらって大丈夫なんですか?」

 

 適正価格よりもだいぶ値下げしてもらってこれで大丈夫なのか? ……と聞く。

 

「大丈夫だよ……お前さんを見てると小さかった頃の孫を思いだしてね……そんな年の子が頑張っているんだ。老い先短いばばあにとっては、ちょっとぐらい世話してやりたいもんさ。それにお前さんがくれた聖水には日頃世話になってるんだい」

「いや……それでもこの値段は……」

「何々……気にしなさんなって。逆にこちらからお願いしたいくらいなんだ」

 

 目の前の通常よりだいぶ安く肉を売ってくれるおばあちゃんは見た目通りの好々爺で、八百屋のおっちゃんと同じようにこの町で世話になっている人物だ。

 

「ん~……それではありがとうございます!」

「あいよ! 次も元気な顔見せにきな!」

「はい! ありがとうございました!!」

 

 そんなこんなで目当ての物を買い終えた俺は教会へ戻ろうと進んむ。その道中、出会ったこの町人から「嬢ちゃん痩せてるんだからもっと食べな!」「うちの息子と結婚する気ない? なくてもこれはもらっていきな」「教会の復興がんばりな!!」とあれこれ物や激励の言葉をもらっていく。

 

 この町にはとても良い人ばっかりで、何かと俺の事やミア達の事も良くしてくれている。

 

 この町の人達は優しい人が多くてとてもいい関係を築いている……そのため俺の第2の故郷になりつつあると言っても過言ではないくらいだ。

 

 一部、自分の息子の嫁に……! という人物や、シアのようにセクハラ親父もいるのだが……。

 

 そんなこんなで、今日の収穫もいっぱいでホクホク顔で帰路についていたわけだが……

 

「あ! ……角ヤギのミルク忘れた」

 

 うっかり忘れ物をしてしまった。

 

 そのことに少ししょんぼりとするが……何時までもグジグジしているくらいなら早く戻った方がいいだろう、と思って気を持ち直す。

 

 そうして俺は忘れ物を買いに行くために、先程まで歩いていた道を戻る。

 

 ただ町に戻るだけなのにその道のりは異様な空気に包まれている。それに俺はいやな予感がし始めて止まらない。

 

 先程帰る時には何もなかったのだから、ただの気のせいだろう。

 

 ……とそんなことを思いながら、俺は歩く速度を少し早める……。

 

 

 

 

 

 ──首にかかているロザリオは怪しい色で光っている

 

 

 

 

 

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